日本人の覚悟が問われる コロナ後の社会と企業経営②

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※本記事は、『時局2021年1月号「現代を斬る」(発行:時局社)』に掲載された、100年企業戦略研究所 所長 堀内勉へのインタビュー記事です。

日本人の覚悟が問われるコロナ後の社会と企業経営①はこちら

金融業界などでの経験を経て、社会的な課題解決や目的達成という社会的価値実現のための金融、ソーシャルファイナンスと資本主義の研究をライフワークとする堀内勉氏。コロナ禍を乗り切り、自分の人生を生き抜くために求められることを見つめる。

公私融合を実現するには

―― では、 社会にも従業員にも価値のある企業の姿とは。

堀内 「公私混同」という言葉を日本の企業でよく聞かれると思いますが、良い意味で「公私融合」していくべきではないかと思っています。つまり、個人にとって価値あるものと、企業にとって価値あるものが一緒になっていくというのが本来の姿ではないかと思うのです。

これまで日本人は「仕事だから」という理由で、どんな理不尽なことも受け入れてきました。満員電車や単身赴任から過労死まで、ちょっと冷静に考えてみたらとても受け入れられないようなことを耐え忍ぶことが仕事だという固定観念があったと思いますが、それでは21世紀の〝知識産業〟の時代に生き残れない。風邪を引いても休めないという、人間を「機能」や「機械」としてだけしか見ずに、精神を持った生身の「生きもの」として見ない企業は、もはや限界を迎えていると言っていいでしょう。

―― 滅私奉公という言葉もあります。

堀内 われわれの世代というのは仕事と家庭をすごく切り分けていました。「家の問題があるから今日、早退させてください」なんて言ったら、上司や同僚から犯罪者みたいに扱われたじゃないですか。でも本来、生活の上に仕事が成立しているのだから、それっておかしいでしょう?

だから、私も今では仕事とプライベートを区別していません。やりたい仕事しかしていないし、やりたい仕事というのは、生活の延長線上にあるものです。変に切り分けるから、二者択一とか、ゼロサムみたいになるのであって、自分の人生とか生活の延長線上に仕事があって、それが世の中の役に立っている、お金も稼げる――そういう一気通貫なものを、一人ひとりが自分自身で意識して作っていかないといけないと思うのです。〝べき論〟だけで世の中が変わっていけたら、誰も苦労はしません。もしそうなら学者が世の中を仕切ればいいのですが、〝べき論〟が通らないのが人の世の常。放っておいては、なかなかそういう環境にはなっていきませんからね。そこにさらに、勤めている企業の経営者がそういうことを本当に意識してくれたら、素晴らしいことだと思う。

そのためにも、経営者はもっと勉強しなければいけないし、経営者を育てる環境も必要です。個人レベルに換言すれば、皆がもっと勉強しなければいけない。今は世の中の変化は激しいし、経験則だけで乗り切れるほど甘くないのですから。けれど、日本人ビジネスマンの勉強していない様というのは、すさまじいほどです。

――日本の企業のトップは大学院卒が少なすぎるという指摘があります。

堀内 それはもう異常なほどですよ。経営者のほとんどが博士というドイツなどは特別にしても、ほかの国は普通に修士は持っていますからね。

論文をきちんと書く、文献をきちんと読む、人と議論する。そういういうことを含めて、きちんと勉強した人でないと。そして、社会に出た後も、10年に1度くらいは集中的に勉強しないと、変化の激しい今の世の中についていくことは難しいでしょう 。

―― とはいえ現実問題、勉強する時間がとれないという問題も。

堀内 そこは鶏と卵の関係ですけれど、それも「貧すれば鈍する」ですよ。システム自体が非常に非人間的な中でわれわれは生きているのですから、よほど強烈に自覚して生きなければ、なかなか今の世の中を生き抜くのは難しいですよ。

2周遅れを取り戻せ

―― 2020年7月に100年企業づくりをミッションに掲げる企業、ボルテックスの社内シンクタンク「100年企業戦略研究所」の所長に就任されましたが、今後取り組みたいことは。

堀内 AIに仕事を奪われるといった話がよく言われますが、21世紀の先進国での労働は、特に「知恵」が重要な要素になります。この知恵を現役のビジネスマンに身に着けてもらいたいというのが、私の願いです。そのために本を書いたり講義をしたり研究所を開設したりと、座学だけでは決して分からないことを伝えていきたいと思っています。

―― 日本はいつのまにか、世界の成長から取り残されたようになっています。

堀内 戦後の日本のビジネスマンの軌跡を振り返ると、焼け野原から立ち上がった世代の成功体験が強烈過ぎたのでしょう。

あの時に15~25歳くらいだった人たちが、本当に日本を立て直しました。その後をついていったのが団塊の世代で、その下がシラケ世代とか言われた私たちの世代。今存命なら100歳から90歳くらいになっている人たちが死ぬ気で頑張った後ろをついていった世代が、何も新しいものを残さなかったことの結果が現状ということではないかと、自分自身の反省を込めて思います。

そうした経験だけでやってきた時代が日本はあまりにも長過ぎました。1991年くらいにバブルがはじけた後、日本はひたすらコストカットによって経済を立て直そうとしてきました。成長するには売り上げを伸ばすか経費を削減するかしかないわけで、ひたすら経費の削減だけをやってきたのが過去30年でしょう。30年間もそんなことをやっていたら、それは後れを取りますよね。

野中郁次郎先生と竹内弘高先生が、『知識創造企業』を書いて世界的なベストセラーになったのが1996年。あの時は「知識」を創造する企業のあり方が語られたのですが、2020年に出版された『ワイズカンパニー―知識創造から知識実践への新しいモデル』 ではそれが進化して、「知恵」の話になっています。日本のビジネスマンが勉強をせず、「知識」を身に着けないでいる間に、先進各国のビジネスマンは知識を身に着け、さらに〝人間中心経営〟を行う「知恵」を競い始めました。残念ながら日本は先進国の中では2周遅れ。これではとても勝負できないと感じます。

―― まずは知識を、そのうえで知恵を身に着けていく努力が急がれますね。

堀内 とにかく日本のビジネスマンは忙し過ぎて勉強する時間が無さ過ぎます。イメージで言えば、仕事の時間と勉強の時間が半々くらいでよいと思うのですが、多くのビジネスマンは、99対1くらいの時間配分ではないでしょうか。これに家族との時間も含めれば、それぞれが3分の1ずつくらいがよいと思います。もっと先端的なことを言えば、本当は「公私融合」のように、全てが融合して自分のペースで続けられることがベストでしょう。それこそがまさに「知恵」の世界なのだと思います。

そうした知恵を皆さんと共有したいというのが、研究を続けている理由です。そして100年企業戦略研究所の活動を通じ、実践的な知恵を企業経営者の皆さまに学んでいただきたい。今はコロナ感染防止のためZOOMでの実施となっていますが、会場のキャパシティーという制限がありませんし、移動時間等も必要ないことから、かえって多くの方にご参加いただいています。また海外からスピーカーを招くのが容易なのも利点です。

―― そして100年以上続いていく企業を一つでも多くつくっていくと。

堀内 シンプルに言えば、長く続くということは、それだけ世の中から必要とされている企業だと言えます。自然体で長く続いていく企業が多くある社会は、良い社会と言えるでしょう。

―― ありがとうございました。

※時局2021年1月号「現代を斬る」(発行:時局社)より転載

お話を聞いた方

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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