パーパス経営とは
~ビジネスが存在する本質的な意義とは何か?
目次
いま世界中で語られるパーパス
今、世界中の企業やビジネススクールで、「パーパス(purpose)」というキーワードが語られています。「パーパス」は日本語に直訳すると「目的」ですが、今、ビジネスの世界で議論されているのは、「そのビジネスが存在する本質的な意義とは何か?」という、会社の「存在意義」です。
世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク会長兼最高経営責任者(CEO)は、2018年、投資先企業のCEOたちに対しての「パーパスという意識」と題する年次書簡で、企業はパーパス主導でなければ長期的な成長を持続できないと言及し、2019年の書簡でも同様にパーパスの重要性を訴えました。
2019年の「企業理念と収益」と題する年次書簡では、景気低迷、テクノロジーによる労働環境の変化、未来の不透明性など、市場関係者の不安が高まる中、社会は企業に対して環境や社会課題への対処に多くを期待するようになり、企業に対するプレッシャーもかつてないほど高まってきているとして、次のように言及しています。
「ここでいうパーパスは、単なるキャッチコピーやマーケティングのキャンペーンではなく、その企業がなぜ存在するのか、日々、ステークホルダーに対する価値を創造するために何を行っているのか、といったことを意味します。パーパスは単に利益を追求することではなく、それを達成するための活力であるということができるでしょう。利益の追求とパーパスは矛盾するものではなく、むしろ分かつことができない程に密接に関連しています。」
同様に、2019年、米国の主要企業の経営者をメンバーとするビジネスラウンドテーブルも、株主至上主義との決別のために、「企業の目的に関する声明」を発表しました。ビジネスラウンドテーブルは、アップルからウォルマートまで米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体です。企業トップ181人の署名が入った今回の声明は、次のように締めくくられています。
「どのステークホルダーも不可欠の存在である。私たちは会社、コミュニティ、そして国家の成功のために、その全員に価値をもたらすことを約束する。」
米国の多くの経営者は、地域への貢献や環境問題への対処など、広く社会課題の解決も企業のパーパスとして捉えるようになってきており、この声明もそのような変化を反映させたものとして好意的に受け取られています。
世界的な潮流となりつつあるパーパス経営
こうした経緯から、今やパーパス主導による経営が世界的な潮流となりつつあります。
「パーパス」という言葉が用いられる前には、「ビジョン(vision)」「ミッション(mission)」などの用語がよく使われていました。パーパス、ビジョン、ミッションは、それぞれ異なる意味を持ちますが、経営上の意味合いとしてはどれも近いものです。
ビジョンは、企業が事業を通じて将来的に成し遂げたいことを示したもので、「将来の見通し」や「未来像」と訳されます。ミッションは、企業が「誰のために何の事業を行うか?」を示したもので、「使命」や「任務」と訳されます。
パーパス、ビジョン、ミッションに企業経営上の役割の大きな差異はありませんが、パーパスは「社会における自社の存在目的は何か?」という、「社会にどう貢献しているか?」という社会的な視点を入れているところが、新しい点と言えます。
企業経営におけるパーパスという考え方自体は決して新しいものではありませんが、Y世代(ミレニアル世代)(概ね1980年代序盤から1990年代中盤までに生まれた世代)やZ世代(概ね1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた世代)と呼ばれる新しい世代の台頭や、気候変動などグローバルな環境問題の深刻化から、「社会」という視点を持ったパーパスというものが、今、最も注目されているのです。
パーパスの本質がわかる6冊
【参考文献】
“LETTER TO CEO 2018 A Sense of Purpose”(2018/01/12),Black Lock https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter-2018(2021/08/23検索)
“LETTER TO CEO 2019 企業理念と収益”(2019/01/15),Black Lock https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/about-us/ceo-letter(2021/08/23検索)
“CORPORATE GOVERNANCE Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’”(2019/08/19),Business Roundtable https://www.businessroundtable.org/business-roundtable-redefines-the-purpose-of-a-corporation-to-promote-an-economy-that-serves-all-americans(2021/08/23検索)
著者
堀内 勉
一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。
現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。
主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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