スタートアップ経験者が日本の大企業に戻ってこないと、日本は厳しい

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※本記事は「ダイヤモンドオンライン」に2024年1月20日に掲載された記事の転載です。

日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。5刷3万3000部(電子書籍込み)を突破し、メディアにも続々取り上げられている話題の本だ。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、多摩大学大学院教授の堀内勉氏の対談が実現。「世界で活躍できる子に育てるために親ができること」「ビジネスパーソンの教養」「企業倒産の意味」といったテーマについて、6回にわたってお届けする。(撮影/疋田千里、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)

「会社のパーパス」を決める前に
考えるべきこと

堀内勉(以下、堀内) 今、若い人たちはすごく変わってきていると思います。ワーク・ライフ・バランスという言葉があるじゃないですか。仕事と個人の生活のバランスをどう取るか、ということが問われているのですが、これからはもっと進んで、仕事と個人の生活の区別そのものがなくなっていくのではないか、と。

とは言っても、昭和時代のように、仕事にすべての時間を絡み取られてプライベートがない、という意味での「区別がない」ではないです。自分のパーパスというのがまずあって、そのパーパスに沿う形で社会と関わる。そしてその社会とのかかわりの中で、何らかの形で生活の糧が得られる。

それは別の言葉で言えば「仕事」になりますが、おそらくそのような世の中になっていくのではないかと思っています。

今はみんな会社のパーパスというような話をするのですが、でもそんなのは優等生っぽくて嘘くさい。あなたは本気でそんなこと思っていないだろう、と思うわけですよ。

それよりも、自分のパーパスは何だか言ってみろ、と私は言うんですね。それで言葉に詰まると、自分のパーパスもないくせに何が会社のパーパスだ、と言ってみんなシラけてしまうんですけど。

だから若い人には、まず自分のパーパスを考えてみてもらいたい。それでそのパーパスにこの会社が合うのかどうか、そこをしっかり考えてみたらどうですか? と提案したいのです。

徳成旨亮(以下、徳成) 自分のパーパスがわかれば、なぜこの会社とは合わないのかわかりますし、そうすればどうやったら合うのかも探れるようになる。

堀内 それでどうしても合わないなら、辞めればいいんですよ。今は会社を辞めたって、レールから外れるわけではないし。私が会社を辞めた1998年頃は、コイツ完全に頭がおかしくなったってみんな言いましたけど。

徳成 堀内さんは日本興業銀行の総合企画部にいらっしゃいましたからね。エリート中のエリートですから、それを辞めるなんて当時は考えられない。

堀内 その点、今は会社を辞めることのハードルが下がっているじゃないですか。だから辞めてもいいから、まずは自分のパーパスをきちんと考えてみましょう、と。嫌々会社のパーパスを復唱したって、自分の心の中に入ってくるわけもないのですから。

ワーク・ライフ・バランスと言うとき、会社と自分の生活が別々にあって、その割合をどうしたいか? ということが問われていると思うんですね。5対5にするのか、6対4にするのか、あるいは3対7にするのか。

でもこれからはそうではなくて、自分の生き方に沿うように世の中と関わったらどうですか? と。それが、おそらくこれからの働き方になるんじゃないかなと思っているんです。だから自分のパーパスがわかっていることが、必要最低条件になってくる。

起業経験者はJTCを乗っ取ってほしい

徳成 特に生成系AIがすごい勢いで発展していると、いずれほとんどの仕事は機械ができるようになるから。そうすると、一次情報やローデータを作る人にならないと、本当にすることがなくなりますからね。写真を撮るといった感性系のものとか、指圧のような施術側の指の形や力加減と受け手側の好みという無限の組みあわせがあるフィジカルなものとかは、残るかもしれないですけど。

今回僕は本を書いてみて、けっこうスタートアップの方たちからDMなどをいただいて、知り合いになったんですね。そうすると、世の中はずいぶん変わってきているなと思いました。「世の中を良くしたいから」とか「こういうことをやりたいから」とかいった理由で起業している人がたくさんいて、エンカレジングというか、勇気付けられました。

それこそゴールドマン・サックスを辞めてスタートアップに加わりましたとか、マッキンゼーを経て起業しましたとか、大企業を辞めて、未上場企業に移りましたとか。世の中、変わってきたな、と思いましたね。ただ残念なのは、皆企業規模が小さいということです。

堀内 ゼロが1個か2個違いますよね。

徳成 違います。それでいつまでもJTC、つまりジャパニーズ・トラディッショナル・カンパニーと揶揄されているオールドファッションな大企業が幅を利かせているんです。ネットで検索すると、JTCの特徴として、長すぎる会議、多すぎるハンコ、仕事の8割は社内調整、とか書いてある(苦笑)。まさにJTCで働いている僕も最近知ったんですけど。

でも実際にグローバルに戦っているのはそのJTCたち、時価総額〇兆円という大企業たちです。だからJTCを良くしていくためにも、スタートアップで経験を積んだ方々にはまた戻ってきてほしいなと思います。何だったら会社経営をやってほしい。

