都市と五輪-第4回 東京五輪2020への都市改造Ⅳ
目次
都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
「都市と五輪」をコラム全体のメインテーマとしてとらえ、各回にてサブテーマを設定しています。全10回にわたりお届けします。
さて今回、何が起こったのかと言えば、少し挙げてみましたが、2015年度に「首都高10号線 晴海-豊洲」が通りました。それから2016年に完成予定だった環状2号線は小池都知事の築地市場の移転延期で、これは2022年位に先送りになっています。未だに虎ノ門から新豊洲までつながっていません。それから一番のビックニュースが、「羽田貨物線の旅客線転用と東京駅直結」で、浜松町・田町辺りから羽田まで海側を通っている“羽田貨物線”という使われていない線路を転用して東京駅までつなげようとする計画です。これは当初2020年に暫定開業、2025年完成という予定でしたが、すべて延期になって、あと約10年後の2028年につながる予定です。あと決まっているのが地下鉄の延伸で、白金高輪-品川間、これはつながります。品川はリニアの発着駅になりますから、2027年辺りから非常に交通量が必要になるということで、つながることが決まっています。あとは先の話になりますが、都心部から臨海部に地下鉄が欲しいということは以前から言われていて、これも交通政策審議会で一応決まっています。
それからあとクエッションマークなのは、まずオリンピックが決まったときに、豊洲から住吉の間をつなげたいと江東区が非常に頑張っていた地下鉄ですが、一時期はブームになったものの、計画は消えました。これはなぜかというと、東京メトロが採算を取れないという理由で乗り気でないためです。あと成羽新線というのが以前からあって、押上と泉岳寺の間に一本通して、成田空港と羽田を1時間でつなぎたいというのがあって、国土交通省の肝入りでしたが、今は何となく話題から消えています。これはなぜかと言うと、上から3つ目の「羽田貨物線の旅客線転用による東京駅―羽田空港直結(2028年)」が決まったからです。明らかに必要性がなくなってしまったわけです。あとはBRT(バス高速輸送システム)がこれから臨海部に通ることが決まっています。青海ではMICE(多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントの総称のこと)整備を行います。カジノは行いません。これらが大体決まっています。カジノについては、既にカジノ法案が通ったという状況で、日本全国で4カ所の候補が上がっていますが、一応3カ所決まることになっているそうです。ほぼ確定なのが大阪と沖縄で、もう1カ所がどこになるかですが、東京はありません。なぜかと言うと舛添前都知事も、今の小池都知事もカジノ反対ですから東京はありません。もし決まるとしたら横浜です。横浜は実は「大黒ふ頭」が候補地になっていますが、滞っています。3カ所目は現時点では決まっていない状況です。
後このままいくと、湾岸部、臨海部ではマンションが増えますが、皆さんご存じの通り、いま、勝どき駅とか豊洲駅へ行くと、朝晩ラッシュで人がすごく並んでいます。要するにこれは計算を間違えたわけです。あれほど人が住むとは思っていなかったために、交通網がキャパシティを超えています。少なくとも臨海地区内にはもっと交通インフラが必要ということです。あとは羽田空港について発着枠の拡大。もう1つ足りないのが、品川・芝浦から臨海に行く本数で、こちらもやはり足りていません。
以上のことが分かっていますが、何ら計画はありません。非常に由々しき状況です。
上述した目玉(羽田貨物線の転用)ですが、当初は2025年と発表されましたが、2028年と3年ほど遅れています。浜松町を過ぎると、田町から貨物線が貨物ターミナルに向かって通っていますが、今は使われていません。これを使うことにしました。さらに貨物ターミナルから羽田空港までの地下を掘ることにしました。当初は貨物ターミナルから貨物線が通っていますので、羽田空港へは地上を通って天空橋まで行けるはずでしたが、実は貨物線がいっぱいで使用できないことが分かったので、急遽JRは地下を掘ることに決めました。ちょうどアセスメントをこれから行うので、まさにこれから掘るわけですが、およそ10年かかります。これが出来上がると、東京駅から羽田空港の地下まで18分、新宿から羽田空港に着くまで23分、羽田空港から湾岸部を通ってディズニーランドに行くまで30分。ですから、国際空港として都心に最も近い都市が東京になるわけです。10年後はすごいことになります。これができると、いまの香港だとか、シンガポールに負けているこの都心から国際空港への接続は、東京がトップになります。おそらく私が行っている都市ランキングにも影響を与えるはずで、これはビッグニュースですが、いかんせん時間が掛ります。なぜかどんどん都心から国際空港への接続は、遅れてきています。
一つ分かっていることは貨物ターミナルから羽田空港の地下を掘ると言いましたが、何が入っているか皆目分からないわけです。これから掘りながらさらに調査することになるわけで、2028年はとりあえず暫定の年ですが、これも工事の進捗具合によっては分からないという状況です。まずこれができると、色々なことが起こります。例えばこれでモノレールは明らかにお客様がいなくなります。ですから今、モノレールはJRが買収していて経営がJRになっていますから、モノレールの東京駅延伸という案も出ています。なぜならモノレールはこのままですと、要らなくなってしまうという不安があるからです。いずれにしろ、京急蒲田と蒲田をつなぐ蒲蒲線などもありますが、それはもちろんつないでも良いですがあまり大きなテーマではないわけで、JRの都心からの羽田空港直結ができればすごいということです。やはりオリンピックがなかったら、この話にはなっていなかったでしょう。
[人気記事はこちら]
著者
市川 宏雄いちかわ ひろお
明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ:
大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
▶コラム記事はこちら