生き残る企業のたった一つの条件
〜先回り対応で企業はどんな存在にもなれる〜

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目次

企業におけるインフラのデジタル化は、いまや待ったなしの状況です。価値観は大きく変わり、すべての産業が変革を迫られています。そのような中で、いま、中小企業はいかに経営の舵取りをしていくべきなのか。NECグループの独立シンクタンクである国際社会経済研究所理事長であり、これまで多くの中小企業の現場を取材してきた藤沢久美氏にお聞きしました。

デジタル化に消極的では生き残れない

コロナ禍が収束に近づき、経済活動はようやく正常化に向かいつつあります。人の流れは加速し、ビジネスが再び回り始めました。しかし2023年のいま、国際社会経済研究所理事長の藤沢久美氏は、企業は前例のない深刻な危機に直面していると指摘します。

「世の中のインフラはデジタル化しています。これは馬車から自動車に、手紙が電話に、電話がネットに移行したのと同じ、時代の転換期といえる変化に匹敵します。この変化からはどんな企業も逃れられず、製造業も通信業も、農業も、業種は関係なく影響を受けます。それにもかかわらず、日本はまったく手を打てていません」

海外に目を向けてみると、米国ではデジタル分野のスタートアップが続々と生まれ、中国では国が主導してアグレッシブにデジタル産業を推進しています。東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国も例外ではありません。危機をチャンスに変えようとする動きの中で、新しいデジタル産業が勃興しています。

一方、革命といえるほどの変化を前に動きが鈍いのは日本です。藤沢氏は、中小企業こそ国の動きを待たずに自ら推進していく姿勢が必要だと説きます。しかし、現実はなかなか思うように進んでいません。

「時代が変わるような大きな変化ですが、その認識が浅いように思います。そもそもデジタル化に消極的な企業が多く、周りの様子を窺い、みんながやり始めたら取り掛かろうという経営者が多いのでしょう。この先、取引先の事情も確実に変わってきます。デジタル化の波に乗って先回りで用意をしなければならないのに、現実にはできていない。これが一番の問題ですね」

この変化はすぐに起きるものではなく、数年のスパンでじわじわと迫る変化だと藤沢氏は言います。すばらしい技術を持っていてもデジタル化に対応できなければ、気づいたときには他社と大きな差が生まれているという恐ろしさがあります。こうならないためにも、企業はデジタル化と真剣に向き合っていかなければなりません。

「細かな部品、食品や繊維加工など、『つくる』という点で優位性のある中小企業はたくさんあります。これは日本の中小企業の強みでもあり、誇ることでもあるでしょう。他方で、経営の効率化や人材採用にデジタルを駆使できないと、今後は企業として太刀打ちできない状況に追い込まれるかもしれません」

長い時間軸で未来を描き、先回りを図ろう

未曾有の危機を前に中小企業の経営者が着手すべきこととは何なのか。藤沢氏はこう指摘します。

「長い時間軸で会社のことを考えてもらいたいと思います。この先、会社はどうなっていくのか。どうありたいのか。想像できないのであれば元請けの企業に同じ質問をしてみてください。多くの大企業は10年ビジョンを掲げていますから、取引先の描く未来から逆算して、自分たちの目指す先を探すのもいいでしょう」

車のバックミラーを製造しているある中小企業は、世界中の電気自動車(EV)の急速な普及に危機感を覚えて方向転換を行いました。EVの場合、バックミラーはカメラの画像に置き換わってしまうので製造需要が減ってしまいます。そこで、同社はモーターショーを見て回り最新の情報を集め、その結果、センサー技術を磨く方向に舵を切ることにしたのです。これは未来に備えた転換策の好例でしょう。

高級ブランドのエルメスも、先回りをした企業の一例です。

「世界で初めて鞄(かばん)にファスナーをつけた会社がエルメスであることをご存じですか。馬車に荷物を載せると、実はあまり揺れないので鞄にはふたがあれば十分でした。しかし自動車の登場により事情は一変。自動車の場合、荒れたでこぼこ道では鞄の中身が飛び出してしまうのです。エルメスはそこに目をつけ、鞄にファスナーをつけることで解決しました。そこには、お客様が移動手段を馬車から自動車に変えようという時代の転換期に、自社製品はこのままでいいのかという問題意識がありました。いま、中小企業に求められているのはそうした想像力と、先回りの対応です」

