Googleの「20%ルール」と「イノベーションのジレンマ」に見る経営戦略とは?

「Googleの「20%ルール」と「イノベーションのジレンマ」に見る経営戦略とは?」のアイキャッチ画像

目次

※百計オンラインの過去記事(2015/06/06公開)より転載

イノベーションとは?

「イノベーション=革新」。最近では、新しい技術の発明だけではなく、新しいアイディアやサービスから、企業や社会に新たな価値観を創造していく意味で使われることも多くなってきました。経営戦略の面から、イノベーションの意味と、そこにあるジレンマ、克服方法についてみていきましょう。

イノベーションのジレンマ

「イノベーションのジレンマ」とは、1997年にハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した企業経営理論です。この理論は、イノベーションが「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」に分かれることを前提に、巨大な優良企業が新興企業に敗北する理由は、そのジレンマにあると指摘しています。

技術や価値観の革新を続けるイノベーションには2つの側面があります。1つは「持続的イノベーション」です。これは、顧客のニーズに合わせて従来の製品や技術の改良を進めていくものです。もう1つは「破壊的イノベーション」です。これは、従来の製品の価値を揺るがす、まったく新しい技術や価値観の創造です。

巨大優良企業の多くは、顧客や株主、投資家の意向を反映しようと合理的に考えた結果、持続的イノベーションに集中してしまう傾向があります。破壊的イノベーションを実現する技術や、やり方が生まれたとしても、それが既存技術や市場を壊してしまうリスクがあることや、コストパフォーマンスの面から、受け入れにくくなってしまいます。

また、破壊的イノベーションは初期段階では市場規模が小さく、不確実性も高いため、大企業にとっては参入価値が無いとみなされ、無視されるケースも少なくありません。そうした理由から破壊的イノベーションの多くは、既得権益を持たないベンチャー企業などによって生み出されることが多くなります。

持続的イノベーションは、ある段階まで来ると顧客のニーズを超えた供給を続けることになります。しかしそうした既存技術の向上が、必ずしも需要があるとは限りません。多くの顧客は、ニーズを超えた既存技術・価値よりも、破壊的イノベーションによって作られたまったく新しい技術や価値に目を向け始めます。

その結果、破壊的イノベーションによって作られた技術や価値に、市場がとって変わられ、持続的イノベーションによって作られてきた既存技術や価値は地位を失い、優良巨大企業が、新興企業の前に敗北してしまうのです。

実際に、携帯電話やハードディスクの登場、デジタルカメラの普及、ゲーム機器の変遷などがこれに当たると言えるでしょう。

「イノベーションのジレンマ」を克服するGoogleの「20%ルール」

近年のIT業界における破壊的イノベーションの最大の成功例に、Googleの台頭が挙げられます。2000年頃までのIT業界は、マイクロソフトがIT業界のトップシェアに昇りつめて以来、持続的イノベーションで技術向上を行い、その座を守り続けてきました。

しかし2000年代中頃に、Googleが「検索エンジン」、「検索広告」といった全く新しい価値観を市場に持ち込み、マイクロソフトはじめ他のIT巨大企業はその先行者利益をGoogleに譲ることとなりました。そして今や、IT業界全体の覇権もGoogleに移りつつあります。

もちろんGoogleも今後、今の地位を守るために持続的イノベーションに重点を置いた結果、新たな破壊的イノベーションに取って代わられる可能性があります。そうした「イノベーションのジレンマ」を克服するために、Googleが行っている興味深い取組みに「20%ルール」があります。

Googleの「20%ルール」とは、「社員は社内で過ごす時間の内、20%を自分の担当外の業務の分野に使わなくてはならない」というものです。一般には、Googleの自由な社風と柔軟な発想の象徴として紹介されることが多い取組みです。しかし、このルールで注目すべきは、任意ではなく義務とされている部分です。

これをイノベーションの視点から見ると、Googleはすべての技術者に対し、「80%の持続的イノベーションと、20%の破壊的イノベーション」を常に要求していると言えます。多くの企業は成功体験から、持続的イノベーションに偏りがちになり、破壊的イノベーションに踏み込めなくなるジレンマを抱えます。Googleの「20%ルール」は、それを克服するための非常に具体的な取組みと言えるでしょう。

持続的イノベーションから破壊的イノベーションに向かう勇気

「イノベーション=革新」は、それ自体を果たすことも大切ですが、それを果たした後にさらに新しい取組みに勇気を持って向かえるかという点も重要です。それを考える上で、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の両面と、そのジレンマ、そしてその克服方法としてGoogleの「20%ルール」について理解しておくことは、経営戦略において非常に意味があると言えるでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