ビッグデータと企業経営
14-4 ビッグデータの革新と企業経営の未来:ディープラーニングの歴史から学ぶ

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生成系AIが登場して、第4次産業革命に入ったといわれても、「実感がない」という方がいるかもしれません。その前の第3次産業革命の際に、私たちはIT革命を経験しましたが、1987年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のロバート・ソロー氏が「コンピューターの時代の到来はあらゆる場で目にするが、生産性の統計にはまったく反映されていない」と言いました。それは、コンピューターが出てきたとき、社会に装着されるまでに時間がかかったからです。

さらには、生産性の統計そのものがそのような進化を測定できていなかったと考えられます。私たちがいま直面している生成系AIなどの新しい技術が、私たちの生産性を高め、統計にも反映される時代はもうすぐやってくると考えるべきでしょう。

ディープラーニングを進化させた技術

AIを飛躍させたのは、機械学習法の1つであるディープラーニング(深層学習)の進化です。ディープテックともいわれますが、さまざまにディープテックの技術が使えるようになってきました。

この進化は、「バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)」に依るものですが、この技術は急に出てきたわけではありません。1986年に「backwards propagation of errors(エラーの逆伝播)」という考え方が、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン氏によって、論文として示されました。

私が大学院生のとき、バックプロパゲーションやニューラルネットワークの技術を勉強していました。私が大学院に入ったのが1990年代の前半でしたが、当時は計算のコストが非常に高いものでした。アルゴリズムは、データと確率論に基づいて構築されたときに最大の成果を発揮することができますが、当時はデータもありませんでした。

今、私たちはビッグデータを手に入れ、そしてコンピューターの技術も飛躍的に進化し、早く計算できるだけでなく、コストも安くなっています。当時のスーパーコンピューター以上の計算能力を、今のパーソナルコンピューター、それもノートパソコンでも実現できるようになっています。

これらの新しい技術を、ビジネスに装着させていきます。「DXをどのように進めるのか」そのものが、新しい技術になります。

経済・経営に不可欠な「予測」精度を高める

トロント大学にロッドマンビジネススクールという経営大学院があり、そこの学部長をしていたアジャイ・アグラワル氏という私の友人がいます。彼は経済学者で、GAFAの技術顧問をしていました。ビジネススクールで教えていましたが、AIのような技術を理解し、正しく企業の中で装着し、DXを進めて革新を起こすことも行っています。

彼がまとめた本に『Prediction Machines(予測マシン)』があります。副題に「The Simple Economics of the Artificial Intelligence(AIの簡単な経済学)」と書いてあります。

彼の本に触発を受けて、これを日本版にアレンジしてみようと考えました。それが『AIビジネスの基礎と倫理的課題』という本で、高巌先生という著名な経営学者との共著です。高先生と私は麗澤大学に勤めていたことで巡り合い、経営学者とデータサイエンティストの共著という形で本にまとめたのです。

この本は、アジャイ氏の本を参考にしており、出発点として企業の経営に向き合っていきました。この中で、AIとは一体何があるのかを理解し、それを理解したうえで、実際の業務フローをどう変えていくのか、ビジネスをどう再編していくのかという技術をまとめています。

『Prediction Machines』の第1章に書いているのは、AIとは一体何であるのかということです。ビジネスの現場では、私たちはさまざまな予測を行い、判断して決断しています。アジャイ氏の本では、AIとは「予測技術」であると書いています。予測とは、意思決定に必要な入力情報であり、経済・経営において必要不可欠なものです。この精度を高めてくれるのがAIです。

AIの歴史はどのように進化してきたのか

知能とは何でしょうか。

人工知能の研究に道筋を立てたとされる最初の会議が、1956年に開催されたダードマス会議といわれています。その会議では、AIに何をさせることができるのかについて議論され、チェスや将棋、囲碁といったゲームをする能力や数学の理論を証明する能力などが取り上げられました。

ダードマス会議の後に「機械が言語を使用して抽象化や概念化を行い、現段階では人間以外に不可能な問題を解決し、自己改善できるような方法を見つけたいと考えている」という声明が出されましたが、その後なかなか前に進みませんでした。

これらについて、私がAI研究を始める少し前の1980年代は「エキスパートシステム」と呼んでいました。今では飛躍的に成長してきましたが、医師の診断に使われるとか、不動産鑑定士という専門家に取って代わることがAIでできるのではないかと、議論されていました。

最近では、物体の認識、言語の翻訳、創薬みたいなこともできるようになってきました。AIが予測の精度を向上させ、予測可能な領域を拡大することによって、私たちは新しい事業を検討したり、創出したりできるようになっています。

AI「冬の時代」をどう乗り越えたのか

AIには長い間、「冬の時代」があったといわれてきました。1956年のダートマス会議の後、冬の時代が続きましたが、なぜ解決したのでしょうか。予測精度を高める技術が発明されたこともあれば、ビッグデータの収集技術が向上して、それを保存するコストも低下し、さまざまなデータが使えるようになってきたこともあります。

さらに、モデルを改善したことや、コンピューターの性能が飛躍的に向上したこともあります。優れたプロセッサーが発明されたおかげで、新しい機械学習モデルは柔軟性と予測精度の向上の恩恵を受けることができたのです。

米国デューク大学が、テラデータ・センターでAIのトーナメントを開催しています。2004年の優勝者は、回帰モデルという伝統的な統計モデルを使っていました。現在、AIの中核技術になっているニューラルネットワークやディープテックは、当時はまだ大きな成果を出すことができませんでした。

2016年になると、ディープラーニングがそれぞれのモデルにおいて成績が上回るようになってきました。

それは頭脳が上回ったのではなく、データとコンピューターが一定水準に達した結果、演算能力の上昇が数字だけではなく、テキストや画像などの大量のデータを処理できるようになり、リアルタイムのデータも活用できるようになってラグを消滅させ、その成果によって予測性能が一気に高まりました。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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