不動産市場におけるDX
12-3. 不動産市場におけるDXの推進②

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目次

不動産市場におけるDXの推進①はこちら

AIと人間の分業をどう進めるのか?

世界に新しい技術が生まれてきた際、日本での業務工程を考慮しながら、どのように産業DXを進めていくのかが重要です。

AIは万能ではありません。人間にも機械にも、それぞれに得手不得手があります。経営者は、それぞれの長所と短所を理解することから始めなければいけません。重要なのはAIに代表される「機械」と「人間」が協力し、予測の精度を上げ、生産性を高めていくことです。つまり「分業」です。

経済学者のアダム・スミスは、1776年の『The Wealth of Nations(国富論)』で、分業の理論を提案しました。このときの分業は、人間と人間の分業、それを支えるベルトコンベアのような機械を想定していました。今では、人間とロボットの分業など、分業の組み合わせが多様化してきています。AIは機械を使って予測を行うことを目指しています。しかし、社会システムとして人間が最終的に判断を下さなければならない問題も多くあります。それらを踏まえて、産業を作っていきます。

AIをツールとして活用するには、仕事、職業、戦略ではなく、「タスク」単位で考えていく必要があります。タスクは、決断の集合です。決断は、データに基づく予測と判断によって下されます。業務ごとに、どのような決断が行われているのか、どのようなタスクがあるのか。それらを分解しながらワークフローを再設計することが求められます。

以前、不動産仲介業の業務フローを売り側29工程、買い側20工程に分解しました。その分解したタスクの中で、機械と人間の分業をどう進めるのかを考えました。この際に重要なのは、テクノロジーは人を強くし、AIは人間の力を変えるということです。

多くのタスクを機械が引き受けて仕事が強化されるようになれば、AIは人間の仕事を代替してしまうことも出てくるかもしれません。そこで、機械によって不要になるタスクが出てくれば、人間に空き時間ができることで補充するタスク、人間がやらなければいけないタスクに変更すればよいのです。

タスクの評価も変化していきます。私が学生時代には「お金を数える」ことが銀行員の重要なタスクでした。しかし、今ではお金を数える能力は必要ない。お客様のところに行ってお金を数えて集金してくる仕事がなくなったからです。タイピングする能力も、私が学生のときはワープロ(ワードプロセッサー)という機械があって、授業でタイピングを習っていました。当時はタイピング能力には正確性が求められましたが、今ではそうではありません。タスクが代替されることで、人間には違う能力が求められるようになります。

AIに任せた方がよい仕事、任せられない仕事

機械と人間が分業する際、どちらが得意かだけではなく、人間のほうが得意だけども人間がやりたくない仕事もあります。危険が高い仕事は、人間ではなく、機械に代替させたほうがよいですし、人間の感情が邪魔してしまうような仕事もあります。

私が関与したケースとして、ナースのローテーションシステムの開発があります。AIを使って最適化できるシフトボードという仕組みを応用して作りました。

ナースのローテーションを組むのは、熟練した看護師長の方々が得意としています。ただ、コンビニのパート・アルバイトとは違い、ナース1人1人の能力や性格を理解し、この日は非常に危険な患者さんがいるので、熟練したナースに入ってもらうことなどを考慮する必要があります。しかし、その結果を見たナースの中には、ある看護師がすごく贔屓(ひいき)されている、非常に楽なところにシフトが集中していると思ってしまう人もいます。平等にローテーションを組んだつもりでも、批判されてしまうことがあるのです。

それをAIが行ったのであれば、機械だから仕方がないと受け入れてもらえる場合があります。人間のほうが上手に行えるところを、感情の入らないAIが解決することもありえます。

一方で、機械が得意でも、まだ任せられない仕事もあります。有名な「トロッコ問題」です。

トロッコ問題は、制御不能になったトロッコを別の路線に切り替えられるに自分がいたとします。このままトロッコが走っていくと、5人の作業員が死んでしまう。もし自分が線路を切り替えれば、別の1人の作業員の命を亡くすだけで済みます。しかし、トロッコの向きを変えることは自分がやっていいことなのか、やるべきことなのか、という判断が求められるケースです。

自動車の自動運転では、現時点では人間が運転席に座ることを義務づけて、機械に倫理的な選択を行わせたうえで、人間が関与する余地を残しています。これは、合理的な判断は機械のほうが得意である一方で、合理的に判断させる基準を埋め込む倫理的な問題が生じるからです。

もし仮に自動運転が認められるようになれば、スクールバスの運転手という仕事がなくなってしまうのではないかと言われています。

マイケル・オズボーン氏というオックスフォード大学教授は『Future of Employment(雇用の未来)』という論文を、今から10年前の2013年に書きました。AIの浸透によって仕事が失われる確率を出し、非常に多くの仕事が失われるという研究で注目されました。その中で、スクールバスの運転手の仕事は、今後10年から20年間に自動化される確率は89%と書いていました。論文発表から、すでに10年経ち、現在でもスクールバスの運転手はいますから、現在から10年経った先かもしれませんが、自動運転によってスクールバスの運転手は必要でなくなるという予測でした。

