不動産市場におけるDX
12-3. 不動産市場におけるDXの推進①

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目次

不動産分野でのデジタルテクノロジーの活用を、日本では「不動産テック」と呼んでいます。アメリカでは不動産をリアルエステート(Real Estate)、イギリスではプロパティ(Property)と呼び、アメリカではリーテック(ReTech)、イギリスではプロプテック(PropTech)が使われています。

また、マサチューセッツ工科大学(MIT)のレポートでは、「真実のテクノロジーとは一体何であるのか」という意味で、リアルテック(Real Tech)という言葉が使われています。

このMITのレポートの中で予見されていることは、①不動産取引のウェブサイトによる取引革命が起きる、②自動価格評価システムやリスク評価が不動産市場を透明にする、③開発や建築のソフトウェアで最適な再開発計画をシミュレーションできる、などです。

不動産の自動価格評価システムは、既にドバイなどでは使われていますし、日本でも固定資産評価額の算定で実用されました。

平成6~9年(1994~97年)における東京都の固定資産評価額の評価替えの取り組みで、私は初めて自動価格評価の仕組みを作りました。東京都には148万の建物がありました。その価格を決定する作業を人間がすべて行えるわけではないため、当時から広い意味のAIが使われてきました。

AI開発のための7つの工程

さて、このような技術が誕生したとき、どのように産業の中に装着させていけばよいのでしょうか。これもDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するための1つの技術です。

不動産業には、仲介業もあれば、管理業もあります。開発する仕事もあります。その事業の中で「行動」とは、何をするのか。そのために「予測」とは、決断のために何をする必要があるのか。「判断」は、そのときの異なる結果やエラーをどのように評価するのか。その予測の「結果」がどのように評価されるのか。その結果として、タスク(作業)の成功を測定する基準は何か。それぞれの仕事をタスクに分解し、それらのタスクの塊が誰の仕事になっているのかを知る必要があります。

そこから逆算して、どのようなシステムを開発したらいいのでしょうか。決断をするために、何を知る必要があるのでしょうか。不動産の価格か、人が不動産を売る確率か、購入希望者がその不動産を買う確率か。システムをデザインする人が何を予測するのかを決定したなら、どのようなデータを使って予測アルゴリズムを作るのか。この開発工程が「入力」です。

予測アルゴリズムができたならば、それを「訓練」するために、どのようなデータが必要なのでしょうか。その結果を「フィードバック」してアルゴリズムを改善するために、事業の中で蓄積されてきたデータをどのように使っていくのかが必要となります。

『予測マシンの世紀』の著者であるアジャイ・アグラワル氏は、AI開発の7つの工程をまとめた表を「AIキャンパス」と呼んでいます。「予測」「判断」「行動」「結果」を定義し、その下でどのようなデータを「入力」し、「訓練」し、「フィードバック」に使っていくのかを、1つ1つのタスクの中で行っていきます。

不動産業の業務フローをタスクに分解する

不動産仲介業のワークフローを分解する研究を、20年ほど前に行ったことがあります。「IT革命」が騒がれていた2000年代初期に、不動産流通事業者の団体「平成エステート会」という組織との共同研究でした。

東京大学名誉教授の西村清彦先生、東京大学都市工学科教授の浅見泰司先生と私で、日本の不動産流通、いわゆる仲介業の業務工程を分解し、アメリカの産業とも比較しながら、どのようなITに利用可能性があるのかを整理しました。不動産流通の世界でも、さまざまな決断があります。その決断を分解したうえで、新しい技術によってどのように予測の精度を上げ、生産性を高めていくのかを考えました。

不動産流通の業務フローの最初には「集客」があります。売り側で考えるとどのようにお客様に「マンションを売ってください」と言い集客をして売り手を集めてくるのか、当時はインターネットのホームページがまだ一般的ではなかったので、各社ごとにホームページを開設することを考えました。

集客の際、郵便ポストにチラシを撒く「ポスティング」を営業マンは一生懸命やっていました。しかし、ポスティングの場合、居住者にはチラシなどが行き届きますが、その部屋を賃貸に出していたら「売る」という意思決定をする所有者には届きません。

そこで「マンションDB」というものを作り、マンションの登記情報を全部調べて所有者を特定し、そこにDM(ダイレクトメール)を送ることを考えました。所有者が登記を移転する場合でもリアルタイムで測定できるデータ基盤とすることで、どのマンションの流動性が高いかが分かるように、登記件数が何件あるか、所有権の移転がどれくらいあるのか、相続がどこの部屋でどのように起こっているのかをチェックし、集客の効率性を高められるデータベースにしました。

集客ができると、「受付」で売却相談を受けます。来場者のカードに記入してもらい、ここで得た情報から、この人が売る確率がどれくらい高くなるのかを予測することができます。受付をするときに、この人がどれくらい売る確率があるのかは、過去の事例から特徴を推論するプロファイリングできるAIの力を借りれば可能です。

