なぜ不動産に投資をするのか? -コロナ後の不動産投資市場【後編】

本記事は、不動産経済学の第1人者である日本大学教授・東京大学特任教授 清水千弘氏にご登壇いただいた講演会(2021年7 月6 日開催)のレポートの後編です。「不動産暴落説」「オフィス不要論」など皆様の関心が高い話題を取り上げながら、「なぜ不動産に投資をするのか」というテーマで、最新の研究成果に基づいた解説を行っていただきました。

 

不動産市場のナウキャスティング(日々の変化)

前編では、不動産投資の原理原則やリスクについて、ご説明しました。その内容をもとに、実際の不動産市場について数値を見ながら考えていきたいと思います。

不動産の価格には、地価公示や地価調査などがあります。それらの指標が発表される度、私はテレビ番組からお呼びが掛かり解説を行っています。「1年前と比べて」あるいは「先月と比べて」といった足もとの変化を捉える手法を、ナウキャスティングといいます。ナウキャスティングな情報は、とかくマスコミが取り上げますので、振り回されてしまうことが多いと思います。グローバルな市場や日本の市場では、どのような変化が起こっているのでしょうか。

私は現在、マサチューセッツ工科大学のCenter for Real Estateという不動産研究センターの研究員も兼務しています。Center for Real Estateでは、ニューヨークのReal Capital Analysisという会社のビッグデータを用いて、Price Dynamics Platformという世界150都市の不動産インデックスをつくっています。

このインデックスを四半期という単位で見ると、東京のマーケットは直近で価格が少し下がっています。ブリスベン(オーストラリア)やシンガポールでは価格が大幅に上がり、シドニーやサンフランシスコでは不動産価格が大幅に下がっています。次に、年という単位でインデックスを見てみます。東京はわずかですが不動産価格が上がっています。パリやボストンなど著しく価格の上がった都市が多くあります。東京がそれほど上がり切れていないからこそ「今、日本に投資するべきだ」といわれています。5年というスパンでインデックスを見ると、どのようになっているでしょうか。ロンドンや香港よりも、東京の不動産価格が上がっています。また、不動産価格が前のスパンと比較してマイナスになっている都市はありません。10年というスパンでは、どのようになっているでしょうか。東京は香港に少し不動産価格の伸びで負けていますが、見劣りはしていません。コロナで大変だといわれていますが、どの都市も不動産価格はマイナスになっていません。投資家が見ないといけない情報は、5年10年のスパンの情報であって、マスコミが報道するナウキャスティングの情報ではありません。

不動産市場の構造変化(中期的なサイクル)

次に、「コロナの影響がなぜ不動産市場に出てこなかったのか」「これから出てくることがあるのか」という内容について、考えてみたいと思います。

コロナというショックがあったことで、人の流れが変わりました。ビッグデータによって各場所での滞在時間を測定できるようになってきたことから、様々な指標がつくられ、公開されています。東京大学の研究室では、内閣官房からプロジェクトを受託し、滞在時間に関するビッグデータを用いて、消費額を予測する研究を行っています。

その研究結果と、不動産市場の構造変化について、ご説明いたします。

まず、自宅をファースト・プレイスと設定します。私たちはコロナの有無に関わらず、電車に乗ったり歩いたりして、セカンド・プレイスであるオフィス(会社)に行きます。かつては、セカンド・プレイスで9時から18時(遅くて22時)まで滞在していました。そして、居酒屋など良好な人間関係を築く場を提供するサード・プレイスに、職場の同僚や友人たちと行き、消費を行ってきました。しかし、コロナになったことで構造が変化しました。在宅勤務が始まり、ファースト・プレイスにいる時間が増え、セカンド・プレイスにいる時間が減りました。そして、政府の一時的な制限である緊急事態宣言により、サード・プレイスにいる時間が減りました。

2020年4月は、緊急事態宣言が始まり最も消費が落ち込んだ瞬間です。2019年4月は東京の消費が約2.3兆円であったところが、2020年4月には約1.9兆円となり17.9%も減少していました。ヒートマップで表示すると、消費の場所が変わっていたことも明確に分かっています。会社の同僚とお寿司を食べていたのが家族と一緒に家の中でお寿司を食べるようになったり、ステーキハウスでディナーを食べていたのが家の中でステーキを焼いて食べるようになったりと、2020年3月には消費の量と質が変わり始めていました。2020年8月になると、東京都心の真ん中における消費が回復しました。これが、ビッグデータで明らかになった都市の実際の姿となります。

