経営者にいまおすすめの本6冊 「事業開発」編
目次
市場の求めるサービスがあっという間に変遷する現代において、新規事業開発の必要性は高まっています。しかし、多くの経営者にとって新規事業は未知の世界。やみくもに着手しても成功率は上がらないはず。そこで今回は、新規事業の創出に取り組み、今までにない需要を生み出した先駆者たちの本を紹介します。新規事業創出のための思考と手順、取り組むべき理由がつづられています。
『新規事業の実践論』
麻生要一著 NewsPicksパブリッシング 1,980円(税込)
新規事業開発の概要から実践までバランスよく網羅した入門書
新規事業開発とは「会社のためではなく、自分の人生やキャリアのために行うもの」だと、著者の麻生要一氏は語ります。人生100年時代といわれる昨今においては、80歳くらいまでは、何かしらの収入を維持する必要があります。しかし企業におけるほぼすべての仕事や、現役時代に培ったスキルは、定年時の環境では陳腐化している可能性があるのです。ただ、新規事業開発という仕事だけは唯一「企業の未来と、働く個人の未来が一致する仕事」であると、麻生氏は分析しています。また、麻生氏は「自分の頭で考えたことに、自分で顧客を見つけて、自分で商売にする」業務こそが新規事業開発だと解説。麻生氏のこうした考えは、彼が過去に実践してきた経験に基づいており、本書の随所でその説得力を感じます。
麻生氏は、リクルート(現リクルートホールディングス)に新卒として入社後、ITサービスを開発する同社100%子会社を設立。社長を務める彼のほかには社員1人だけという体制でスタートした同社を、社員数150人の企業に短期間で成長させ、その後はリクルートホールディングスの新規事業開発室長として、同社グループ全体の新規事業を統括する経営幹部を務めた人物です。
2018年に同社を退職後も、新規事業開発を支援する企業を創業。国内大企業を主なクライアントとして、1年半で500以上の企業内新規事業チームの提案に関わります。そのほかにもゲノム研究の会社を創業し、まさに新規事業開発のスペシャリストといえるでしょう。
当書の1章「日本人は起業より『社内起業』が向いている」と、2章「『社内起業家へ』と覚醒するWILL(意志)のつくり方」は、実践前の入門編とされていますが、以降はより実践的な内容を紹介。3章では創業メンバーの選び方、4章では新規事業の6つのステージ、5・6章では主に新規事業の立ち上げ方、7章では社内会議の進め方、8章では経営陣がするべきこと、してはいけないことを解説。自身の体験に基づく新規事業開発で培ってきたポイントを網羅的に紹介しています。
『ユーザーファーストの新規事業 社内の資産で新たな成長の種をまく』
中村愼一著 宣伝会議 1,980円(税込)
多くの事業開発の経験から、著者がたどり着いた答えを1冊に集約
新規事業の立ち上げを経験してきた筆者が、企業で新規事業を担当する人々のために執筆したのが当書です。
著者である中村愼一氏は2000年、松下電器産業(現パナソニック)において成績好調な溶接機担当部署から、インターネットプロバイダーである「パナソニック・ハイホー」に、みずから異動試験を受けて社内転職を実行。ここから氏の事業開発に取り組む経歴がスタートします。その結果、パナソニック公式サイトの会員数とアクセス数の拡大や、販売につなげるためのマーケティング手法に取り組み、2017年には会員数1,000万人、月間2億2,000万アクセスまで拡大させることに成功します。
また、同年にジャンルの違う保険業界に転職すると、わずか2年で6つの事業を立ち上げ、本書執筆時の2022年度には売り上げを100億円まで拡充させるとしています。その後もさらなる新規事業をローンチさせていきます。
中村氏がみずからのキャリアにおいてこうした転換を図ったのは、「就職」ではなく「就社」という就業体制に対する疑問や、自身のスキルアップ、さらには定年後も働ける状況を生み出す必要性を感じた結果だと振り返ります。また、日本では人材の流動化がさらに進み、今後その労働スタイルは欧米と同様、「ジョブ型」になると予想しています。
こうした思考と実績を持つ著者は全9章において、事業計画シナリオの書き方、社内調整、社外とのアライアンスの方法など、新規事業担当者が直面する課題を具体的に紹介。同時に、ユーザーメリットを創出する企画立案、ヒト・モノ・カネなどの経営資源の集め方など、実践的なノウハウなどが簡潔に解説されています。
実践に基づいて書かれたノウハウと幅広い知見は、自身のキャリアをステップアップしょうとするすべての年代の読者に役立つはずです。
『新事業開発 成功シナリオ ―自社独自の価値を創造し、成功確率を高めるための実践論』
高橋儀光著 同文舘出版 2,860円(税込)
多角的な視点からひもとく、新規事業開発の教科書
お客様の「あったらいいな」と、「自社技術の強み・こだわり」をマッチングさせ、ビジネスとして「ありえる」テーマに落とし込み、成功に導くためのシナリオを描く……。それが本書の新規事業開発における主要テーマです。実務面に関するアドバイスも充実しています。具体的には、事業開発を進める各工程において、どんな「落とし穴」があるのか。また、担当者が認識すべき注意点はどんなものか。プロの視点から全編にわたって指摘されています。
著者の高橋儀光(のりみつ)氏は、大手通信会社でネットワークシステムの技術者を経験したのち、日本能率協会コンサルティング社(JMAC)でチーフ・コンサルタントを務めた人物です。通信会社で実務経験した情報通信サービス、IT、エレクトロニクスに関する豊富な知識を持ちつつ、コンサルタントとしては自動車、船舶、建築材料、金属・科学素材、医薬、医療機器、食品、製造機械、部品メーカーなど、実に多くの業種を担当。各業界を俯瞰する目と、その主要技術に精通する経験と知識は、本書に総体的な説得力をもたらしています。
事業開発という概念的な話題を扱いつつも、実際に新規事業開発で経験するとされる順に沿って章が構成されており、どの章・節にどんな話題が書かれ、自身が必要とする情報がどこで展開されているかを、読者は直観的に知ることができるはずです。
また、読者自身が新規事業開発に対してどのような認識を持ち、どのような工程段階にあるかを確認するために、巻頭には付録「新事業開発成功シナリオ構成ステップ」を添付。それをチェックしながら読み進めることが推奨されています。
本書につづられる新規事業開発に関する方法論は著者だけでなく、JMAC社のチームスタッフによって長年に亘り構築されたもの。その重層的で立体的な話題を、系統立てて解説しています。まさに新開発事業の教科書ともいえるでしょう。
『コーポレート・エクスプローラー 新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則』
ンドリュー・J・M・ビンズ、 チャールズ・A・オライリー 、マイケル・L・タッシュマン著/加藤今日子訳/加藤雅則解説 英治出版 2,420円(税込)
成熟した大企業がイノベーションのジレンマに陥ることなく、既存事業の深掘りと、新規事業の探索を両立するという「両利きの経営」を実践するための指針を示した理論書。
『事業開発一気通貫 成功への3×3ステップ』
秦充洋著 日経BP 1,980円(税込)
アイデア出し、事業コンセプトの確定、ビジネスモデルの検討、事業計画書作りなど、事業開発のために実施すべき手順を解説。新規事業だけではなく、既存事業の育成にも使えるポータブルスキルがわかる。
『新事業開発スタートブック』
河瀬誠著 日本実業出版社 2,420円(税込)
アメリカにおいて新規事業開発の新たなスタンダードとされる「リーン・スタートアップ」に基づいて、一般的な日本企業が「高成功率」「最短最速」「最小費用」で新規事業を開発するための解説書。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