長寿企業に求められるBCP(事業継続計画)とは?
目次
自然災害が多発する日本。中小企業にとっても、被害を最小限に抑え、事業の継続性を確保するため、日ごろからの備えが重要です。
その基本となる事業継続計画(BCP)の策定について、どのように策定し活用すればいいか、概要をまとめます。
1.毎年のように起こる自然災害の脅威
近年、大地震や大雨、台風などの自然災害が毎年のように起こっています。最近も、台風19号がもたらした記録的な大雨や強風の影響により、東日本を中心に、河川の氾濫や土砂崩れなどの多くの被害が発生しました。
こうした災害は企業活動にも大きな影響をもたらします。生産設備が被害を受けたり、社員の出勤が難しくなったりサプライチェーンが寸断されたり、事業が継続できなくなるのです。中小企業の場合、復旧に手間取るうちに取引を打ち切られる、復旧にかかるコストが膨大にのぼる…などが原因となり、廃業にまで至るケースもあります。
日本列島は大地震の原因となる地殻の活動期に入っているだけでなく、地球温暖化の影響で異常気象が発生しやすくなっているとも言われており、自然災害は今後さらに増加すると予測されています。
自然災害だけではありません。たとえば、倉庫で火災が発生し在庫商品や原材料がすべて焼失してしまう。インフルエンザや新型感染症の大流行で、従業員の大半が1週間以上出社できなくなる。企業としては、こうした緊急事態も想定し、十分に対策をしておくべきでしょう。
2.BCPとは何か?
BCPは事業継続計画(Business Continuity Plan)の頭文字を取った言葉です。これは、自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態が発生した場合において、企業が設備等の損害を最小限に抑え、中核事業の継続や早期復旧を可能とするため、普段から行うべき準備や緊急事態における対応などをまとめておくものです。
非常事態が起こると、製造業であれば工場の操業率が大幅に低下し、小売業では多くの店舗で休業を余儀なくされ、物流なども停止します。
そのなかで企業は、何が起きたのか、何が足りないのか、どこから手をつければいいのか、といったことを調べ、判断し、行動に移さなければなりません。
そこでBCPでは一般に、①緊急事態において優先して継続したり復旧したりすべき中核事業を特定し、②緊急事態における中核事業の復旧時間の目標を定め、③緊急事態において供給できる製品やサービスのレベルについて顧客と予め協議し、④事業拠点や生産設備、調達などについて代替策を用意し、⑤従業員と事業継続についてコミュニケーションを図っておく、といったことが行われます。
こうした準備を行っている企業は、中核事業を維持したり、いち早く復旧したりできることは容易に想像できるでしょう。
3.BCPが必要とされる理由
ただ、実際には中小企業におけるBCP策定率は15%程度(中小企業庁「平成28年版中小企業白書」)にとどまるとされます。また、内閣府が2018年に発表した「BCPに関する実態調査」によると、想定する災害は地震が92%と最多で、洪水(津波を除く)は31%しかありません。日々の業務に忙しい多くの中小企業にとって、まだまだBCPは縁遠い話なのかもしれません。
BCPは何か特別なものというわけではありません。非常事態に備えておくという意味において、例えば、中小企業の場合、経営者が病気やケガで入院したらどうするのか?という問題に対しては、少なからず対策はされているはずです。しかし、これからの時代では、さらに多様性のあるリスクを想定し対策できるかが企業継続の鍵となります。そこで重要となるのがBCPの策定なのです。
現代社会における経済システムは高度化、複雑化しています。中小企業もそのなかに組み込まれており、災害や大きな事故など不可抗力によって被害を受けたとしても、取引先や消費者は待っていてはくれません。なるべく早く、平時と同様の対応をすることが求められます。
価格や納期などの取引条件がほとんど変わらない場合、BCPを策定している会社と策定していない会社のどちらと取引したいと考えるでしょうか。また、実際に取引を継続できる可能性が高いのはどちらでしょうか。
災害や大きな事故に遭って、何も行動を起こさないという企業はありません。どのような企業でも、災害や大きな事故に遭えば、スピードを持って対応しようとします。そのスピードをより速くすれば、取引先や市場の信頼を獲得して従来以上に事業を拡大することも可能になります。そういう意味で、BCPは経営戦略の一環でもあるのです。
4.中小企業におけるBCPのつくり方と運用法
BCPの策定・運用にあたっては、まずBCPの基本方針の立案と運用体制を確立し、日常的に策定・運用のサイクルを回すことが大事です。BCPのつくり方と運用法のアウトラインを見てみましょう。
<中核事業の選定と影響評価>
企業においては大小様々な事業と、それに関わるいくつかの業務がありますが、大災害や大事故など緊急事態が発生した際には、限りある人員や資機材をやり繰りして事業を継続させていかなければなりません。
そのため、どの製品、サービスを優先して供給するか、「中核事業」を選ぶことが第一歩となります。中核事業を選んだら、その事業に関わる購買、製造、在庫管理、出荷といった業務を把握し、その業務に必要な人、モノ、資金などをどう確保するか考えます。
これと並行して、地震、風水害、火災など想定される緊急事態を具体的にピックアップし、それぞれ中核事業がどのくらい影響を受けるのか評価しなければなりません。水害については、各自治体が公表している「ハザードマップ」が参考になるでしょう。
<BCPの策定と事前対策>
こうした情報を整理したうえで、緊急事態における社内体制や行動手順など定め、社内に周知徹底します。取引先などとのすり合わせや共有も必要です。
ただ、BCPを策定しても、机上の空論になっていては意味がありません。そもそも、普段行っていないことを緊急時に行うことは、実際には難しいでしょう。防災訓練などで定期的にBCPを確認し、行動手順もやってみるべきです。
被害を最小限に抑え、復旧を早めるための事前対策も検討します。事前対策にはソフト、ハードの両面があります。ハード面の対策は費用がかかるので、ソフト面から着手するとよいでしょう。
<見直しと改善>
緊急事態は、必ずしもBCPの想定どおりというわけではありません。BCPを策定していても、想定外の事態が発生することは十分ありえます。他のエリアや他社における緊急事態を参考にBCPの内容を常に見直し、継続的に訓練しておくことが必要です。
BCPは一度つくって終わりではなく、常に見直していくことで、本当の対応力が鍛えられるといえるでしょう。
5.まとめ
非常事態はいつ、なんどき発生するかわかりません。具体的な原因や規模も、そのときにならないとわからないケースが多いでしょう。
しかし、BCPをつくり、事前に訓練や準備を行っているかどうかで、被害の程度や復旧のスピードに大きな差がつきます。
経営資源が限られる中小企業こそ、BCPによって万が一の際にも事業を継続できる可能性を高めておく必要があるはずです。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。