米・イラン戦争の本質と
中東情勢を見定める「地政学」

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2026年2月に米国・イスラエルによるイランへの攻撃から始まった「米・イラン戦争」は、ホルムズ海峡の封鎖を招き、中東からの原油輸入停止による経済的混乱をもたらしています。日本にとってはるか遠くに感じる中東ですが、石油のみならず技術協力、文化交流などを通じて日本との外交上信頼関係を築いてきた歴史があります。企業経営への影響を語るうえで欠かせない中東情勢について、地政学的にどう捉えるべきか、現地事情に詳しく、YouTube番組「越境3.0チャンネル」を運営する石田和靖氏に伺いました。
※この記事は2026年4月21日時点の情報を基に構成しています

米・イラン戦争とイラク戦争はともに石油をめぐる問題

私が中東を軸とした世界の情勢を毎日更新して伝えるYouTubeチャンネル「越境3.0」を始めたのは、2021年のことです。もともと中東情勢にほとんどの日本人は関心を持っていなかったのですが、2022年に、パレスチナ支援で中東にも影響力を持つロシアのウクライナ侵攻が起き、さらに2023年に過激派勢力ハマスの攻撃によってイスラエル・パレスチナ戦争が勃発。それにより、石油や食料などの問題で、中東と日本が密接な関係にあることに皆が気づき始めました。

それを決定づけたのが、今年2月、米国とイスラエルによる電撃的なイラン攻撃で幕を開けた米・イラン戦争でした。この戦争の影響で原油高が続き、日本の企業経営を圧迫しています。先日、北海道北見市で講演会を行ったとき、酪農家だという受講者が熱心に耳を傾けていました。農機具を動かす燃料が高騰すると、酪農経営が苦しくなる。その危機感から私のYouTubeを視聴するようになったというのです。

日本人の中東に対するイメージには、テロと紛争が絶えない地域というネガティブなものが多くあります。私は何度も中東諸国を訪れていますが、日本人に対し、このうえなく優しい国ばかりで、まるで逆の良いイメージしかありません。

中東のネガティブイメージをつくっているのは、米国とイスラエルです。それこそ、彼らのプロパガンダであり、戦略なのです。逆にいえば、彼らは中東において唯一、正義を体現しているのが民主主義国家イスラエルであり、周囲のテロリスト国家と闘っているというイメージ戦略を展開しています。

今回の米・イラン戦争で、2003年に起きたイラク戦争を思い起こした人もいるでしょう。イラク大統領サダム・フセインが大量破壊兵器を隠し持っているという疑いで、米国が開戦に踏み切った無謀な戦争です。後にトーマス・フリードマンという米国人ジャーナリストがイラク戦争は米ブッシュ政権と石油会社が共同で企てた戦争であることを実証、暴露したように、その本質はイラクの石油を獲得するための戦争でした。

同じことが、今回の米・イラン戦争にも言えます。表向きの理由はイランの核兵器開発を止めることですが、裏側の真の目的はイランの体制転換を通じてイランの石油を支配することにあると私は捉えています。

トランプ政権にとっては、今回の戦争はイラク戦争と違い、準備不足でした。イスラエルの強い圧力があって、開始せざるを得なかった。そういう意味では、イスラエルの手のひらの上で米国が操られている戦争といってもいいかもしれません。

混乱の大元となった中東と英国間の歴史

中東といえばイスラムのイメージが強く、「イスラム教徒は怖い」というイメージも日本では流布しています。でも考えてもみてください。イスラム教徒の中にも原理主義思想を奉じる過激派もいれば、優しくて賢明な人たちもいます。30年ほど前、日本でもオウム真理教の信者たちによるテロ事件が起こりました。その信者たちは日本人でしたが、日本人すべてが過激な思想を信じていると思うのは間違いです。同じことが中東の人々にも言えます。

そもそも中東に混乱をもたらしたのは、自国の都合を最優先した、第1次世界大戦時の英国の姿勢にありました。英国はオスマン帝国と戦いますが、その際に、異なる相手と3つの協定を結びました。

まずは1915年に締結された「フサイン=マクマホン協定」で、英国が戦争に勝ったら、パレスチナにアラブ人の国をつくるという、アラブ人との約束です。

2つ目が、1916年に締結された「サイクス・ピコ協定」です。英国がロシアとフランスに約束したもので、戦争に勝ったら、オスマン帝国のアラブ人地域をこの3国で分けるという内容でした。