そうじゃないと、日本は厳しい。今みたいに上場して終わり、みたいなスタートアップがたくさんできても、日本経済全体としてグローバルには戦えないですから。

堀内 上場したときの時価総額が最高で、あとはただ落ちていくだけ。そうすると流動性がなくなって、誰も手を付けないということになってしまいます。

徳成 そんなスタートアップがいっぱい出ているわけで。それでも、中にはアメリカみたいにグローバルに広がっている会社があるかと言ったら、以前にもお話したように、言語の壁とか、日本のルールに基づいて作られた会社であったりして、なかなかグローバルに展開できない。

ならば一応日本にも、ベースがしっかりしていて、広く名前が知られている大企業がまだいくつかありますから、そこを核に、できれば乗っ取るぐらいぐらいのつもりで若い方々にはやってもらいたいな、というのが最近僕が一番思っていることです。

堀内 それは面白い視点ですね。私の小学校のときからの友人で経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦氏も同じようなことを言っています。

彼は大学教育において「G型とL型に分けるべき」という主張をしています。つまりグローバル人材を育てる大学と、ローカル経済の発展に貢献する人材を育てる大学、と。それで経済も同じようにGとL、グローバルに戦う会社とローカルにやっていく会社と分けるべきだと、そのようなことを言っているんですね。

それはベンチャービジネスにおいても同じで、世界に出ていくことを前提に起業するなら、日本のローカルルールの上で会社を作っていては絶対にダメだ、と。ローカルルールがあることは認めたうえで、でもグローバルに出ていく人は最初からグローバルルールに乗っかって行かなきゃダメだというようなことを積極的に発信していて、私もすごく共感します。

日本の大企業は
やっと変わり始めたか?

徳成 同感ですね。最初からNASDAQ上場を目指してスタートするとか。それで日本国全体で、そういう人たちを応援することが大事です。

「君たち、海外で頑張ってきてね。僕たちは国内を固めるから」みたいなことがあってもいいと思うし、さらに言えば、そのGとLに行き来があってもいい。「ちょっと疲れたから日本に帰ってきて温泉に入るわ」みたいな、ね。

堀内 そしてもうひとつ大事なのは、やはり日本の大企業の変革ですね。昨年、経済同友会の代表幹事にサントリーホールディングス社長の新浪剛史氏が就任しました。新体制になってどのように変わるのだろうと思っていたら、初っ端から激しく変わり始めました。

昨年7月には、新公益連盟と連携協定を結びました。新公益連盟というのは「公益」と付いているように、NPOが中心の団体です。その中でも株式会社形態で上場を目指している会社が、インパクトスタートアップ協会というのを作っています。代表理事を務めているREADYFORの米良はるか氏とか、五条・アンド・カンパニーの槙泰俊氏とか、私が財務顧問をやらせてもらっているライフイズテックの水野雄介氏とか。

それで新浪代表幹事は、新公益連盟と連携を結んで、新公益連盟の人たちをどんどん経済同友会に入れると宣言したわけです。これは画期的なことです。経済同友会というのはけっこう敷居が高くて、上場していない企業の人はなかなか入れなかったですから。

徳成 上場している企業の役員をやっていれば、わりと簡単に入れたりするんですけどね。

堀内 私は森ビルの専務時代に入りました。森ビルは非上場企業なのですが、会社の規模的に合格でして。そこでCFOをやっていたので無条件で入れたのですが、スタートアップとか、あとそもそも業態的に売上が小さいコンサルティング会社などに対しては、ものすごく敷居が高いんです。

ですが、そうした新公益連盟のメンバーをどんどん入れていくということになって、敷居への懸念自体を変えてしまった。すごい変革です。

新浪氏は経済同友会の代表幹事になる前から、「大企業が変わらなきゃダメだ、大企業が変わるなら経済同友会も変わらなきゃダメだ」ということを強く言っていました。今の、全員背広を着てネクタイを締めたグレイヘアの中年男性だけが集まっている経済同友会では完全に立ち行かなくなるということで、大幅な改革を始めたのです。それで今、大きく変わる兆しが見えてきています。

おそらくこの先、メンバー企業も必然的に変わってくると思います。経済同友会には副代表幹事が16名ほどいるのですが、そのメンバーも今や、昔では考えられないくらい、女性とベンチャー企業の創業者が大半を占めています。その構成を見ても、日本も少しは変わり始めたのかなと思っています。

そもそも新浪氏が代表幹事になるときも、反対意見が多かった中、前代表幹事であるSOMPOホールディングスグループ会長の櫻田謙悟氏が押し切ったと聞いています。この人事を見ても変わる兆しが出ていたのですが、それをきっかけに大企業もきっと変わってくる。そしてベンチャー企業はもっと大きく成長していくだろうと思います。

この両輪が変わっていかなければ、日本の経済はいずれ行き詰まります。私自身は、大企業が変わるのは、自分の昔の経験から「無理だろうな」と思っていたのですが、最近雰囲気が違ってきたと思っています。

徳成 そう! 大企業も変わろうと頑張っていますよ(笑)。

お話を聞いた方

徳成 旨亮 氏

株式会社ニコン取締役専務執行役員CFO

慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。 三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオン・バンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2020年まで4年連続選出される(2016年から2019年の活動に対して)。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓蒙活動にも取り組んできている。『CFO思考』は本名での初の著作。

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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※本記事は「ダイヤモンドオンライン」に2024年1月20日に掲載された記事の転載です。
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