会社依存のマインドセットからの脱却を

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「個を重視した多様性の時代」と言われています。しかし、日本社会はまだ、「カイシャ」という制度に依存し、組織に安住したいというマインドから抜けきっていません。グローバルビジネスを熟知した元アクセンチュア代表取締役社長の程近智氏と、100年企業戦略研究所所長の堀内勉が、日本と日本人の課題について語り合いました。

根強い大企業依存と大企業志向

程 日本の大きな課題の一つが、グローバルな人材の育成です。われわれの世代は、リーダーでなくても、とにかく海外に行って知識を得たい、経験を積みたいという人がたくさんいました。ところが、今、積極的に海外に行きたい、世界の舞台で活躍したいという人は約1割ではないでしょうか。多くは「どちらでもいい」という反応です。

女性を中心にグローバルに活躍する日本人は増えています。ただ、それは一部の人に限られていて、トップリーダーだけではなくて、中間層がもっとアクションを起こしていく必要があります。昔に比べれば、SNSをはじめ世界にアクセスしようと思えばいつでもできる時代です。そういうツールをもっと使いこなしてほしいものです。

堀内 私は2015年に森ビルを辞める際、その後のことを考えました。時代は変わり、今は大企業に身を置かなくても、SNSをはじめとするテクノロジーを使えば、個人でも企業にいるのと同じように情報にアクセスできるし、人ともつながれる。大企業にすべての時間を吸い取られるより、個人でやったほうが絶対パフォーマンスがよくなる。そう確信して独立しました。

若い人はもっと早く、最初から世界とつながりグローバルに打って出る人がいます。問題は、まったりしてしまっている多くのミドル層です。日本の国力が衰えているのは、そういうところに一因があると私は考えています。個として活躍している人はいますが、日本全体を見るととても楽観はできません。

程 日本でも、感度も意識も高い人たちは起業しているし、企業に依存しない人もたくさん出てきています。ところが、中間層の人たちはまだ大組織に入って何とか生き抜くという発想から抜け切れていない。それでもいいのだと思っているところが問題です。

堀内 アメリカではそういう大企業志向はないのでしょうね。

程 私は大学がアメリカでしたから、どこかに就職するにしても、それは自分がやりたいことをやるために入るのであって、その後会社を転々とするのは大前提でした。結果的に私はずっと一社でしたが、マインドセットとしては、企業依存ではなく自立です。

堀内 働くということに対する意識が根本的に違うのを感じます。

程 先日、大学を卒業してニューヨークで仕事が決まった女性からアドバイスを求められました。その中身が「NPOを8人で立ち上げたが、どのように運営していったらよいか」です。仕事を始めたばかりですよ。最初からデュアルな働き方なのです。教育も違うし、まわりの人もそうしているからでしょうね。

一方、日本ではどうか。最近、私の周囲で4人の若者が就職活動をしていたのですが、全員大企業志望です。しかも定年までそこで働きたいというのです。大企業に入れば安心――教育や親の価値観の影響が大きいと思いますが、そのへんから変えていかなければならないと思います。

壊れた“会社コミュニティ”

堀内 昭和の時代は企業に依存して生きられましたが、もはやそういう時代は終わっています。日本では、企業がコミュニティとしての役割をずっと担ってきました。企業を破壊すると、本当に路頭に迷う人、精神的に不安定になる人が増えてしまいます。所属していたコミュニティがなくなるからです。そこが日本の最大の問題だと思います。

アメリカは新自由主義で個人主義の国だと思われていますが、じつはそれぞれ地域として自立的な組織があったり、教会によって精神的なつながりを持っていたりするのです。人間は社会的な動物ですから、一人で自己責任で生きろと言われても無理です。みんな何らかのコミュニティに所属して生きるのです。

程 日本では様々なコミュニティが衰退しています。

堀内 コミュニティのあり方を会社というものに統一してしまったうえに、今になって「それはフィクションだよ」と言い始めたわけですから、荒野の中に一人放り出されたようなものです。ベストセラーとなった『人新世の「資本論」』の斎藤幸平さんが「コミュニズム」といっているのは、共産主義という意味ではなくて、コミュニティによってみんなが生きましょうという意味なのです。会社を破壊するだけだと死屍累々になるのは目に見えています。「カイシャ」の解体と社会の再構築を同時にやっていかなければいけない、そこが日本社会の難しいところです。

程 ローカルなコミュニティはどうですか。

堀内 私は今、軽井沢に住んでいて、地方創生がらみでいろいろな活動をしています。地方にいくと、東京とはまったく違うロジックで動いていることがわかります。地方ではローカルコミュニティをしっかりと構築して、そこで自分の足場を築き、仲間とコミュニティをつくって生きている。そういう人たちは、今はグローバルにダイレクトにつながれるから、かなり強いと思います。

東京の大企業に勤めているだけで、「カイシャ」というコミュニティに自分が所属していると思い込むのは危険です。それはフィクション、幻想なのですから。

歴史のダイナミズムから今を見る視点を

程 今の人たちがラッキーな面もあります。兼業も認められる方向ですし、大企業でも最近は中途採用が増えています。人が途中で入ってくることが意味するものは、個が持つ価値観やスキルを差別化する必要がある、ということです。つまり、スキルをアップデートしていれば、新卒で入らなくても行きたい企業にちゃんと入れるわけです。日本以外の企業はみんなそうなっています。スキルを持って上がっていけるし、自分がやりたいポジションを取りに行けます。世界の学生はちゃんとそれに備えていますが、日本の人たちにも「30代ならまだチャンスはあるよ」と私はよく言っています。

堀内 「このままでは日本はダメになる」というような議論が、最近よく聞かれますが、それ自体狭い思考の枠にとらわれた議論だなと思います。

確かに、今の体制はダメになる可能性が大きいでしょう。ではダメになればそこで日本は終わるのかといえば、そんなことはありません。会社はつぶれてなくなることはありますが、よほどのことがない限り、国がつぶれてなくなることはない。万が一よほどのことが起こって国がつぶれてなくなったとしても、そこに人間は残っているわけです。何かがダメになっても、また何かその次、さらにその次のステージがある。そういうダイナミズムをもって、歴史的な視点でものを見ていく必要があるのではないでしょうか。

お話を聞いた方

程 近智 氏 

ベイヒルズ株式会社代表取締役/元アクセンチュア代表取締役社長

1982年スタンフォード大学工学部卒業、91年コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。1982年アクセンチュア株式会社入社、2005年代表取締役、2006年代表取締役社長に就任。2015年取締役会長、2017年取締役相談役、2018年7月相談役に就任。2021年8月同社退任後、9月より現職。現在はビジネス・セクター、ガバメント・セクター、アカデミック・セクター、ソーシャル・セクター、スタートアップ・VCセクターなどにおける活動を行っている。2017年から2021年まで経済同友会副代表幹事、同年幹事。東京大学経営協議会委員、早稲田大学客員教授、数社の社外取締役、顧問なども務めている。

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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