「一代一菓」の思想を受継ぎ、茶道や花柳界の粋を伝える老舗和菓子店の伝統と挑戦 ~100年企業の経営者インタビュー~

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いつの時代も華やかな銀座において、品格のあるお菓子を生み出し続ける老舗があります。
創業112年目となる『清月堂本店』4代目・水原康晴社長に話を聞きました。

老舗として暖簾を守りつつも、常に時代の風を取り入れ、商品を育てていくことの大切さについて学ぶべき点は多いといえるでしょう。

老舗和菓子店『清月堂』を育んだ、銀座木挽町という土地

銀座でも中央通り、昭和通りを超えたあたりから空気が変わり、7丁目界隈まで来れば喧騒がやみ、しっとりとした風景へと一変します。

銀座の賑わいは、江戸時代に銀を鋳造する「銀座」が置かれたことにさかのぼります。それ以降、幕府御用達の技術職人が集まるようになり、日本橋とともに栄えていきました。また、観世、金剛などの能役者らの拝領屋敷や芝居小屋も立ち並び、商売のみならず芸事の中心地でもありました。明暦の大火や関東大震災に見舞われても見事に復興しました。

そんな銀座の地に創業して、今年で創業112年目を迎えるのが『清月堂本店』です。

「屋号は、創業地の付近に橋が多く、そこから水面に映る月が美しく見えたことに由来します。当時の地名は京橋区木挽町(こびきちょう)。いわゆる、『新橋花柳界』であり、芸者小屋や料亭が多く、いわゆる表の銀座と少し雰囲気が違います。」

おとし文、よもの峰──菓子名に奥座敷の風情を漂わせて

清月堂のお菓子は、おとし文、よもの峰など、風雅な名称のものが多いのが特徴です。味や素材はもちろんのこと、ネーミングにも相当のこだわりがあると言います。

「茶道の先生方が茶会を開く際などに利用してくださいます。茶会ではオリジナルのお菓子を出さなければなりません。そこで我々が新しくお菓子を考えてお持ちし、選んでいただくのですが、ここにひとひねりが必要なんです。秋のお茶会で『もみじ』では安直すぎるので、『竜田姫』などと、洒落を利かせます。」

竜田姫とは日本神話における秋の女神であり、竜田姫が祀られる竜田山は百人一首でも詠まれています。和菓子屋でありながら、こうした知識や教養が求められるのです。

ところで、清月堂には初代の水原嘉兵衛氏から伝えられる「一代一菓」という格言があります。時代の移り変わりに合わせて人々の味覚や好みも変わるため、それにお菓子もそれに合わせて変わるべきという考えのもと「一代につき一つ必ず新しい菓子を作るように」と遺された言葉だと言います。

これに従って先代は「おとし文」、水原社長は「よもの峰」を考案しました。

「『おとし文』は、身分違いから恋心を伝えられない相手への恋文を渡すに渡せず丸めて捨てる……という意味合いを込めたものです。『よもの峰』は、仙人が住む蓬莱山をイメージし、雲間を模した白い和三盆糖を振りかけました。『よも』は、蓬莱山の『蓬』を訓読みしたものです」

家業を継承する前は商社で鉄を扱っていた

すっかりベテランの風格を漂わせる水原社長ですが、次男として生まれたため家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後は商社に勤め、なんと鉄鋼部門を担当に在籍していたそう。数グラムのはかない和菓子とは大違いの、何トンの重量級の世界で活躍していたのです。


「家業を継ぐことになってからは、昼間は会社、夜は夜学の製菓学校という二重生活を数年送りました。社長に知識がないと職人さんと話ができません。それから、30代半ばぐらいから4年半ほど、お得意様の裏千家の先生にお茶のお稽古をつけていただきました。先代である父の姉妹からもお茶や和歌の古い本を借りて読んだりして、季語や日本の伝統・文化についてひたすら学習しました。」

社長としての指針と改革、外にいたからこそ見えてくるもの

現在、和菓子は洋菓子に押され、デパートや百貨店の和菓子コーナーは年々縮小し、お中元などの習慣も廃れつつあり、和菓子業界は苦しい状況にあります。時代に合わせ変化していかねばなりません。そこで「一代一菓」の思想を取り入れています。

「新しい商品を作り、世の中に広くアピールしていかなければなりません。その一環として、2018年の8月に30代前半の女性をプロジェクトリーダーに据え、商品開発を行いました。30代、40代でさえ和菓子離れの著しい中でどうやって買っていただきリピートしてもらうか。それを考えあぐねた結果、これまで社長と一部の職人の2~3人だけで行っていた商品開発を若い女性に任せました。まずはこの層に届くよう、女性のお客様に買っていただけるようにと願っています」

こうしてでき上がったのが、「あいさつ最中」という商品。
清月堂の菓子の中でも、特においしいと評判のあんこを使った日持ちのする商品です。一見するとハート形ですが、よく見ると握手している手がモチーフになっているのが分かります。人と人をつなぐあいさつの場にふさわしい和菓子として考案された一品です。

「商社勤めだったころ、客先へ手みやげのお菓子を持参する機会は多数ありました。そういうときに、『パッケージがもう少し改善されたらいいのに』など、外の立場から見て思っていたことを役立てていきたいです。
そして、今後はお中元などではなく、個人個人の機会に沿ったパーソナルギフトのマーケットを狙いたいところです。誕生日や母の日に名前を入れられる、出産祝い用に出生体重を表記できるなど、細やかなサービスのニーズを感じます。あとは、残念ながら和菓子は見た目が地味なので、SNSで見栄えするような工夫も手掛けていきたいです。」

老舗和菓子店とはいえ、経営者は試行錯誤の日々。そんなときこそ、創業者の思い「一代一菓」の言葉を心に問いかけ、水原社長は魅力ある商品を作りに邁進しています。

お話を聞いた方

水原康晴 様

株式会社清月堂本店 代表取締役社長

1965年東京出身。清月堂本店の次男として生まれ大学卒業後商社に勤務後、家業を継ぐことを決意し、4代目代表取締役社長に就任。「よもの峰」を開発したのち、現在は「あいさつ最中」に注力中。

株式会社清月堂本店
東京都中央区銀座7-16-15 清月堂本店ビル1F
03-3541-5588
営:平日9:30 ~ 19:00 土曜9:30 ~ 18:00
休:日・祝日
https://www.seigetsudo-honten.co.jp/
明治40年(1907年)、現在本店のある銀座7丁目(京橋区木挽町7丁目)で創業。デパートにも出店し、手みやげのほか、茶席などにも使われる品格ある和菓子を製造・販売する。

商品紹介
「用途がわかりやすいお菓子を作りたい」というテーマで開発。商品開発チームのリーダー、パッケージのデザイナーともに女性を抜擢し、名称やデザインをやわらかいイメージに。北海道豊海(とよみ)大納言小豆が味の決め手。12個入り2,204円(税別)など。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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