日本の大企業は、世界的には「中小企業」にすぎない

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※本記事は「ダイヤモンドオンライン」に2024年1月21日に掲載された記事の転載です。

日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)

日本で「大企業」と呼べるのは
世界の基準でいうと90社のみ

徳成旨亮(以下、徳成) 日本は今が最後のチャンスかも知れませんね。2023年11月、日経平均株価は1990年3月以来33年8カ月ぶりの高値となりました。世界の投資家が日本株を買いに来ている今はチャンスだと思います。

僕が今CFOを務めているニコンの例で申し上げると、昨年の5、6月に2回も海外にIRにいったんですよ。投資家から会いたい、というリクエストが多くて。9年近くCFO業をやっていますが、こんなことは初めてです。

でも、ここで認識しなければいけないことが1つあります。それは、日本の上場企業は、グローバル基準では、ほぼ中小企業だということです。

MSCIという株価指数があるんですね。世界中の企業を、大企業とか中堅企業とか中小企業とかに分けて、投資をするんです。それで世界において、大企業、ラージ・キャップと定義される線引き的な基準が、138億ドルなんです。つまり、2兆円ほど。それ以上の時価総額がある会社が、大企業とみなされるわけです。これ、調べてみたら日本に約90社しかないんですよ。

日本には約4000の上場企業があります。そのうちの90社しか時価総額2兆円を超えていないということは、残りの98%は中堅・中小企業なんですよ。世界的に言うと。

だから日本の大企業だと言っているおじさんたちも、実はスタートアップの役員とあまり変わらないというふうに自己規定する必要がある。つまり、グローバルな投資家のレーダーにどうやったら映るか、どうしたら投資してもらえるか、JTCの経営者もしっかりと考えないと、株価は安値に放置されたままになってしまう。PBR1倍割れが問題になっていますが、投資家のレーダーにきちんと捉えられていない企業もあるんだと思っています。

堀内勉(以下、堀内) 一点補足しますと、前の記事でお話ししたG型とL型の住み分けのように、自分たちの企業がどのような環境で生きるのか、ということを確認する必要があると思います。

グローバルな世界で戦っていくというのは、ものすごく大変なことです。その中に最初からドーンと打って出て戦うのか、それとも日本の中小企業として細く長く地道な立ち位置でやっていくのか。

たとえば何か日本文化を代弁するような会社をやっていたら、意外に世界からウケるようになった、というようなこともあると思います。グローバルに戦わなくても、文化的な側面からグローバルに求められる、というような。そうするとこちらが英語を喋れなくても、日本文化に興味のある人が、向こうから来てくれますよね。そういう戦い方もあると思います。

もちろんそういう会社は絶対に何兆円などという時価総額にはなり得ません。せいぜい売上が5億円とか10億円だけれども、でも100年以上続いています、そういう生き方もありますよね。G型かL型か、自分たちはどちらで生きていくのか。

PBRが0.3倍の地銀が
上場を続けている意味とは

徳成 それでいくと地方銀行なんて、金融庁も言い始めていますが、上場なんてやめたらいいんじゃないの?いう考え方もありえますよね。PBR(株価純資産倍率)が0.2倍とか0.3倍とかで、本当に上場企業と言えるの?と。人口が減っている地域で、間接金融業で成長することは極めて難しい。

でも解散価値が1倍を割っているからといって、じゃあその企業に価値がないのかというと、決してそういうことではない。その地方の銀行は必要なんです。そうじゃないと地域経済は成り立ちませんから。

そう考えると、上場する意味はあるのか?となってくるわけです。別に株価なんかなくても、地場企業の人たちがその銀行にお金を預けて、そこから1%、2%でも安定した配当があれば、それでいいんじゃないかという話も出てきています。

堀内 ですから、地銀の方には大変申し訳ない言い方なのですが、信用金庫や信用組合のほうが地場企業と距離が近いように思います。信金や信組というのは本当に地場企業と近くて、親身になって相談に乗ってくれるんです。地方における社会的な視点というのは、明らかに信金・信組のほうがしっかり持っている。

国に置き換えて考えてみると、メガバンクというのは国。地方銀行は都道府県で、信金・信組は基礎自治体にあたると思います。それで、住民とダイレクトに接しているのは基礎自治体だけで、国とか都道府県というのはほとんど直接接していないんですよね。

だから「どう生きるのか」ではないですが、地銀というのは何なのか、きちんと自分たちで定義付けなくてはいけないと思います。

徳成 前の記事で、堀内さんは「自分のパーパスを持て」ということをお話しされましたが、それは企業にも言えることですよね。自分たちはどういう会社なのか認識することが大事なんだけど、それが成されていないのは多分、日本人の「なるべく平均点でいよう」という気質みたいなものが関係しているんじゃないかと思います。なるべく目立たないでいるというか、普通が大好きというか。

でもそれだと多分、もう厳しいんでしょうね。だから自分の特徴を、尖がったところをどう伸ばしていくか、そういう意識を持たないと。そのために教育も変えなきゃいけないし、個々人も自己主張していかなきゃいけない。誰かが考えてくれるのではなく、自分で自分のことを考えなければいけなないという時代に、多分なりつつある。

それって日本人はすごく苦手なことだし、子どものときからそういう教育をしていかなければならないから時間もかかります。でも、日本のどの県に行ってもほぼ同じスーパーがあって、駅を降りてもどこだかわからない、みたいなことでは良くないですよね。特徴がなくなってしまうし、つまらないし。日本はずっと効率重視できた結果、そうなったんでしょうけど、意図的に逆に振っていかないとダメですよね。

