都市と五輪-第5回 東京五輪2020への都市改造Ⅴ

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都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
「都市と五輪」をコラム全体のメインテーマとしてとらえ、各回にてサブテーマを設定しています。全10回にわたりお届けします。

都心と臨海をどうつなぐかですが、いま臨海方面に行くと気がめいるような状況です。なにしろ朝昼晩と人が多くて、豊洲などの駅に行ったら大変です。少なくとも都心から臨海に行く地下鉄は必要なわけです。これが交通政策審議会で認可されましたが、ただ認可されただけでいつ始まるかは具体的に決まっていません。どこを通るのかというと、環状2号線の少し東側の地下を晴海方面へそのまま真っすぐ進むであろうと思われます。そもそも臨海の接続は、ご存じのように有楽町線が大きく東に反れていて、まっすぐ走っていないわけです。以前から中央部に向かう支線を走らせようとする議論もあったわけですが、それができず結局こういう形になってしまっています。今回、新橋辺りから臨海へ行くことが認可されましたが、抱き合わせで違う線が決まっていて、実は現在つくばエクスプレスが秋葉原までで止まっています。つくばエクスプレスの沿線自治体は、以前から東京駅接続をお願いしていましたが、東京都がイエスとは言いませんでした。何百億円も工事費用がかかるにもかかわらず、都にとって何のメリットもないからです。それが今回、臨海から新橋までの地下鉄の認可に合わせて、つくばエクスプレスの東京駅延伸から新橋までも一緒にやるという風に決まりましたから、工事を行うときには臨海から新橋、そのまま曲がって東京駅の脇を通って秋葉原、そしてつくばに行くということが決まっています。これが正式に決定されているわけです。
さらにもっと早くできるのが、白金高輪から品川への接続です。品川もこれから2027年にリニアができると交通網が足りないわけで、都営地下鉄が今1本だけつながっていますが、都心から入って来る線にはつながっていません。白金高輪から品川へは道路拡張したりして土地があるので造り易いということで、これは決まっています。ですからいつ完成するかは言えませんが、リニアの開通に合わせれば簡単にいくということがあるかもしれません。実は何がつながるかというと、白金高輪には南北線(東京メトロ)と、都営三田線が来ています。この線を誰が造るのかの答えは簡単で、東京メトロは“何もしない”というのが今の会社のテーゼですから、結局、東京都が白金高輪と品川をつなぐのです。しかし、つながるとおそらく南北線も合流してくるでしょうから、かなり品川への接続が良くなります。品川にはリニアが発着することになるので、これが1つの改善点です。いずれにせよ、ロンドンなども地下鉄を延々と造っています。東京は東京メトロがもう地下鉄の開発は終わったと言い張っていますが、終わったわけではなく、まだ造るべきところが沢山あるということが、これで分かるわけです。これらがオリンピックに係る、もしくはオリンピック後にできるだろう交通網体系になります。
品川-田町の間には車両基地があって、いま上野—東京ラインができて全部空いていますから、ここで開発が始まります。私が以前にこのエリアの開発の本を書いたのが2012年でしたが、周辺のマンション価格はその後2倍に上昇しています。この辺りにはいろいろな開発余地があって、ますますこれからも栄えるだろうと言われている場所です。おそらくこの辺りはさらに地価が上がっていくだろうと予想されます。すでに新築マンションなどは都心の案件と同じ価格帯になっていますから、だいぶ上昇していますが、依然としてここはポテンシャルの高い場所です。最大のポイントはここから羽田が近いことです。品川から羽田まで約10分で行けますから、そういう意味では非常に良い場所です。あとはリニアの発着。ですから10年後どこがポイントかというと、品川周辺はやはり大きなポイントということになるでしょう。

先ほど言った「環状2号線の延伸」、一体何が起きたかということですが、実は環状2号線というのはちょうど新虎通りの地下を通っています。いま地下から第一京浜のところで地上へと上がっていますが、本来は、そのまま真っすぐ行くとちょうど築地市場のところで地上に上がるわけです。地上に上がって、現在、晴海に向かって橋ができていますけれども、これにつなぐことになっていました。次回オリンピックの2020年までに、これが地下から上がってきて地上へとつながり、この築地市場が全部駐車場として利用されるはずでした。これを全部、小池都知事が妨害した形になりましたから、全部止まってしまったわけです。ギリギリできることは、少なくとも市場の建物を壊すことはできるので、駐車場ができるだろうと言われていますが、この地下から上がってくる環状2号線が実現できません。少し端を曲げて脇に道を造っています。要するに地上走行するわけです。地上走行にすると途中で2本の太い道(第一京浜、海岸通り)が通っていますから信号だらけになって、ここは完全に渋滞が発生します。大変なことが起こるわけで、オリンピックの最中はもちろん、オリンピック後2年位この状況は変わりません。ですから築地市場の工事を延期したことは、こういうところに影響があるわけです。今一番問題になっているのは、選手村がオリンピック後に一般分譲されるわけですが、やはりこれが通らないので、少し分譲を遅らせるとか言っています。こうした玉突きがすごいわけです。
このことは新聞報道などにもありましたが、築地市場をどうするかというと、本当は五輪の駐車場にしたかったわけです。地下トンネルから上がって直結する予定でしたが、仕方がないので暫定道路を脇に造ってつなげようとしています。結局、全通は2023年位を予定していますが、時期未定になっています。ちょっとした政治マターにしてしまうと、こうした玉突きがすごいわけです。この損害は相当な金額です。ですからオリンピック施設の工事費を削ったどころではないレベルで、相当な影響が出ることが分かっています。ここまでがオリンピックにかかわる都市開発・インフラ関係のお話です。

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著者

市川 宏雄いちかわ ひろお

明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ: 大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
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