上場企業で最も古い松井建設の持続的成長の秘訣
〜「信用日本一」の志を軸に置き、最新技術も活用する〜

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築地本願寺、金沢城、寒川神社御社殿、東長寺五重塔。日本を代表する社寺建築を手がけてきた松井建設は430年余の歴史を誇る建設会社です。得意領域は社寺建築だけではありません。新しい技術にも熱心に取り組み、一般建築でも実績を重ね、何度も経営危機に見舞われながらその都度、進化しています。なぜ危機を成長の機会にできたのか。持続的な成長の秘訣は何か。同社の17代目社長、松井隆弘氏にうかがいました。

経営危機は企業体質を強靭にする機会

創業は1586年(天正14年)。松井建設は上場企業の中では最も歴史の古い会社です。1934年の築地本願寺の建築を足がかりに富山から東京に進出を果たし、社寺建築技術の伝承や技術者の育成に力を入れる一方で、業容を一般建築にも拡大。新しい技術も積極的に取り入れて、総合建設業として確固たる地位を築き上げました。

しかし、その道のりは「山あり谷あり」。大きな危機に直面したことは一度だけではありません。いくたびも難局を乗り越え、その都度、企業体質を進化させてきました。

17代目として2005年に社長に就任した松井隆弘氏は歴史を振り返り、こう言います。
「戦後不況で資金繰りが悪化したときには入出金管理を徹底しました。1970年代のオイルショック時は主力の公共事業の受注が急減したので、民間建築にシフトし、価格競争力を磨き上げました。2007年〜2009年頃の不動産不況時も大変でしたね。デベロッパーの倒産が相次ぎ、多額の不良債権を抱えてしまいましたが、一気に処理し、翌年からは財務をきれいにして出直しました。以降は与信管理を入念に行い、受注についてもきっちりと選別しています」

経営危機を企業の足腰を強靭にする絶好の機会に変えていく。この姿勢は東日本大震災の直後にも見て取れます。東北支店だけでは顧客の対応が難しかったことから、松井氏は全支店に号令をかけました。

「東北支店のワンフロアに全国から派遣された約50人の社員が交代で寝泊まりしてお客様に対応し、非常に喜ばれました。正直、それまで支店長たちはお互いをライバル視するところがありましたが、これを機に『オール松井』として、みんなが同じ方向で取り組めるようになったと思います」

ICTの活用で企業理念を実践する

震災復興が加速した2013年も、同社にとっては大きな転換点になりました。

「この年、復興受注が殺到し、社員不足で顧客対応が困難になってしまいました。このままでは築いてきた信用が損なわれてしまう。それを避けるために原点に立ち還ろうと考えました。規模を追い求めるのではなく、堅実な身の丈経営を志したんです」

受注増という意味では好機ともいえるこの場面で、事業を一気に拡大する選択肢もあったはずです。しかし松井氏はその道を選びませんでした。目先の利益を優先することで顧客の信用をなくすわけにはいかない。そんな強い決意に裏打ちされた経営判断です。

2018年には松井氏は企業理念の刷新に踏み切ります。「人・仕事・会社を磨き続け、建設事業を通じて、社会に貢献する」を掲げました。

「経営環境は目まぐるしく変化しています。環境問題への取り組みは不可欠ですし、コンプライアンスに対する意識も以前とは比べものになりません。ガバナンスの強化、働き方改革も待ったなしです。企業理念を一新したのは、こうした環境変化に対応し、お客様に選ばれ続ける企業を目指すためです」

企業理念を実践する取り組みの一つがICT(情報通信技術)の活用です。同社では2017年から作業所で働く全社員にタブレット端末を配布。施工写真の撮影や各検査記録の記入、最新図面の閲覧などの業務に活用し、効率化を進めてきました。2023年4月からは、より迅速な意思決定や機能強化を図るため、ICT推進室を技術部から独立させて建設本部の直轄に置いています。

欧米諸国ほどBIM(建設する建物の3Dモデルをベースに設計を進めることができる建築設計のソフトウェア)の導入が進んでいない日本ですが、同社は2017年に導入を決め、「仮設BIM」と「施工BIM」の2種類のモデルを使い分けています。

