売上向上にも繋がる!?労働生産性を向上させるオフィスのあり方とは
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2019年4月1日から施行された「働き方改革関連法」により、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定されました。これからの働き方は、長時間労働を前提とした業務の進め方ではなく、決まった勤務時間内で成果を出すことがより重要になっていきます。そのためには、「ノー残業デー」導入に代表される残業時間抑制を目的とする取り組みと、労働生産性の向上を目的とする取り組みを同時に進める必要があります。1日の大半を過ごすオフィスにおいて、残業時間を抑制しつつ、労働生産性を高める働き方を両立させるためには、どのような環境が望ましいのでしょうか?
働きやすいオフィスの実現に期待されている「テレワーク」とは?
「テレワーク」とは、ICT(Information and Communication Technology)を活用した、働く時間や場所にとらわれない柔軟な働き方で、働き方改革実現の切り札とも言われています。
日本で注目されるようになったのは、2011年の東日本大震災を契機としたBCP(事業持続計画)の一環として、首都圏での公共交通機関の運休や計画停電の実施時などにおいて、円滑な業務実施・継続を可能とする働き方と認識されたのがきっかけと言われています。
また、東京 2020 オリンピック・パラリンピックの期間中に予想される鉄道や道路の交通混雑緩和に向けて、政府が職員2万人規模で「テレワーク」や時差出勤を試行すると発表したことや、同時に東京に拠点を持つ大手民間企業に協力を呼びかけたことから、「テレワーク」導入企業の大幅な増加が見込まれることから、「テレワーク」を耳にする機会も増えると思います。
「テレワーク」は、その勤務形態から以下の三形態に分類され、それぞれを効果的に組み合わせることでワークライフバランスの実現や、働く時間や場所にとらわれない柔軟な働き方による業務効率化の実現などプラスの効果が期待されています。
在宅勤務 | 1日の勤務時間のうち、一度オフィスに出勤、もしくは顧客訪問や会議参加などをしつつ、一部の時間は自宅で業務を行う「部分在宅勤務」も該当。 |
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サテライトオフィス勤務 | 所属するオフィス以外の他のオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペース、遠隔勤務用の施設を就業場所とする働き方。 |
モバイルワーク | 営業活動などで外出中に作業する場合。営業職などの従業員がオフィスに戻らずに移動中の交通機関や駅・カフェなどでメールや日報の作成などの業務を行う形態も該当。 |
総務省がまとめた報告書、「令和元年版 情報通信白書」によれば、テレワーク導入企業数は2012年の11.5%から2018年には19.1%と、年による増減はあるものの、着実に増加しています。また企業規模別では「従業員数2,000人以上」の46.6%を筆頭に、企業規模が大きくなるにつれ、導入が進んでいるようです。
【図表1】企業のテレワーク導入率の推移
【図表2】企業のテレワーク導入率(規模別)
「テレワーク」導入に際して留意すべきこととは?
「テレワーク」導入に際しては単に勤務形態を変えれば良いというわけではないことにも留意する必要があります。例えば、紙ベースの業務が中心でオフィス内の自席でしか作業ができないようなワークスタイルでは、「テレワーク」化に伴う通勤・移動時間の短縮や外出時の隙間時間有効活用を実現することがそもそも困難のため、ペーパーレス化や成果の正しい評価方法の確立などを同時に進める必要があります。それに合わせてテレワーカーのワークスペースとして、固定席をもたない「フリーアドレス」や「サテライトオフィス」、「シェアオフィス」、「コワーキングスペース」などを用意しておかねばなりません。
また、育児や介護などでオフィスへ常時出勤することに制約がある方が「テレワーク」を活用するためには、在宅勤務に適した業務の切り出しや勤務時間管理だけでなく、情報セキュリティを高める必要があるなど、周辺の環境整備も重要です。その一方で、働く時間や場所にとらわれない柔軟な働き方となるため、作業進捗状況管理や業務報告のルール化、自身の健康管理など、テレワーカー自身の自律性も求められます。
「テレワーク」の導入で期待される効果は、労働時間削減だけでなく、多様な働き方や生産性の向上、BCP対策などがあげられますが、「テレワークでどのような課題を解消したいのか」という導入目的を明確にしておくことが重要です。その過程で業務プロセスを根本から見直し、そもそも不必要な作業や移動時間・コストの削減を通じて労働生産性を高め、その結果として、長時間労働が解消されるという流れ・イメージが全社的に共有されていることが最も大事なポイントとなるでしょう。
働きやすく生産性の上がるこれからのオフィスのあり方とは?
「働き方改革」の一環として、オフィスを新規移転・拡張すると同時に、オフィス環境を整備する企業が増えています。これまでに触れたように、働く時間や場所にとらわれない「テレワーク」や固定席を持たない「フリーアドレス」などはその認知度向上とともに、今後も導入が進んでいくことでしょう。
しかしながら、「令和元年版 情報通信白書」で紹介されている働き方改革の取組み状況をみると、休暇取得の推進や労働時間の削減目標など、数値目標設定が容易で社内的にも理解されやすい施策から進められている様子も伺えます。同報告書で紹介されている「プラスの変化」では、「労働時間が減少している」、「休暇が取得しやすくなっている」の割合が比較的高い一方で、「マイナスの変化」は、「人手不足が悪化している」、「収入が減少している」など、残業の制限や休暇取得が促進されていながらも、業務の効率化が進んでいない可能性が示唆されると分析しています。
その背景には、潜在的に法令違反となっていた「長時間労働の削減」の是正にフォーカスされた施策が中心となっていた可能性があります。今後は決まった時間内で成果を出すため、スキル向上やその動機付けを果たした上での「労働生産性向上」を実現するための施策の重要性が増すことになるでしょう。
【図表3】働き方改革の取組状況
最近、欧米の企業が相次いで「アクティビティー・ベースド・ワーキング:Activity Based Working(以下ABW)」という勤務形態を導入し、注目を集めていることはご存じでしょうか? オランダのワークスタイルコンサルティング会社Veldhoen + Companyがその創設者であり、世界中でABW導入支援を行っております。
ABWとは、仕事の内容に合わせて、ミーティングスペースや机などの働く場所を自ら選ぶ働き方を指し、同じような机の中からどこを選ぶかという「フリーアドレス」とは異なる概念と言えます。例えば、中断されずに作業に集中したいとき用の専用スペースや、さまざまな発想を生み出すための打ち合わせはソファーで行うなど、フレキシブルに場所を選んで働くことができるのがその特徴です。
ABWの考え方をオフィス設計に取り入れることで、労働者一人一人の生産性や創造性という「労働の質」を高めることができれば、それが所属する部署・部門全体に波及し、その結果、長時間労働の削減だけでなく、企業全体の労働生産性の引き上げにつなげることも可能でしょう。
三井デザインテック株式会社が産学協同プロジェクトとして発表した、「Activity Based Working(ABW)に関する調査研究」では、都内のオフィスワーカー3,000人にアンケート調査を実施し、ABWの効果に関する定量的な分析を行っております。「ABW 型レイアウトは多くの項目で仕事にプラスの影響を与える」との結果が導き出されていることからも、これからオフィスを新規移転・拡張する際にはABWの考え方をオフィス設計に取り入れてみるのはいかがでしょうか?
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。