10年先、20年先。変わらなければ生き残れないという事実を厳然と受け止め、「どうありたいのか」「どうあるべきか」を考える。考える時間がないと嘆く中小企業こそ、その時間を捻出するためにデジタルの活用は欠かせません。

「いまは財務の数字を入れればキャッシュフローのシミュレーションができるアプリなど、効率的なツールがいくらでもあります。デジタルの活用によって自由時間を増やし、先回りするアイデアを考える余裕をぜひ、つくってください。この先に何が起きるのかを考えるほうが絶対に面白いはずですよ」

大企業も中小企業も同じスタートラインにいる

その上で、藤沢氏は後継者に事業を託すことも勧めます。

「いまの時代の変化を肌で感じている後継者に一つの部署や子会社を任せ、デジタル化に対応してもらいましょう。ポイントは、子会社を託す場合には親会社の競合になるという覚悟で任せること。完全に独立して変革を起こしてもらうことで切磋琢磨できます。社内に後継者がいない場合には片腕になる人を外から入れてください」

会社に対する愛情は誰にも負けない。しかし、デジタル化の流れの中で自分のノウハウや知識が十分でないと認識するならば、自分より優秀な人材を探して採用する。経営者にはそうした判断も必要です。

探す方法は豊富にあります。例えば転職サイトやクラウドソーシングサイトで自社に欠けているノウハウやスキルを持つ人材を探し、兼業でもいいから雇い入れる。壁打ちとなって相談できる人材を探す。藤沢氏はそうしたところからスタートすることを提案します。

「経営のサブに入れるのは、大企業の中でくすぶりつつも、デジタル革命や事業創造をやりたくて仕方がないと考えている人がおすすめです。それぞれの候補者に1回だけアドバイスをもらってみて、それらの回答からよさそうな人材を判断してください。優秀な人材を確保するにもデジタルの活用は不可欠ですが、苦手な方は助けを借りてください。地方の商工会や自治体にはITアドバイザーが必ずいます。利用できる手段はどんどん使いましょう。また、将来を託す人材ですから、探し出すために時間をかけることにも覚悟が必要です」

中小企業が活用できる手段はほかにもたくさん用意されています。地方銀行の中には、地元企業とスタートアップのマッチングを図り、新しい価値創造に動いているところもあります。中小企業を支援する制度も利用したい手段の一つです。

「助成金や支援金など、中小企業には使える制度が潤沢にありますから、まずは動きましょう。動いていくうちに自分のしたかったことが見えてくることもありますから、いまは闇雲にでも動いたほうが絶対に功を奏します」

自ら動いて企業を先導し、時代に求められるものを提供する。これこそが経営者の役割です。最後に藤沢氏は中小企業の経営者にこんな力強いメッセージを発しました。

「中小企業はいままで以上にチャンスがあると思います。誰もが新しいインフラに対応しなければならないので、言ってみれば、大企業もスタートアップも中小企業も同じスタートラインに立っている。いま存続しているということは他にはない強みがあるということですから、まずはなりたい姿を明確に描き、強みを生かしてチャレンジしてください。どんな存在にもなれる時代ですよ」

お話を聞いた方

藤沢 久美 氏(ふじさわ くみ)

国際社会経済研究所 理事長

大阪市立大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1995年に日本初の投資信託評価会社を起業。99年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画し、13年から22年3月まで代表を務めた。政府各省の審議委員、日本証券業協会やJリーグなどの公益理事といった公職に加え、静岡銀行や豊田通商株式会社など上場企業の社外取締役なども兼務。自身の起業経験を元に、NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターとして、全国の中小企業の取材を経験。国内外の多くのリーダーとの交流や対談の機会に積極的に参画し、取材した企業は1,000社を超える。20年3月に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を首席で修了。22年4月、NECグループの独立シンクタンク国際社会経済研究所の理事長に就任。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
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