ソーシャルファイナンスとは~ソーシャルファイナンスとは何か?①
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記事公開日:2020/11/06 最終更新日:2023/05/22
事業の社会性に注目した「ソーシャルファイナンス(社会的金融)」が注目されています。「社会的な課題解決や目的の達成にどの程度寄与するか」という視点で、社会的価値・社会的リターンを実現する新しい金融のあり方「ソーシャルファイナンス」を解説します。
ソーシャルファイナンスとは何か
今回は、私が多摩大学社会的投資研究所で調査・研究をしている専門分野である、「ソーシャルファイナンス」について解説したいと思います。
「ファイナンス」と言えば、一般的にはまず「コーポレートファイナンス(企業財務)」を思い浮かべるのではないでしょうか。これは、企業財務に携わった経験のある方ならご存知の通り、営利法人である株式会社の企業価値を最大化するためのファイナンス手法が中心となります。
もう少し具体的に言えば、企業が事業活動を行うに当たって、どのような資金調達が最適なのかを、資金調達コスト、財務の安定性・柔軟性、企業の成長性などを勘案しながら、企業にとっての総合的な資金調達コストであるWACC(Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト)をどう引き下げるか(その結果としての企業価値をどのように最大化するか)という観点から行うファイナンス活動です。
これに対して、今、「ソーシャルファイナンス(社会的金融)」という、対象を営利法人である株式会社に限らず、より幅広く、NPO法人、学校法人、財団法人などの非営利法人も含め、事業の社会性に注目したファイナンスのあり方が注目されています。ソーシャルファイナンスは新しい金融の分野で、コーポレートファイナンスほどしっかりとした定義はありませんが、一般的には、「社会的リターンを実現するための金融」と言うことができます。
【図1 コーポレートファイナンスとソーシャルファイナンスの比較】
「社会的リターン」とは
「社会的リターン」とは、「社会的な課題解決や目的の達成にどの程度寄与するか」という社会的価値実現の視点からリターンを見るものです。金銭的な価値の実現だけでリターンを見るのは簡単ですが、「社会的価値」については誰もが合意できる分かりやすい基準がないため、この統一的な理解をどう形成していくかということが世界中で議論されています。
「社会的価値」の重要な指針となるSDGs
その際に、重要な指針となるのが国連のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)です。2015年9月に「国連持続可能な開発サミット」が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもとで、その成果文書として、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。このアジェンダの中で、人間、地球及び繁栄のための行動計画として、持続可能な社会を目指して採択されたのがSDGsです。
SDGsは、国連加盟国が向こう15年間で達成するために掲げた17の目標と169のターゲットから成り立っていて、具体的には、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー、衛生、エネルギー、都市、気候変動、海洋資源、格差などの残された課題の解決を目指しています。これが、世界中の全ての社会活動に共通の座標軸として据えられることになりました。
http://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/15775/
【図2 SDGsの概要】
パリ協定とSDGsに基づく経済活動が重要に
また、これとほぼ同じタイミングの2015年12月、パリで第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催され、いわゆる「パリ協定」が採択されました。これは、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(合意)で、このパリ協定やSDGsに基づかない経済活動というのは、もはや世界的に受け入れられない状況になっています。
例えば、2017年9月には、国連のPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)*など4つの世界的な機関投資家団体は、気候変動対応を世界規模で推進するための新たな5カ年イニシアティブ「Climate Action 100+」を発足させました。2017年12月にフランスで開催されたOne Planet Summitで正式に活動を開始し、企業に対して二酸化炭素排出量の削減を求めています。
*PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)は、国連が2005年に公表し、加盟国の機関投資家が署名した投資原則
ここでは、機関投資家が投資を通じて、環境問題(Environment)や社会問題(Social)、企業統治(Governance)について責任を全うする際に必要な6つの原則を明示していて、これにより機関投資家は、その意思決定プロセスにESG(Environment, Social, Governance)を反映させることをコミットすることになりました。
ソーシャルファイナンスは「持続可能な金融」の一部
ソーシャルファイナンスも、大きな意味でこうした「持続可能な金融」の一部です。今や金融そのものが社会性や持続可能性を意識しないことが許されなくなっている中で、ESGのように必ずしもpassive(受動的)なだけでなく、よりactive(能動的)に社会課題の解決に関わっていこうというのが、ソーシャルファイナンスの発想なのです。
【図3 事業内容から見たソーシャルファイナンス】
「ソーシャルIPOとは~ソーシャルファイナンスとは何か?②」に続きます。
著者
堀内 勉
一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。
現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。
主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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