「1日たりとも欠かさず食事を提供し続ける」富士産業が描く、人で選ばれる会社
~次々と施策を打ち続けるグループ年商1,000億円の若き社長の経営哲学~

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病院や介護福祉施設の厨房では、毎日欠かさず食事が作られています。その現場を全国約1,900カ所で担い、1日およそ40万食を供給している富士産業株式会社。1972年の設立以来、医療・介護福祉分野における食事サービスのパイオニアとして業界を牽引し、従業員は1万7,000人を超えます。2023年に29歳の若さで代表取締役に就任した中村仁彦氏に、よりよい会社を未来へつなげていくための経営哲学を伺います。

「相手のために」の文化を土台に、「人で選ばれる」企業を目指す

富士産業の受託先の約9割を占めているのが、医療・介護福祉分野です。一度に施設内の1,000人分の食事を作るといっても、全員同じものを用意すればよいわけではありません。カリウムを控えなければならない人、ミキサー食でなければ食べられない人など、一人ひとりの状態に合わせていくと、1,000食の内訳は数十~数百通りにもなります。なおかつ、毎日異なる献立を、限られた予算と厳格な衛生基準のもとで安定的に提供し続ける。半世紀にわたって積み重ねてきたこうしたノウハウが、同社の専門性の土台となっています。

そして、その専門性を担う「人」の存在こそが「一番の強み」だと、中村社長は語ります。

「当社には、食事を召し上がる方々のことを一番に考える文化があります。『相手のために』をいつも真剣に考えている社員ばかりだから、どんなことがあっても『食事の提供を止めてはならない』という意識が根付いている。そういう人たちが集まっていること自体が、一番の強みです」

献立が日々変わることから食材のまとめ買いができず、予算の上限も決まっているため、材料調達の面での同業他社との差別化は難しい。だからこそ競争優位の源泉は現場を担う「人」だと考え、同社は「人」で選ばれる会社を目指しています。

「お得意先様の施設から『担当の○○さんがよかった』と、名指しでお褒めの言葉をいただくことがあります。当社以上に、担当者を評価していただけることがいちばんうれしい。そういう人材がいる会社なのだと、誇らしくもなります。評価された本人も自信を持って、さらに力を発揮してくれる。そんなよい循環を広げていきたいですね」

“変革”ではない。会社のために続ける施策

中村社長は2017年の入社後、危機管理部門で全国約100カ所の事業所を回り、衛生監査を担当。その後は経営推進本部で経営計画や他社との資本・業務提携に携わり、人事評価制度の見直しや若手の研修も手がけてきました。

社会人向け大学院で経営を学んだ中村社長は「この知識を実際の会社経営に落とし込むべきだ」と感じ、社内で勉強会を立ち上げます。現在は「若手育成会議」として、推薦で集まった若手社員が1泊2日の研修を1年間続けるプログラムに発展。課題提出が1日でも遅れれば次回から受講できない厳しさで、中村社長自身も全日程で参加しています。

「もともと教育制度はあったのですが、もっとやれるはずだと思ったんです。より伝わりやすい表現にしたり、施策として形にしてみたりすれば社内の反応も変わるんじゃないかと。それに、研修を通じて共に苦労を分かち合うことで、互いに信頼できるようになるという考えもありました。社是である『相互信頼』にもつながる取り組みとして研修を企画しました」

受講した社員がのちに事業部長に昇進したほか、受講生の提案から栄養士向けの専門コースの研修が誕生。また、従来行っていた社内の調理コンテストは、調理師が技術と創造性を存分に発揮できる食の祭典「ZEPPIN」として刷新されました。

2026年度には休暇の制度も変更。公休120日に特別休暇と有給休暇の取得義務を加えた「年間休日130日以上」としました。業界でもトップクラスの水準と考えています。

「休暇制度の見直しにより、月に2億円ほどの経費が増える計算ですが、それでも環境整備を優先すべきだと考えました。当社の最大の財産である従業員が生き生きと働けるような会社をつくることは、未来への投資です。従業員に得があるから会社にも得がある。そういう考え方にならないといけないと思ったんです」

