金融危機と不動産市場
9-1. 不動産市場との連関を理解する

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目次

今回、金融危機と不動産市場の関係について考えます。直近では2008年に発生した「リーマンショック」と言われる金融危機がありました。21世紀に入って5年くらい経ったところから世界の不動産市場が過熱状態になったのですが、原因はサブプライムローン問題でした。アメリカを中心として低所得者の住宅の取得者に対して住宅ローンを提供し、住宅を持たせる政策を促進したのです。

その結果、アメリカの住宅価格は高騰したのですが、何か別のショックが1つ加わると、市場は崩れ始めます。こうした現象は、第6回の不動産価格のマクロ変動でも解説しました。ショックが加わってデフォルト(債務不履行)が起こり始めると、それが連鎖してマーケット全体に大きな影響を及ぼします。1つの出来事をきっかけに、金融危機へと波及し、それが世界恐慌にまで伝播することを、私たちは歴史の中で何度も経験してきました。

不動産市場との連関を理解する

金融政策が金融市場を通じて影響を及ぼし、不動産市場がどのような形で変化していくのでしょうか。その連動性を見ていくことにしましょう。

ダイレクトチャネル(直接経路)を考えると、金利が低下すれば、住宅ローンの利払いのコストは減少します。逆に、金利が上がれば、利払いのコストは増えます。金利が下がって、住宅の利払いのコストが低下した場合、住宅需要を生み出します。従来のコストであれば、住宅を買うことができなかった人たちが住宅市場に参入し、住宅価格が上昇していくというメカニズムが働きます。

住宅価格の増加が、建設コストの上昇を上回れば、住宅の供給量は増加していきます。これは米国の経済学者であるミスキン氏の2007年に公表されたNBER(National Bureau of Economic Research, 全米経済研究所)の論文などで明らかにされています。

住宅価格が増加する場合、ダイレクト(直接的)な影響だけでなく、インダイレクト(間接的)なチャネルによる影響も考える必要があります。

住宅価格が増加した場合、家計の純資産が増加します。それによって家計のデフォルト(債務不履行)確率が減少します。万一、デフォルトしたとしても、金融機関が債権回収できる金額が違ってくるので、借入制約が緩和し、消費や投資が増加していきます。

このように、理論的には「チャネルを通じて、金融政策や金融市場の変化が不動産市場に影響を及ぼす」と考えられるのですが、実証的にどのような結果が起きているかを調べる必要があります。さまざまな研究者が各国ごとに調査しています。

チャネルの種類と効果

チャネルを通じた効果には、どのようなものがあるでしょうか。

「金利チャネル」では、金利が下がることで投資が増えて、その結果としてGDP(国内総生産)が上がっていく。

「為替チャネル」もあります。金利が下がると為替レートが下がり、為替レートが下がると輸出が増えて、その結果としてGDPが上がります。

「リスクテイキング・チャネル」は、金利が下がると自己資本が上がり、自己資本が上がれば融資が受けやすくなってGDPが上がります。

「バランスシート・チャネル」は、金利が下がると自己資本が上がり、借入制約が下がって投資が増えて、GDPが上がる。

このような形でさまざまなチャネルを通じて、不動産市場またはマクロ経済に影響を与えていくことになります。

住宅市場へのチャネルの場合は、金利が下がると、ダイレクトにはユーザーコストが下がって、住宅価格が上がり、GDPが上がります。

インダイレクトには、金利が下がれば株価が上がり、家計が保有している資産価値が上昇し、借入制約が下がって、そして住宅に対する支出を増加させようと行動します。その結果として、GDPが上がるという循環になります。

住宅市場への影響に関する国際比較

次に、不動産市場と実体経済の連動を考えると、金融政策の経路として住宅市場に着目した分析が各国で進められています。

ヴィルヘルムソン氏の2020年の論文を見ると、スウェーデンの金融政策について1993年から2018年のデータを用いて分析しています。この研究では、金利が変化すると、住宅価格またはGDPが変化をもたらし、家計の純資産の増加が、住宅の投資及び住宅価格の上昇に繋がることを明らかにしています。

リアコビロ氏とミネティ氏の2008年の研究では、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、イギリスを対象として分析をしています。金利が変化すると、住宅価格に変化をたらすことは先の論文と同じですが、各国の制度的な側面が違うために、金融政策がどういう経路をたどって住宅価格に影響を与えるかは異なることも分かってきました。

ラハル氏の研究では、不動産担保ローンの大きい国ほど、金融政策の影響が大きく出てくることを明らかにしました。

ローゼンバーグ氏の2019年の論文では、北欧諸国のスウェーデン・デンマーク・ノルウェーを対象に、非伝統的金融政策が住宅市場に及ぼす影響を分析しています。金融政策による影響の程度は、住宅市場がどれぐらい効率的であるかによって異なる変化がもたらされるとしています。

国際比較を行うことで、ファイナンシャルアクセラレーターが機能しているかどうかや、LTV(Lone to Value, ローンとバリューとのレバレッジの大きさを見る指標)の大きさによって効果が違うといった分析が行われています。

金融政策による住宅市場への影響が異なる要因

金融政策が、住宅市場に及ぼす影響が異なる要因には、金融政策のタイミング、住宅市場の発展度合い、ホームエクイティローンの普及状況があります。

ホームエクイティローンを簡単に解説すると、3,000万円の家を買うのに、2,800万円のローンを借りた場合、負債は2,800万円ですが、3,000万円の価値がある資産を保有しているので200万円の余力があります。教育資金や車の購入などの新しい資金需要が生じたときに、この200万円を担保とすることができます。金融機関は債権回収リスクが小さいので、通常ローンよりも低い金利で融資してくれます。

最近の研究では、中国の不動産市場に注目が集まっています。

中国の市場は、これまで著しく成長を続けてきましたが、中国は国土も広く、さまざまな言葉を使う民族が集まっています。各都市の発展度合も違っているので、金融政策の効果も各都市によって違ってきます。北京や上海のようなファーストティア(first-tier, 第1階層)に入る都市と、中核的な都市や地方都市では、まったく効果が変わってきます。

アメリカでも、住宅市場に対する金融政策の効果を見ようとする研究は多くあります。国レベルの分析では、金融政策が住宅価格や住宅投資に影響を及ぼしているのですが、州レベルで見た場合、高齢者や人口が集中している州や所得の不平等が大きい州で金融政策の効果が大きくなると報告されています。貧困率が低く教育水準が高い州や、固定産税が高い州では、金融政策の効果が小さくなるといわれています。

日本でも、同じような研究が行われており、17カ国を対象に国際比較し、高齢化が進捗している日本では、金融政策の効果は小さいことが明らかになっています。

景気を刺激するため金融政策によって金利が低下すると、住宅のユーザーコストが低下し、家計の純資産や担保価値が増加することで、住宅価格や消費の上昇をもたらします。しかし、その効果は、各国における住宅市場の発達度合いや、都市の違いなどで異なります。金融政策は、国全体に一律に影響を与えますが、地域ごとにどのように影響を及ぼすのか、そこが住宅政策の難しいところなのです。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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