ビッグデータと企業経営
14-3. DXを推進する意義

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目次

最近では、AI(人工知能)とデータドリブンな企業の関係について、よく議論されます。そもそもAIとは一体何でしょうか。データドリブンな企業は何でしょうか。さらには、DXとは何であるかについて、経営者は正しく理解する必要があります。

データドリブンな企業とは、これまでの経験や勘に頼らず、経営をデータに基づいて意思決定をしていく経営を意味します。政治や政策の世界でも、最近では「Evidence-based Policymaking(証拠に基づく政策立案)」という言葉がよくいわれますが、それに該当します。

次に、企業におけるDX事業部は、一体何をすればよいのでしょうか。DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略ですが、これはIT(情報技術)そのものを浸透させることではありません。ITは、そのテクノロジーで人々の生活をあらゆる面でよい方向に変化させるという概念として使っていますが、企業がITを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させるという意味合いでDXという言葉が使われています。

注目される生成系AIの弱点とは

最近の新しいテクノロジーというと、ChatGPTのような「生成系AI」が注目されています。この生成系AI、ChatGPTは、どのようなものでしょうか。GPTとは、Generative Pre-Trained Transformerの略です。日本語では「生成可能な事前学習済み変換器」といった訳になります。

私たちは、過去に蓄積してきた知識をあらゆるところに集積してきました。このようなものを相手に伝えていくのには、会話として言葉で伝えたり、文字にして文章で伝えたりします。生成AIは非常に流暢で、もっともらしい文章を生成する力をつけてきました。さらに、生成系AIに既存の知識を加えることで、新しい事象についての推論も可能になってきています。

しかし、生成系AIにも弱点もあります。「マルチホップ推論」という段階的・推移的な推論は苦手だといわれます。人間には、それほど複雑とは思われない質問でも、生成系AIは自力では解けない。マルチホップ推論を解くプロセス自体を生成系AIに教えてあげる、Chain of Thought(思考の連鎖)と呼ばれるプロセスを正確に伝えることで、ようやく解けるようになります。この「解くプロセス自体を教えてあげる」とは、質問の仕方を変えていくことです。

生成系AIの力を引き出すための質問力とは

生成系AIの誕生で大学の教員が不要になるのでしょうか。生成系AIは、専門的なことを教えるような研究者や専門家には遠く及ばないことは確かです。なぜならば、そのような研究者や専門家はまだ発見されてない未知のことを、大学の中で研究しています。そういう情報は巷には存在していないからです。

しかし、実は多くの教員が不要になるのではないかと、私自身は思っています。巷で存在している情報を、ただインプットしてアウトプットするような教員は、もういらなくなってくるでしょう。教科書に書いてあることだけをただ話している教員は必要なくなると思います。

生成系AIは、基礎的な内容は本当によく知っています。いつでも何でも何度でも質問することができます。「こんなことも分からないのか」と怒られることもありません。最近では、講義よりも教育系YouTuberの「ヨビノリ」などの解説のほうが分かりやすいという学生もいて、授業を聞かずにYouTubeなどで勉強している学生がどんどん増えてきています。このような状況の中で、教科書に書いてあることだけしか教えられない教員は、もういらなくなるのではないでしょうか。

今、私たちの研究室では画像解析に取り組んでおり、画像解析を行うために新しいアルゴリズムを研究しています。例えば、二次元画像を認識するためには、どのようにしたらよいのか。その解決策として「10層のConv-BN-ReLU層から成るようなU-Netプログラムを書く」ことで、画像の認識が正しくできるだろうと、私たちは仮説を立てて実験を繰り返していきます。

この質問をChatGPTに問うと、「申し訳ありません。この質問に対しては答えを提供できません」という答えが返ってきます。

しかし、生成系AIは「U-Netアーキテクチャの構造に対してプログラムを生成する手助けすることはできます」といって、プログラムを書いてくれます。例えば、画像認識によく使われる、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)、BN(バッチノマライゼーション)、そしてReLU(Rectified Linear Unit)という活性化関数と呼ばれるものは、この文脈で重要です。

このような1つ1つの質問に対しては、生成系AIは正しく理解することができ、プログラムも書いてくれます。そのような生成系AIに対して質問を選定できる研究者の数は、ものすごく限られていると思います。大学でAIやデータサイエンスを教えているという教員が日本に1,000人いるとしても、プログラムを滑らかに書くことができる研究者は10人もいないでしょう。それぐらいの力を、生成系AIはすでに持っているのです。

生成系AIは第4次産業革命をもたらす

そう考えると、生成系AIをはじめとする新しいデータサイエンスやAIは、やはり第4次となる「産業革命」に匹敵する力を持っていると考えるべきではないかと思います。

第1次産業革命は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、蒸気機関などに代表される技術革新、それに伴う経済変革を通じて、農業を基盤とした産業構造から工業社会へ転換していきました。

それから100年経った19世紀末から20世紀にかけては第2次産業革命が起こります。ここでは電力が登場し、自動車産業、化学工業などが誕生してきます。新しい生産技術が開発され、工業製品の生産性が大幅に向上しました。

そして50年ぐらいが過ぎて、コンピューターやインターネット、そしてロボット技術が誕生してきました。情報知識の伝達速度や情報の取得や処理速度が大きく改善されることによって、工業社会からサービスを中心とした第3次産業を中心とする産業構造へと変革してきたのが第3次産業革命です。

そして今、第4次産業革命に入りつつある、もしくはすでに入ったと考えるのが自然ではないかと思います。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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