こうして次々と社内で新たな施策を打ち出してきた中村社長ですが、一連の取り組みを「変革」とは捉えていないといいます。

「変えることが目的なのではなく、ただ、社員・会社にとってよいかどうかを考えているだけなんです。基準は、まず現場で働く人にとってよいかどうか。次に、会社にとってよいか、面白いかどうかです」

創業者から受け継がれる言葉を、自らの経営哲学へ

先代である父の急逝を受け、29歳で社長に就任した中村社長。継承にあたり、自身が大切にしている3本柱として「人が育つ会社」「コンプライアンスを徹底する会社」「“おいしい食事”を出せる会社」を全社に示しました。

「コンプライアンスは当たり前のことですが、会社と従業員を守るために改めて強調しました。そして、食事を提供するからにはおいしいものでなければ、そもそも召し上がっていただけず、大事な栄養摂取にもつながりません。原価などの制約があっても、おいしいものを食べてもらうための努力や工夫は怠らない。そして、この2つを実現するために欠かせないのが教育であると考えています」

その経営哲学の土台にあるのが、創業者から受け継がれてきた「相互信頼」という社是です。中村社長は就任にあたり、「相互信頼」の背景やそこに込められた意味を自分なりに再解釈し、「縁と運」という自らの経営哲学に発展させました。

「これまで当社に関わった人たちとの『縁』、そういう人たちとつながってきた『運』があって、今があります。社長に就任してから、日々、そう思うことばかりです。自分の実力以上にいろいろなことを経験させていただいており、縁と運が今と未来をつくっていくのだと実感しています」

「ちゃんとした」社長であり続け、未来へ会社をつなぐ

2025年12月、同社は東京・赤坂に和フレンチレストラン「仁饗の香 赤坂」をオープンしました。厨房に立つのは、自社の従業員です。厳しいルールで管理されてきた給食の現場と異なり、料理人がより自由にその腕を振るえる舞台であり、長年BtoBで培った技術を初めて一般のお客様に直接届ける場でもあります。

また、2025年7月には、同業他社とともに一般社団法人フードネクサスジャパンを設立し、中村社長が代表理事に就任。行政への政策提言も始めました。

「給食業界は厳しい状況にありますが、自分たちから発信しなければ、その大変さも魅力もわかってもらえません。そこに自ら取り組むべく、一般社団法人を立ち上げました。会社が長く続くためにいちばん大切なのは、最終決定権を持つ人がちゃんとしていることだと思うんです。『ちゃんと』とは、世の中から認められること。社内だけでなく社外での活動を通じても、私自身がちゃんとし続けなければならないと感じています」

そんな中村社長は、100年企業を見据えて、どんな未来を描いているのでしょうか。

「個性的なメンバーが集まっている会社にしていたいですね。世代交代とは、下の人が上の人のダメなところを直しながら受け継いでいく循環だと思うんです。だからある意味、私がつくった組織に無批判に傾倒するのではなく、『もっとこうしていかなきゃだめだ』と思っている状態のほうが、長く続くんじゃないかと。そのためにも、違う考え方やスキルの人がいたほうがいい。全然言うことを聞かない人がいてもいい。そういう会社をつくっていきたいです」

海外への展開も構想にあるという同社。次なる挑戦を進めながらも、中村社長の視線の先にあるのはいつも「人」です。社会や従業員から末永く必要とされる企業として、1日40万食の安定供給という社会インフラを今日も守り続けています。

お話を聞いた方

中村 仁彦 氏(なかむら きみひこ)

富士産業株式会社 代表取締役

1994年千葉県生まれ。2017年関東学院大学卒業後、富士産業株式会社に入社。危機管理部危機管理課で医療・介護福祉施設の給食の衛生監査を担当し、全国約100カ所の事業所を訪問。その後、経営推進本部で経営計画の策定や他社との資本提携などに従事。2023年に同社代表取締役に就任。

[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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