「BIMを駆使してプレゼンを行うと受注率が上がります。壁の位置や内装の変更などをすぐに3Dで視覚化できるのでイメージを共有しやすいのが利点です。社員からも説明に要する時間を短縮化でき、作業所の効率化も図れると好評です」

さらに、RPA(ロボットによって業務を自動化し、効率化を図るシステム)も導入して業務効率化を進めています。CO2排出量の削減については、建築物の負荷低減につながるZEB(エネルギー収支をゼロ以下にするビル)、ZEH(エネルギー収支をゼロ以下にする住宅)の推進をはじめ、CLT(木材を縦と横に交互に重ねた分厚いパネル)を使った木造建築にも取り組んでいます。また、太陽光発電やPPA事業(施設所有者より敷地や屋根などの提供を受け、その施設の電力利用者へ電力を有償提供する事業)に取り組むほか、この8月から東京支店の工事用仮設電力について、実質再エネ電力の活用をスタートしています。

独自技術の開発にも余念がありません。外観を守りつつ、耐震性能を向上させる特許も取得しました。現在、松井建設の建築についての売上構成比は一般建築が90%、社寺建築が10%になりました。一般建築に社寺建築で培った実績とノウハウがもたらす知名度と信頼度を、一般建築の分野で培った技術を社寺建築に活かす。両者の相乗効果は同社の大きなアドバンテージです。

DXを推進し、持続的な成長を目指す

松井氏が同社に入社したのは1989年。長い歴史と伝統を持つ企業を継承する立場として、どのような覚悟と決意で仕事に臨んだのでしょうか。

「松井建設の歴史や伝統の重みを自覚したのは入社してからで、腹をくくって仕事に取り組みました。32歳で役員に就任しました。当然ながら経験不足、知識の浅さを痛感し、数々のビジネス書、哲学書、歴史書を徹底的に読みました。書籍を通して著者の経験を疑似体験でき、多様な視点を持つことができたのは得難い体験です。本を読むたびに自分がいかに無知であるかに気づかされます」

トップに就任したときに松井氏が自らに課した最重要ミッションは「社員の成長と社員の生活を守ること」でした。顧客に喜ばれ、次も選ばれる企業となり、安定経営を実現するためにはいったい何が必要なのか。それには社員との信頼関係こそが不可欠であると考えた松井氏は、日々、社員とのコミュニケーションを図っています。社長就任以来、毎月10日に社内イントラネットで発信している社内報はその熱意の表れです。業界の動向、社会の最新ニュース、感銘を受けた本。社内報の内容はさまざまですが、社員に様々な角度で色々なことに興味を持ってもらおうと、掲載を続けています。

「長々と書いても読んでもらえないので、まずA4サイズの紙で2枚ほどにまとめてから1枚に削っています。日々、業界の状況や話題は変わりますから書き溜めはできません。タイムリーな内容を心がけています」

建設業界には問題が山積しています。資材の高騰、人手不足、職人の高齢化。こうした問題に対処するため、同社は2022年にDX推進部を設置しました。

「データとデジタル技術を活用して、さらなる効率化や生産性の向上を追求します。人口減少や寺離れ、信者数の減少で寺院や神社の経営も年々厳しくなっていますが、品質を上げて受注力を強化し本業を磨き込む方法以外に選択肢はありません。受注が増えれば若手技術者のスキルアップにもつながります。次なる目標は450周年。それまでに企業基盤を拡充していく計画です」

伝統技術を継承する企業というと「守り一辺倒」というイメージがありますが、同社はまったく違います。伝統を守りつつ、時代の流れに抗わずに新しい技術やシステムを貪欲に取り入れ、身の丈にあった経営で持続的な成長を目指す。450年目の松井建設は企業価値をさらに増しているに違いありません。

お話を聞いた方

松井 隆弘 氏(まつい たかひろ)

松井建設株式会社 代表取締役社長

1985年早稲田大学理工学部卒業後、戸田建設株式会社入社を経て、1989年に松井建設株式会社に入社。2005年に同社代表取締役社長に就任。座右の銘は「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」。良い日もそうでない日も含め「人生を楽しむ」を信条にしている。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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