国際不動産投資市場
7-2. Home Country Bias

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目次

日本人が不動産投資する場合、やはり日本に投資をするほうが、さまざまな意味でやりやすいでしょう。日本語を母国語として話し、長く日本に住んでいる日本人なら、日本の不動産市場の慣習やリスクをある程度知っています。取引相手も日本人で、日本の不動産であれば、安心して投資できます。

日本人同士の投資は、売り手と買い手のどちらであっても、外国人との取引に比べて非常に優位性を持っています。日本人がニューヨークやロンドンに行って投資する時には「高値掴み」をさせられてしまうかもしれません。現地の情報を持っていないし、慣習やマーケットの状況をよく知りません。さまざまな理由によって、高値掴みしてしまうリスクがあります。同じ国籍同士の取引とは違ったリスクを取らなければなりません。これを「ホーム・カントリー・バイアス(Home Country Bias)」といいます。

海外投資家の高値掴みをビッグデータで検証

2022年12月に、一橋大学の宮川大介准教授、同大学の植杉威一郎教授と私の3人で、5年ほどかけて研究してきた成果をまとめた論文『Do Foreign Buyers Pay More Than Domestic Buyers?(海外投資家は国内投資家よりも多く支払いますか?)』を出版しました。副題に『Evidence from International Transaction-Level Data(国際的取引レベルのデータからの証明)』と付けたように、国際的不動産投資の3万件を超えるビッグデータを分析して得た結果です。

国際的な資金の流れが、その地域の不動産市場の価格にどのような影響を与えるのかが、私たちの関心事でした。米国の中央銀行総裁にあたるFRB(Federal Reserve Board, 連邦準備理事会)議長を務めたベン・バーナンキ氏が、2005年の論文で「Global Saving Glut(世界の貯蓄過剰)」という問題を指摘したからです。

新興国では経済が伸びていきます。日本の近隣でも、中国の経済成長率が非常に高かった。経済成長にともなう投資資金の受け皿として国内の資源が限定されていたら、中国の投資家はどうするか。当然、海外に資金を振り向けていくでしょう。

もちろん経済成長する過程で国内にも不動産投資するとして、それだけでは受け皿としては小さい、またはリスクが高いと考えれば、カナダやオーストラリア、さらに日本に投資する。経済成長で生じた新興国のマネーが海外の資源が豊富なところに流入していくことになります。

この問題はさまざまなところで報道され、研究も多く出てきました。こうした資金の流れが各国の不動産市場や投資家に与える影響を、一国単位の集計データを使って分析した研究はこれまでもありましたが、私たちは3万件を超えるビッグデータを使って検証しました。

なぜ、国内投資家に比べて、海外投資家は高値掴みさせられてしまうのか。経済学には「情報の非対称性」という言葉があります。売り手は、たくさんの情報を持っている反面、もともと買い手は情報が少ない。その買い手が海外から来たとなると、情報はさらに少なくなってしまう。地理的な距離によって、情報の少なさが助長されて、離れれば離れるほど高値掴みさせられる効果が大きいのではないかと考えられます。

もし買い手が海外投資家だったならば、どのような影響があるのか。もし海外投資家の高値掴みが起こったならば、周辺の不動産市場や不動産価格にどのような影響を与えるのか。この2つを検証するのが私たちの研究の目的でした。

海外投資家が高値掴みする効果は10%以上

不動産の取引データは、ニューヨークにあるリアル・キャピタル・アナリティクス社(RCA, Real Capital Analytics Inc.)が集めているデータを使いました。このRCAも、先に紹介したIPDを買収したMSCIに2021年2月に買収されています。私たちが使用したのは、8つの国の主要都市のデータで、投資家の地域は100カ国におよびます。それぐらい多くの国の投資家が、8つの国の不動産市場に投資しにきているのです。

このデータで「売り手が海外投資家であるかどうか」「その国でどれぐらいの投資経験があるのか」が分かります。立地が分かれば不動産を特定できるので、その周辺へのスピルオーバー(Spillover, 波及効果)も見ることができます。

例えば、東京の不動産市場で海外投資家が買っている物件を地図上にプロットしてみると、どこか特定の地域だけを買っているのではなく、東京全域で投資をしていることが分かります。同様に、シカゴ、ニューヨーク、ロンドン、パリの地図にもプロットすると、世界の主要都市は、多くの海外投資家が不動産を買い始めている市場なのです。

では、海外投資家が国内投資家と比較して高い価格で買っていると言えるのか。当初は高値掴みさせられたかもしれないけれども、徐々に投資経験が増していくと高値掴みさせられる効果は減衰してくのか。さらに、スピルオーバーによって高い価格で海外投資家が買うと、周辺の取引価格も引き上げられてしまうのか。これらを検証してみました。

まず、海外投資家が高い価格で買っているのか。物件から距離が遠くなればなるほど情報の非対称性が高くなることで、実勢価格を押し上げるという研究はこれまでも多くありますが、私たちもビッグデータを使って、それを検証しました。

次に、海外投資家が投資をすることで、どのような影響があるか。投資経験の蓄積が増えてくると、どういう効果があるのかを見ました。不動産価格は、建物の大きさ、築年数、駅からの距離、さらに東京のような都市であれば都心からの距離が重要になりますが、海外投資家かどうか、投資経験の蓄積があるかどうか、この2つだけに注目しました。

私たちの研究では、海外投資家は国内投資家に比べて、明らかに10%以上高値掴みさせられていました。プロが投資したとしても、海外に出ていくのは、それだけリスクが高いということになります。

重要なのは、地元パートナーをいかに持てるか。やはり地元パートナーは投資経験が豊富ですので、統計的にも高値掴み効果は消滅していきます。高値掴みの効果は平均で10%以上と述べましたが、まったく投資経験がないまま海外の不動産投資に入っていくと、ロンドン、パリ、ニューヨーク、フランクフルトなどでは、平均して大体4割ぐらい高値掴みしていました。しかし、投資経験を積んでいくと、その効果は消滅する方向になることが検証できました。

では、スピルオーバーは実際に存在するのか。ある地点の物件を高値で買ってしまったら、周辺の100m以内で不動産取引があった時、価格を引き上げる効果があるかというと、そうした効果はありませんでした。不動産価格の鑑定方法には取引事例比較法がありますが、国内投資家が投資をする時に価格の引き上げに繋がっているかというと、「そのような効果はない」というのが私たちの検証結果でした。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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