しかし、ここで重要なのは、スクールバスの運転手に求められるタスクです。スクールバスの運転は、運転することが求められているわけではありません。園児や生徒を自宅の近くや前から学校に安全に届けることがタスクです。自動運転によって運転手のタスクがなくなったとしても、園児や生徒を安全に届けるためにバスの中で教師のように振る舞い、子どもたちに目を向けなければなりません。運転する能力ではなく、教師のような役割が求められているのです。

将来的には、AIが運転という「タスク」を奪うかもしれませんが、教師としての能力が高い人たちがスクールバスの運転手となっていくでしょう。同様に、不動産の営業マンも、将来的に必要とされているタスクが変化する可能性があります。従来はマーケット感を正しく判断できる人がよい営業マンと言われてきましたが、コミュニケーション能力が高い人がよい営業マンと言われていくかもしれません。

企業経営者がなすべきことは何か?

これからの経営者は、まずはAIと人間の役割を決め、そして企業としての向かうべき海図を作っていくことが必要です。

テクノロジーの進化は、業界だけではなく、社会を変えてきました。AIなどの新しいテクノロジーは第4次産業革命を起こすと言われ、確実に進んでいくと予想されます。経営者は、中長期的な舵取りをするために長期的なビジョンを描き、航海に必要な正確な海図を作って戦略を策定していくということです。

経済にとってAIは一体、何であるのでしょうか。AIと機械学習の進化を見ていくと、この新しいイノベーションは、過去に発明された素晴らしいテクノロジーに比肩するものです。電気や車、プラスチック、マイクロチップ、インターネットなどと同じぐらい、イノベーションを起こすと予想できます。

経営者が、役員会でAIを重要議題にするのはいつか。私は、いくつかの企業でAIの導入を進めてきましたが、必ず旧来の役員からの反対に遭ってきました。AIが意思決定できない自分の存在を脅かし、これまで役員に求められてきた能力がAIによって変化してしまうためです。

企業には、さまざまなジレンマやトレードオフが存在します。その不確実性を減らすことで解決できる類の問題であり、どこにAIという機械を導入するのかが大切です。AIを導入する組織改革によって、本当に組織が強くなるのか、弱体するのかは設計次第です。

不動産の価格査定をAIに任せたとき、マーケット感がまったくない営業マンが本当に不動産流通業の世界で活躍できるのでしょうか。集客やエスクロー業務をまったく知らない営業マンが、本当に強い営業マンなのでしょうか。このようなことを、慎重に判断していく必要があります。

短期的な成果、長期的な成果の間にはトレードオフがあります。下請け企業にどこまで業務を頼るのかは、企業を成長させていくうえで常に判断してきたことです。これまでも「人と人との分業」、「企業と企業との分業」を経営者は判断してきました。

AIとの分業に反対することはまったく必要なく、これまで判断してきた「人と人との分業」の分業先に「機械」を入れればよいだけです。これまでも別の企業にアウトソースする判断をしてきましたので、アウトソース先としてのAIという機械を考え、役員は今後も重要な役割を担い続ければよいのです。

AIと共存する社会を実現するには?

いつ、AIを導入するのかも、考えなければなりません。自社に最適にカスタマイズしたAIを作り上げるまでには時間が掛かります。しかし、経営者が判断しなければ、自社にカスタマイズされたAIを作ることはできません。AIを作る判断と、AIを事業に装着させる判断、どのような過程で企業を変革させていくのかを考える必要があります。

もちろん、AIはミスを起こします。しかし、人間もミスを起こしてきました。ミスを起こしたとき、どのようなバックアップ体制が組織としてできているとよいのでしょうか。どのようなミスなら、人間は許され、機械は許されないのか、それとも機械も人間も許されるのか、このようなことを考えながら組織を作っていく必要があるでしょう。

未来を展望すると、人間が行うべき仕事は本当に存在するのか、AIが入ってくると不平等を生み出すのではないか。一握りの大企による支配が起こってしまうのではないか、底辺の競争と呼ばれる価格競争が労働環境や社会福祉などを最低水準の方向に持っていってしまうのではないかといった、さまざまな不確実性があります。

AIを本当に作っていいのかどうかは、倫理との間に常にトレードオフが発生します。そのうえで組織をどう作るのか、AIとどう共存していくのか、我々は考えていかなければなりません。

経営学者のピーター・ドラッカー氏が「The best way to predict the future is to create it.(未来を予測する最良の方法は、未来を創造すること)」と述べたように、未来を予測するのではなく、自分たちでどのような社会を、産業を、会社組織を作っていくのかのほうが圧倒的に重要です。このような視点で未来と向き合っていく必要があります。

データ駆動型社会、データに依存する新しいテクノロジーを使うような社会は、いま始まったのではなく、徐々に浸透してきました。その速度がどんどん速くなっているので、それが産業革命へと繋がっていくのではないかと言われています。新しい技術を使って、企業も人間そのものも強くしていかなければいけませんし、組織、企業体、そして産業が強くなり、さらに成長していくようなデザインがなされていかなければなりません。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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