このようにして、コロナ禍における個人消費の落ち込みは、それほど多くないことが分かっています。また、法人税の税収などを見ますと、企業の生産活動は全く停滞していません。この生産活動の中からオフィスの家賃が支払われていることになりますから、ビッグデータで見ると不動産市場への影響は限定的です。ただし、店舗での消費が落ち込んでいますので、ここをしっかりと見ていく必要があることが、現在の不動産市場の見方ではないかと思います。

コロナ禍の今「リーマン・ショックのときのような不動産市場の暴落が起こるのか」についてよく聞かれます。「1990年のバブル崩壊後、なぜ失われた10年が起こったのか」「リーマン・ショックが起こったとき、なぜ世界恐慌になったのか」という事象を考える際、経済学にはクレジット・サイクルという道具があります。2009年にプリンストン大学で清滝信宏教授から「バブルの崩壊の後に何が起こったのか」を教えていただきました。バブル崩壊後、まず初めに起こったのは需要の低下でした。強制的に不動産融資に対する政策的な総量規制が入ったことで、不動産市場が壊れ始めたのが1990年代になります。その後に起こったのは、期待の低下です。バブル崩壊やリーマン・ショックのときに、将来の見通しが暗くなりました。利回りが大きく上昇した結果、不動産の価値が下がる現象が起きました。現在はどうでしょうか。現在は、金融政策の影響もあって、利回りが過去最低であるといわれています。期待の低下の後に起こったのは、生産性の低下です。これも今の日本で起こっていません。つまり、コロナ禍では「ヒステリックな不動産価格の暴落は起こらない」と考えられます。

不動産市場のマクロ変動(長期のダイナミクス)

続いて、マクロ変動についてご説明いたします。金融庁で行った研究で「現在の日本の不動産市場は、ファンダメンタルズの状況から乖離しているものではない」ということを明らかにしました。「貸出要因などの影響があって、特に大都市部の不動産価格が押し上がっているのではないか」という懸念があった中、1980年代に起きた貸出要因であるジャブジャブのお金が流れてくることによってバブルが発生したような現象は現在起こっておらず、また地方都市では人口減少や高齢化が大きく足を引っ張っていることが分かりました。

人口減少や高齢化が進むと、どのようなことが起こるのでしょうか。ウィスコンシン大学マディソン校のヨンヘン・デン教授と日本銀行元副総裁である西村淸彦先生と今月書き上げた論文では「人口減少や高齢化が進むことによって、不動産価格が1/3に暴落する」と予測しています。以前私がシンガポールにいた際にも、日本経済新聞の経済教室で「日本の不動産価格が1/3になり、シンガポールも暴落する」と予測したことがありました。すると、シンガポールのBUSINESS TIMES(日本でいう日本経済新聞のような経済紙)で「清水千弘教授が、シンガポールの不動産価格が30%下がると言っている」という報道がなされました。そのときは、25年間かけて成長を遂げたシンガポールが、リー・クアンユーという建国の祖を亡くし、今後も成長し続けていけるのかどうかという大きな議論をしているタイミングでした。そこに私がこのような問いを投げ掛けてしまったことから、論争が生まれました。そのときの反論は「シンガポールは、多少の不動産需要が減ったとしても海外からの資金流入がある国際都市なので、不動産価格の暴落が起こるはずがない」というものでした。そして私は、その後の2017年の経済教室で、シンガポールの暴落が起こらないことを書きました。ここで「不動産価格が1/3になる」ということについて、詳細にご説明いたします。現在、人口が減って、取引がなくなり、不動産の価格が付けられなくなっている国土がものすごく増えてきています。空き家が増え、所有者不明土地が増え、そのようなところの価格がゼロやマイナスになるようなことをすべてひっくるめると、日本の不動産価格はいずれ1/3になるのではないかと思います。東京は海外からの資金が潤沢に入ってきている都市ですから、不動産価格が1/3になるようなことは起こりません。

それでは、どのようなところから資金が入ってきているのでしょうか。世界の主要な30都市について、資金の入り方を分析したところ、「やはり近接した場所からお金が入ってきている」という結論になりました。そして、2020年の経済教室では、「資金が入ってくると、不動産価格を押し上げる効果が強く働いている」と書きました。

このように考えると、東京のマーケットは、先ほど申し上げたように、人口減少や高齢化の影響は受けません。しかし、地方都市は、人口減少や高齢化の影響を強く受けてしまいます。地方都市の不動産のリスクを手放して、そのようなリスクのないポートフォリオに変えることができるのか、このようなコンセプトについてボルテックスの宮沢文彦社長とお話しして、私の研究と一致すると思ったところです。

