生産性向上・経営効率化を支援する「中小企業経営強化税制」を活用するには?~経営者のための「中小企業税制」の基礎知識[第5回]

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目次

中小企業の経営改善をサポートするための国の施策としては、前回取り上げた「生産性向上特別措置法」と並び、「中小企業経営強化法」があります。

この「中小企業経営強化法」における柱が「中小企業経営強化税制」です。一定の設備を導入する際、即時償却、または税額控除の優遇措置が受けられるというメリットがあります。

「中小企業経営強化税制」とは?

「中小企業経営強化税制」は、「中小企業経営強化法」によって設けられている中小企業の経営改善をサポートする制度です。

中小企業等経営強化法はもともと1999年、中小企業経営革新支援法として成立し、数度の改正を経て2016年から現在の名称になりました。

その目的は中小企業が「稼ぐ力」を身につけることであり、条文の第1条にも「中小企業等の経営強化を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする」とあります。

具体的には、国が生産性向上に役立つ取組みを分かりやすく中小企業や小規模事業者に提供し、中小企業や小規模事業者が、生産性を向上させるための取組みの計画(「経営力向上計画」)を策定することを条件に、税金や金融の面で支援を行うというものです。

要件など、一つひとつみていきましょう。

対象者

ここでいう「中小企業者等」とは、「中小企業強化税制の中小企業者等」に該当するものに限ります。具体的には、次のような企業です。

  • 資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人
  • 資本金もしくは出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
  • 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
  • 協同組合等

ただし、「同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人」「2つ以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人」「前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人」は、資本金が1億円以下でも本税制措置の対象とはなりません。

指定期間

平成29年(2017年)4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの期間

指定事業

中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制のそれぞれの対象事業に該当するすべての事業が指定されています。具体的には以下の事業です。

農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、建設業、製造業、ガス業、情報通信業、一般旅客自動車運送業、道路貨物運送業、海洋運輸業、沿海運輸業、内航船舶貸渡業、倉庫業、港湾運送業、こん包業、郵便業、卸売業、小売業、損害保険代理業、不動産業、物品賃貸業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、映画業、教育、学習支援業、医療、福祉業、協同組合(他に分類されないもの)、サービス業(他に分類されないもの)

しかし以下の事業は除外されています。

電気業(全量売電の太陽光発電を含む)、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)、風俗営業法上の性風俗関連特殊営業に該当する事業

対象設備

生産性向上設備のA類型と、収益力強化設備のB類型に分けられています。対象設備の範囲はB類型のほうが広く設定されています。

図表1 中小企業経営強化税制における対象設備

類型 生産性向上設備(A類型) 収益力強化設備(B類型)
要件 生産性が旧モデル比年平均1%以上向上する設備 投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備
確認者 工業会等 経済産業局
対象設備 ◆機械装置(取得価額160万円以上/10年以内)
◆測定工具および検査工具(30万円以上/5年以内)
◆器具備品(30万円以上/6年以内)
※医療機器、データセンター業者の電子計算機を除く
◆建物附属設備(60万円以上/14年以内)
※医療保健業を除く
◆ソフトウェア(70万円以上/5年以内)
※情報を収集・分析・指示する機能有するもの
◆機械装置(取得価額160万円以上)
◆工具、器具備品(30万円以上)
※医療機器、データセンター業者の電子計算機を除く
◆建物附属設備(60万円以上)
※医療保健業を除く
◆ソフトウェア(70万円以上)
その他要件 ・生産等設備を構成するものであること
※事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る建物附属設備、福利厚生施設に係るものなどは該当しません。
・国内への投資であること
・中古資産、貸付資産でないこと
※中小企業庁「中小企業税制」令和元年度版9ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

税制上の優遇措置

具体的な、次のいずれかの選択適用を受けられます。

  1. 即時償却…取得価額の全額につき設備を取得した事業年度の経費にすることができます。
  2. 税額控除…取得価額の7%、または10%(資本金3千万円以下の法人、または個人事業者のみ)を法人税、または所得税から控除することができます。

A類型のほうが申請手続きは簡便&プラスαの税制メリットも

申請は、細かくはA類型とB類型で異なりますが、大まかな流れをみていきましょう。なお、取得予定の設備がA類型とB類型のどちらにも該当するのであれば、A類型のほうが申請の手続きは簡便といえます。さらに固定資産税の軽減を受けられるケースもあるので、A類型の選択をおすすめします。

確認書、証明書の準備

A類型の場合、まずは工業会等に、取得予定の設備が生産性向上設備に該当するか、証明書を発行してもらいます。

一方、B類型の場合、投資計画案を作り、税理士などに投資計画案が要件を満たしているかの確認をしてもらい、事前確認書を発行してもらいます。そのうえで、経済産業局に投資計画と事前確認書を提出して、確認書を発行してもらいます。

担当省庁に「経営力向上計画認定申請書」を提出

事業分野ごとの担当省庁に、「経営力向上計画認定申請書(原本・写し1通ずつ)」「工業会等の証明書、または経済産業局の確認書の写し」「経営力向上計画申請チェックシート」、返信用封筒を提出します。

申請書式は、こちらからダウンロードできます。

経営力向上計画の認定

「中小企業経営強化法」に基づいて策定された「事業分野別指針」を踏まえて、自社にあった人材育成の取組、コスト管理のマネジメントの向上や設備投資など、経営力を向上させるための取組み内容などを記載した事業計画です。これを所轄事業の大臣に申請し、認定を受けます。

経営力向上計画の開始、取組の実行

認定を受けた経営力向上計画に基づく設備を取得し、税制措置等を受け、経営力向上のための取組を実行します。取得設備を事業に使用すれば、確定申告において即時償却、または税額控除の優遇を受けられます。

設備の取得後に「経営力向上計画」の認定を受けることはできる?

設備の取得は、経営力向上計画の認定後というのが基本です。しかし先に設備取得している場合でも、設備取得後60日以内に経営力向上計画が担当省庁に受理されれば、認定を受けることができます。

しかしB類型の場合、設備取得の前に経済産業局に確認書の発行申請をする必要があるので、注意が必要です。

※確認書の入手が設備取得後であってもかまいません。

また取得年度内に、経営力向上計画の認定を受けないと、即時償却、または税額控除の税制優遇措置が受けられません。決算日間際に設備の取得をする場合には、事前に申請スケジュールを確認しておきましょう。

「中小企業経営強化税制」は、前回取り上げた「生産性向上特別措置法」による「固定資産税の特例」と同じように、中小企業における生産性向上へ向けた設備投資において、上手に活用したい制度といえるでしょう。

※内容は、2019年12月時点の情報に基づいて作成されたものです。

※本情報は、法律、会計、税務の一般的な説明です。個別具体的な法律上、会計上、税務上の判断や対策などについては、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に相談ください。

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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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