2040年の日本社会の姿とは?~【未来予測】都市と不動産を中心に①

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目次

今年は年明け早々、二度目の緊急事態宣言が発令されることになりました。我々のウィズコロナ生活ももう一年になります、先行きは引き続き不透明です。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染爆発はいつ収束するのか、ワクチンはどれだけ功を奏するのか、東京オリンピックは開催されるのかなど、将来の不確実性をあげればきりがありません。

こうした不透明な世界を、これから我々はどう乗り切っていけば良いのでしょうか。今回は、コロナ後の世界を見通した3冊の本を取り上げて、特に、都市と不動産の問題に焦点を当てて、解説していきたいと思います。

今回、取り上げるのは、『2040年の未来予測』(成毛眞著)、『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』(ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー著)、『パンデミック後の世界 10の教訓』(ファリード・ザカリア著)です。まずこれらの内容について概観してから、私見を述べてみたいと思います。

最初に取り上げるのは、成毛眞氏の『2040年の未来予測』です。成毛氏は、日本マイクロソフトの元社長で、現在は投資運用業の傍ら、「HONZ」という書評サイトを運営している執筆家・書評家でもあります。因みに、この書評サイトは、私もレビュアーとして参加していますので、お時間のある時にご覧になって頂ければと思います。
https://honz.jp/

本書は、発売1ヵ月足らずで既に10万部を突破していますが、YouTuberでオリエンタルラジオの中田敦彦氏が主宰している「中田敦彦のYouTube大学 – NAKATA UNIVERSITY -」でも取り上げられ、非常に大きな反響を呼んでいます。
https://youtu.be/QHPVNOui6Fs

本書の目次を見ると、次のような構成になっています。
第1章 テクノロジーの進歩だけが未来を明るくする
第2章 あなたの不幸に直結する未来の経済――年金、税金、医療費
第3章 衣・食・住を考えながら、未来を予測する力をつける
第4章 天災は必ず起こる

第1章の「テクノロジーの進歩だけが未来を明るくする」は、「たった100年前から信じられないほど世界は変わっている」という項目で始まっていて、100年前の1922年、アインシュタインが来日した時の記述があります。フランスから日本に到着するのに、船旅で40日もかかったこと、京都から東京まで電車で10時間かかったこと、アインシュタインの来日を世間に伝える手段は新聞しかなかったことなど、この100年間でテクノロジーがいかに進化したかが語られています。その上で、「新しいテクノロジーに対して、ふつう、人は懐疑的になる。だからこそ、いち早くその可能性に思いを巡らせられる人にはチャンスがある」と言っています。

それでは、その新しいテクノロジーとは何なのでしょうか?その基盤となるのは通信技術です。現在、我々が利用している2010年に始まった4G(第4世代移動通信システム:4th Generation)は、2020年に実用化された5Gにとって代わられます。因みに、現在のNTT(昔の日本電信電話公社)がアナログ式の1Gを開始したのは1979年です。そして、2030年頃には6Gが実用化されます。

5Gは4Gの100倍の通信速度を実現します。6Gは5Gの10~100倍の通信速度で、しかも同時に接続できる機器の数も10倍になると言われています。こうなってくると、あらゆるモノにコンピューターチップ(半導体)が埋め込まれ、多くのモノが常時インターネットにつながる「IOT」と呼ばれる状態が出現します。

それによって実現できるのが、自動運転、空飛ぶクルマ、無人店舗、遠隔医療、AIを活用した診断技術や薬の処方、ゲノム編集技術を使った難病治療、ワクチン開発のスピードアップ、リアルタイム翻訳、チップを使った自動認識技術などです。成毛氏は、こうした状況が出現することによって、人口減少社会の日本における人手不足も補えるだろうと言っています。

しかしながら、こうした明るい未来だけでなく、第2章の「あなたの不幸に直結する未来の経済――年金、税金、医療費」では、とても暗い将来予測が語られています。日本の最大の問題は、「2040年の日本は老人ばかり」になっているということです。しかも、既に2018年時点で、日本の政府の債務残高は対GDP比で237%という、IMF(国際通貨基金)の調査国188か国・地域中188位と最下位なのです。年金を見ても、65歳以上の支える現役世代は、1950年には12.1人だったのが、2040年には1.5人になります。しかも、日本の人口減少は、既にポイント・オブ・ノー・リターン(復帰不能限界点)を超えてしまっていて、この減少を食い止めるのは最早不可能です。こうしたことから、2040年の年金受給年齢は、恐らく70歳近くになっているだろうと予想しています。

この中で、一点だけ不確定要素として成毛氏があげているのが、今話題の「MMT(現代貨幣理論:Modern Monetary Theory)」です。これは、「政府が自国通貨建ての借金(国債)をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるから、借金を増やしてでも積極的に財政出動すべき」という、新たな貨幣理論です。

国は自国通貨建ての借金をいくら増やしても良いと言われると、直感的にはとても信じられません。しかし、「いくら財政赤字を膨らませても金利は上がらないし、物価も安定している日本はMMTの成功例」と(皮肉交じりに?)評価されることもあり、この理論は真剣に検討してみる余地があると言っています。

こうした中での、株価の先行きについては、「これからの時代はテクノロジーよりも政治が株価を決める」と言っています。ご存じの通り、現状は、GAFA(グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon))に代表される、テクノロジーの巨大企業が株価の将来を決める時代になっています。

しかしながら、この先は、米中の貿易摩擦のような政治問題の方が遥かに大きな要素として立ち上がってくるだろうということです。もし世界の二大超大国が激突するような事態にでもなれば、一企業の業績などより遥かに大きなインパクトがあります。従って、成毛氏としては、資産形成をしたい多くの人には、「株式のインデックスファンド」(ファンドの基準価額がある指標(インデックス)と同じ値動きを目指す運用をするパッシブな投資信託)の一択がお勧めだとしています。もっと分かりやすく言えば、一企業の業績を追うよりは、「その国自体が大丈夫かどうか」という視点でマクロに見た方が良いということです。

連載第2回に続きます。

[参考文献]
成毛眞『2040年の未来予測』,日経BP,2021年
ピーター・ディアマンディス,スティーブン・コトラー『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』,土方奈美(訳),山本康正(解説),NewsPicksパブリッシング,2020年
ファリード・ザカリア『パンデミック後の世界 10の教訓』,上原裕美子(訳),日本経済新聞出版,2021年

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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