堀内 日本は明治維新以降、フランスやドイツにならって中央集権型の国を作ろうとして、次に戦争に負けたらアメリカを真似て、今はこうなってしまいましたと。でも自分が何者であるかを人に定義付けてもらわないとわからない、というのはもうやめましょう、ということです。当たり前の話なのですが、そうした当たり前の話がなかなかみんなできなくなっているというところに、日本の悩みの多くがある気がします。

徳成 パーパスとか、「自分は何者だ?」ということを会社としても考えよう、みたいな流れが生まれてきています。それはいいことですよね。今までは、会社は潰れないこと、存在していること自体が価値でした。それは否定しないですよ。だって会社があったほうが失業者も生まれないし、いいことです。

だけどその会社の社畜みたいになって、長時間労働して、何のために働いているかわからなくなって、これが幸せなのか?みたいなことになったらつまらない。

そうではなくて、自分たちがやりたいことは何だったんだ?ということを考えて、もしもそれがないとわかったなら、本当は会社なんて解散してしまえばいいんですよ。たしかに今までは、会社が潰れると社会的不安をあおるというのがあったけど、今はボコボコとスタートアップができていますから。

かつ、大企業間でも人材の流動性が高まっている。多分、今の状況のほうがまっとうな資本主義だと思います。岸田首相が「新しい資本主義」と言っていますが、まずは「普通の資本主義」になりましょう、と僕は思っています。つまり、目的を終えた企業は退出し、新しいスタートアップが勃興する。そうした新陳代謝がある社会経済にしたいところです。

企業倒産は本当に悪いことなのか

堀内 パーパスがあって、そこから社会的な付加価値を生んでいる間は会社は続くけど、なくなったら解散するなりすればいい。それがむしろ健全です。

徳成 そこでその会社が抱えていた人的資源も金銭的資源も解放するのが正しい。著書の中でも、コダックの倒産について書きましたが、簡単に言いますと、イーストマン・コダックと富士フイルムという2大フィルム会社があって、富士フイルムは社名に「フイルム」という単語こそあるけど、今は医薬品や化粧品を作るなど、フィルムと関係ないことをやっている。

だけどイーストマン・コダックは倒産した。ある海外の有名投資家と面談したら、彼らは、それを素晴らしいと言うんですよ。「会社を潰しておいて何で?」と思ったら、フィルムという時代が終わったことをいち早く察知して、株主に資本還元してきれいに倒れた、と。それで抱えていた優秀な技術者を野に放って、彼らによってどんどんベンチャー企業が生まれたので、経済的にはそっちのほうがいいんだというわけです。

彼らも、富士フイルムの変貌はもちろん素晴らしいと認めてはいるんですよ。フィルムカメラ事業を少しずつ縮小しながら、技術者も少しずつ変化させていった。化粧品ならいけるか、健康機能食品ならいけるか、何だったらいけるのかと、少しずつ新しいビジネスを探っていって見事に転換した。

でも、そんな大変なことをやる必要はない、と日本以外の投資家は言うんです。業態転換はすごく難しいことなので、それをやり遂げた富士フイルムの経営者は素晴らしいんだけど、たいていは失敗するわけです。そんなリスクを冒すよりも、社会的使命が終わり、会社としてのパーパスも終わったんだから、そこで閉じればいい。それこそが資本主義だと、グローバル投資家たちは考えているようです。

堀内 私もそう考えています。似たようなケースで言うと、1997年に山一證券が倒れて、その後、北海道拓殖銀行が倒れました。あのときは、無能な経営のせいで働く場所を失った優秀な社員たちが可哀そうだということで、銀行や証券以外の事業会社がけっこう手分けして彼らを雇いました。日本全体で彼らを支えようという気運があって、会社の財務部門に採用したんです。

そうすると、あくまで私の目から見てですが、事業会社の財務レベルがかなりアップしたんですよ。それまで事業会社の財務部門というのは、銀行からお金を借りてくるとか返すとか、そういうことしかしていなかったわけです。名前も「財務部」ではなくて、経理部の中に資金室というような部門があって、資金繰りをやっているだけのようなイメージでした。それが彼らが入ってきたことで、財務のレベルが飛躍的にアップしたんですよ。

あれを見て、社会的に不要になったものは倒れて、そこにいた人材が流動したほうがプラスになることもあるんだな、というのをすごく感じました。

だから正直私は、日本のメガバンクも1行あるいは多くても2行でいいと思っています。でもなぜかその後、3行もメガバンクができてしまって、意外に人材を吐き出さなかったので、あの人材移動は続かなかったのですが。あれがもう少し続けば、日本の経済はもっとダイナミックになっていたのではないかな、と思っています。

徳成 倒産が増えると社会的不安が広がるから、もちろんセーフティーネットは必要です。だけど「社会的使命を終えたのになぜか潰れない会社」は、もはやゾンビ企業でしかない。その結果、日本はOECD加盟国のなかで一番会社の倒産が少ない国になりました。

倒産が一番少ない国であることが、社会に安心感をもたらし、比較的平等な社会と穏やかな国民性を生んだことは事実でしょう。でも、経済に新陳代謝がなく、全体として衰退していく社会で良いのか。グローバルに戦っていける会社を生み出すためにも、有能な人材と資本が開放され、それらがアニマリスピリッツを持った若い起業家のアイデアと結びつくような社会を実現できれば、と考えています。

(対談終わり)

お話を聞いた方

徳成 旨亮 氏

株式会社ニコン取締役専務執行役員CFO

慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。 三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオン・バンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2020年まで4年連続選出される(2016年から2019年の活動に対して)。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓蒙活動にも取り組んできている。『CFO思考』は本名での初の著作。

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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