日本と距離が近いシンガポール政府投資公社(GIC Private Limited)は、アジアに対して全体の約50%の金額を投資しています。アジア以外には、ヨーロッパとアメリカに投資しています。2010年までアジアにシフトし過ぎたことから、2011年以降アジアのウェイトを下げていましたが、下げ過ぎてしまったアジアのウェイトをもう一度増やそうとしたとき、日本のマーケットに注目したのが最近の動きです。また、カタールも積極的に不動産投資を行っています。カタールは石油でものすごく儲かっていますが、そのような国が将来においても繫栄していくために、国家戦略として不動産を買うという選択をしました。全体の52%をオフィスに割り当てています。さらに、イギリスのウェストミンスター卿は、資産を守るために、グラブナーという不動産投資の専門の会社をつくっています。

なぜ、東京の不動産価格は下がらないのでしょうか。コロナの前から、シカゴ大学のテリー・ニコラス・クラーク教授たちと一緒に行ってきた研究があります。人や企業はどこに集まるのかについて、世界中の都市を調べました。人や企業が集まるのは、多様なアメニティ(住環境の快適性や居住性のよさ)が存在する都市です。コロナで郊外に人が移ってしまったという話もありますが、そこで高水準の教育や医療を受けることができるのでしょうか。そのようなサービスを受けることができないことが分かると、必ず都心に戻ってくるはずです。人間に「長生きをしたい」「幸せに生きたい」という本能がある限り、必ず戻る法則性があることを、我々の研究で明らかにしてきました。

不動産投資におけるキーポイント

不動産投資をしていく際に考えないといけないキーポイントが、3つあります。

キーポイントの1つめは「今後5年から10年で、皆様の事業業績に対して最も影響するものは何であるか、投資をするときに何を大事にしないといけないか」です。事業においても投資においても、トラックレコード(過去の実績や履歴)を大切にしなければなりませんが、それ以上に大切なのは将来に対する投資戦略です。将来に対する投資戦略を皆様がどのように持つかで、皆様のパフォーマンスが変わってきます。

キーポイントの2つめは「今後3年から5年で、不動産投資の決定に最も大きく影響する要素は何であるか」です。どこに投資をするのか、どのような物件タイプがよいのか、融資を引いてレバレッジを掛けるのがよいのかを見極めていかなくてはなりません。また、それらを支える投資インフラやシステムも重要ですが、それらを私たち個人が整えることはできません。つまり、アセットマネージャーやプロパティマネージャーのシステムを使わせていただかなければなりません。その分の表面利回りが棄損したとしても、実はそれが長い目で見たときのリスクをヘッジし、投資のリターンを高めてくれるということは、IRRのパートで知っていただけたかと思います。

キーポイントの3つめは「今後の不動産投資市場に何が必要か」です。ヨーロッパ最大の年金基金Hermesのファンドマネージャーであったルパート・クラーク氏は、2000年代初頭にイギリスのブライトンで投資家を300人ほど招き、「2010年に向けて私たちが付き合っていくアセットマネージャーやファンドマネージャーの条件を言います」とプレゼンテーションを行いました。1つめの条件は、洗練された金融技術(Financial Sophistication)を持っていることです。実はリーマン・ショックなどにおいて、金融技術さえ正しく持っていれば破綻しなくてもよかった企業は沢山あります。前の期に過去最高益を出しながら破綻をしていった企業が数多くありました。2つめの条件は、リサーチをする文化そしてそれを戦略に変換する技術(Dynamic Research and Strategy)です。3つめの条件は、何が得意であるか(Excellence/Specialisation)を見極めることです。そして4つめの条件は、パフォーマンスカルチャー(Performance Culture)です。投資というのは、どのような下手な人でも、マーケットさえよければリターンを上げることができます。見るべきは、平均よりも勝っているのかどうかです。そのようなことを確りと評価し、見直すことが出来ているのかどうかを判断する文化を備えていることが重要です。

不動産投資の魅力やリスクについて、少しでも皆様に感じ取っていただけたら幸いです。

著者

日本大学教授・東京大学特任教授清水 千弘
清水千弘

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授、キャノングローバル戦略研究所主席研究員を経て現職。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 東京大学空間情報科学研究センター不動産情報科学研究部門特任教授、麗澤大学都市不動産科学研究センターセンター長、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会専門委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

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