アメリカでは、税金や資金のアドバイスを弁護士、ファイナンシャルプランナー、モーゲージブローカーが行っていますが、それを支援するソフトウェアも出てきていました。価格査定は、不動産情報データベースMLS(Multiple Listing Service)のCMA(Comparative Market Analysis, 査定提案書)というデータを編集できる仕組みがあり、それらの取引事例を使って比較しながら価格査定を行うエンジンも開発されていました。

物件を「調査」する業務では、権利関係、法令関係、工法上の規制について調査する必要があります。この部分はアメリカではインスペクターが行っていますが、各売り主がトランスファー・ディスクロージャー・シート(Transfer disclosure sheet:譲渡情報開示書)を作成し、開示された情報のデータベースが作られていました。これらの情報を地理空間情報システムなどの技術を使って容易に比較することもできます。

次に売り側との「交渉」に入っていきます。売出価格を交渉し、媒介契約を締結し、物件を情報化し、日本では指定流通機構レインズなどに情報を登録し、売却活動に入ります。「広告」を出稿し、売り主に「営業報告」を行います。ここで売れなかった場合は「値下げ提案」をし、媒介契約が終了したときには「更新」する手続きをします。お客様が見つかれば「物件案内」してその結果報告を行い、売却条件の変更、交渉や合意を行い、契約締結段階に入ります。

引き続き、エスクロー(第三者預託)業務に入っていきます。重要事項説明書を作り、契約書を作成して、重要事項説明を行い、売買契約を行います。今であればIT重説のような非対面での説明もでき、フィンテック向けAIを使えば、重要事項説明の中で説明漏れがないかどうかもチェックできます。

中間金の受け渡し、借入金があれば返済の申し込みを行い、引渡し条件を決定し、「決済」「引渡し」を行い、「登記」を実行し、「アフターフォロー」に入っていきます。

こうした業務フローは買い側も同じで、まず「集客」し、売り手の情報を集めたらレインズに登録します。ポータルサイトを通じて募集をし、チラシなども作っていくことで買い手を集めます。「受付」で相談を行い、買い側の資金や税金などのアドバイスもして成約するまでに20工程を行っています。

不動産の業務フローは、売り側が29工程、買い側が20工程です。これらの業務のどこにAIを導入するのかは、業務ごとのコスト構造を知る必要があります。

業務ごとの時間を測定してデータ化する

売り側の29工程、買い側の20工程で、どこに時間が掛かっているのでしょうか。平成エステート会に参加している企業の営業マンに対して、取引する時間を測定し、データを集めました。どの業務にどれくらいの時間が掛かっているのか。トップ営業マンと、そうではない営業マンの差も、フィンテックの事例で紹介した営業報告などのデータから識別できます。

なぜ、ある人は営業成績が高いのか、時間をどのように配分しているのかを分析することで、そうではない営業マンをどうサポートすればよいのかも見えてきます。営業マンの経験の違いを認識しながら、DXを進めていくことができます。

MITのレポートでは、DXによって不動産取引に革命が起こることが予測されましたが、法的な書類や抵当権、税控除、エネルギー使用、歩行者の交通量などの情報が、地理情報空間システムや格付けなどのデータと統合されることで実現しつつあります。日本でも、20年前の平成エステート会では、同様の世界観を共有しながらマーケットのデザインを考えていました。

アメリカでは近年、ジローやレンタルビースト、コスターの商業用不動産データベースが登場し、チャットボット(自動会話プログラム)も出てきています。日本でもさまざまな形でデータベースが蓄積され、実現が間近になっています。

こうした取り組みが国を超え都市を超えて行われるようになった事例は、RCA(Real Capital Analytics)社とMITが共同で設立した不動産解析センターです。私はこのセンターのメンバーとして、MIT Center for Real Estate(MIT不動産センター)のPrice Dynamics Platform(価格変動プラットフォーム)を運営してきました。

メンバーの中心は、コネチカット大学准教授のアレックス・ホンデマイン氏、私の共同研究者であるMITのデイビッド・ゲルトナー氏、アムステルダム大学教授のマルク・フランケ氏の3人。加えて、コネチカット大学教授のジョン・クラップ氏、今はオランダ中央銀行に移ったディーク氏と私を含めたチームで、インデックスなどを作成してきました。

商業不動産などの価格予測では、計量経済学的予測、リピートセールス、ヘドニック、比較マッチングなどといった方法で、自動評価システムを作成し、大規模なモーゲージ(不動産担保ローン)の証券化や、銀行以外の貸し手を出現させるなど、新しい産業を創出しました。

この延長線で、立地によって、どれぐらいの商圏が生まれるのか、行政の補助が得られるのか、競合があるのか、賃貸住宅のレビューやスコアを、騒音、安全、メンテナンス、近隣、スタッフ応対を含めてスコアリングして結合させた予測モデルも作成しています。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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