東京一極集中と地方の存在|第3回 国家運営の仕組みが機能不全を起こしている?地位創生に向けた問題提起

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都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。

ここでこれまでの国家運営の仕組みにふれておくと、「中央政府」「地方」「東京と大都市」という三位一体の関係があり、東京と大都市で稼いだお金を税金として中央政府に入れ、そのお金が交付金・補助金の形で地方に回り、地方は人材を輩出しています。こうして回すことにより、バブル経済までは皆がWin-Winでした。

お金を地方に補填して保たせている

バブル経済まではよかったのですが、産業構造が変化し、第三次産業が国を引っ張るようになりました。現在、産業シェアでいうと、7割5分が第三次産業で、製造業は2割5分です。第一次産業は極めて少ない。だから、第三次産業のスケールメリットがある大都市が肥大していきます。では、地方はなぜ成長しないのでしょうか。それは、第二次産業の要である工場立地が海外シフトをしてしまい、地方での産業立地の機会が減少してしまったからです。

こうした産業構造の変化があったために、バブル経済の崩壊により国家運営の仕組みが機能不全を起こしました。不景気になり、東京と大都市から中央政府に行くお金が減りました。このとき中央政府地方にお金を配る仕組みはすぐには代えませんでしたので、お金はないけれども配らなければならない状態に陥りました。そこで、大量の国債を発行し始めたのです。これが現在の巨額の借金を産む原因となりました。

現在はどうかというと、実はバブル崩壊後に大都市の企業は頑張りました。その結果、収益が上がることで税金の納付額が上がりました。データでいうと、2001年の所得税・法人税・消費税がだいたい30兆円でしたが、2006年にはおよそ6兆円増えています。大都市から中央政府への金の流れが増えました。その一方で、小泉内閣の三位一体改革がなされ、中央政府から地方に回るお金が7兆円あまり減ることになりました。

そこで、これ以上地方が疲弊してしまっては大変だということで、2008年から法人事業税の一部を地方法人特別税として地方に配分し、地方公共団体間の財政力の格差を是正しようとしました。これは2014年には恒久化され、現在は補助金と地方交付税が地方に回されているほかに、東京と大都市は地方に別途お金を支払っています。要するに、従来の国家運営の仕組みが回っていない状態に置かれたのです。本来はこの仕組みを変えなければいけないのですが、とにかくお金を地方に補填して保たせている、これが現状です。

大都市の傘に入った地方は生き残る

これに対応する政策オプションとして、いくつかの議論があります。地方分権、グローバル化、コンパクトシティです。地方分権は一時かなりの盛り上がりを見せましたが、現在ではその盛り上がりはうせつつあります。グローバル化は進んでいます。そして、最も効果が見込まれるのがコンパクトシティです。これは長野県飯田市の例ですが、過去50年間で人口はほとんど変化していませんが、市街地は約4倍に広がっています。

長野県飯田市の例 〜人口・住居の動向〜
◯50年で人口はほとんど変わっていないが、市街地の面積は約4倍に拡大
◯今後30年間で約2割の人口減少が見込まれるため、市は「拡大から維持」を挙げ、拠点集約連携型都市構造を目指している

(国土交通省資料より作成)

市街地が広がると、行政サービスにコストがかかります。コンパクトに集まってもらうしかないのです。しかしそうは言っても、人々は一度住んだ場所からなかなか動きません。これが現在の問題です。

「地方の再生」という政策が5〜6年に一度打ち出されます。地方選挙があるので、その都度、政策が打ち出されます。現在の安倍内閣の政策は「地方創生」ですが、その政策の要である「まち ひと しごと」では、「ひと」が地方の「まち」に行って「しごと」をすることで「まち」が活性化するという考え方です。メニューは豊富です。メニューをつくるのはうまいのですが、それが成功するかどうかは別問題です。実際どうすれば達成できるかというのが依然として課題です。

地方の盛衰に関して先に結論を申し上げると、私は大都市の傘に入った地方都市はほぼ大丈夫だと考えています。東京の傘に入っている関東地方は、おそらく生き残ります。傘がないところが問題で、そこをはっきりさせれば次の段階に進めるのですが、日本社会はそれを言えずに、常に先送りしてきています。現在、衰退していく地方をどこが面倒を見るか、どのようにして支えるか、この対策が必要になっています。

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著者

市川 宏雄いちかわ ひろお

明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ: 大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
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