3つ目が、1917年の「バルフォア宣言」です。英国が勝利を収めたら、ユダヤ人の国をつくるという約束でした。実際、第1次世界大戦が終わると、ユダヤ人は現在のイスラエルおよびパレスチナ周辺に戻り、この地域に暮らす人のうち、約80%を占めるアラブ人を追い出し、イスラエルという国を建国したのです。

英国が交わした3つの矛盾した約束は、当然、各国間の摩擦を引き起こします。衝突が相次いで起こり、1948年、イスラエルと、その周辺国であるエジプト、ヨルダン、レバノン、シリア、イラクのアラブ諸国との間に戦争が勃発します。第1次中東戦争です。この戦争に勝利したイスラエルはパレスチナ地域を占領します。結果、70万人以上のパレスチナ人が難民となり、現在に続くパレスチナ問題となっていったのです。

「火種を抱える」イスラエルをめぐる地政学リスク

20世紀になってつくられたイスラエルという国家がなかったら、中東は今よりずっと平和になっていたでしょう。ただ、対パレスチナという意味合いだけではなく、今のイスラエルが危険なのは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を筆頭とした極右系政治家が「グレーターイスラエル(大イスラエル)」構想というものを持っているためです。

グレーターイスラエルとは、アフリカのナイル川から西アジアのユーフラテス川までの地域を指し、そこが本来、ユダヤ人に約束されているはずの土地であり、そこまでイスラエルの領地を広げる、という構想です。これが現実になるとすれば、今はイスラエルと仲がよいエジプトはもちろん、イラクを筆頭としたアラブ諸国が黙っていないでしょう。戦争の発火点となるような火種を今のイスラエルは抱えているのです。

私が見るところ、イスラエル人の75%は穏健派のユダヤ人ですが、残り25%は、もともとイスラエルの領土ではない土地を不法占拠して生まれた入植地出身の第2世代が多く、原理主義的で過激な考えで固まっています。今の第6次ネタニヤフ政権は、そうした第2世代の思想を色濃く反映しています。

このように過激化するイスラエルを見限り、パレスチナを守ろうと、国家承認する動きが世界中で高まっています。2025年には英国、フランス、カナダといったG7諸国が初めてパレスチナを国家承認し、その数は国連加盟国が193カ国ある中、160カ国にまで上っています(2025年9月現在)。日本は米国に追随し、未承認です。

熱烈な親日国、イランの実像

今回、このイスラエルの敵となっているイランですが、熱烈な親日国です。イランの石油を日本が守ったからです。

イランは、第2次世界大戦後、英国やソ連の影響下から逃れ、パーレビ国王の下で独立を果たしますが、国内の油田は英国資本の会社に管理され、イラン政府は手が出せませんでした。そこで1951年、首相のモハンマド・モサデクは、石油の権利を取り戻すべく、英国資本の石油会社を国有化します。これに怒った英国はイラン近海に軍艦を派遣し、イランに石油を買い付けにきたタンカーの撃沈を宣言します。

これを知った出光興産社長の出光佐三(さぞう)は、逆に石油買い付けのチャンスだと判断すると、1953年4月、同社のタンカー、日章丸を極秘裏に送り、英国海軍の厳重な警戒網をくぐってイランの港に入ると、石油買い付けに成功しました。

この快挙は世界に報道され、イラン国民は「日本が助けてくれた」と喜び、これ以降、イランは親日国家となったのです。実はそれ以前にも、20世紀初頭、イランは南下政策を続けるロシアに脅威を感じていましたが、1905年に日本が日露戦争でロシアを破ると、その勝利を歓迎していました。そんな歴史的背景もあったのです。

さらにいえば、1980年代前半に一世を風靡したNHKドラマ「おしん」の影響も見逃せません。イランでも放映され、勤勉であり努力家、辛抱強い主人公に日本のイメージを重ね、感動し、多くのイラン人がぼろぼろ涙を流していたのです。

私が尊敬するイラン人の一人が、今もよくメディアに出てくる外務大臣のアッバス・アラグチです。もともと駐日イラン大使でしたが、任期中に東日本大震災に遭遇しています。福島第一原子力発電所が事故に遭い、放射能汚染が懸念され、ほとんどの国の駐日大使が母国に逃げ帰る中、彼は日本に残ったばかりか、妻と一緒に福島に赴き、被災者相手に炊き出しのボランティアに従事していました。すごい人です。そういう人がアメリカとの停戦協議に当たっているわけです。日本人はトランプ米大統領の言っていることより、アラグチの言葉を信ずべきだと思います。

日本はアメリカとイランの仲を取り持ち、和平協議の仲介役となるべき

今回の米・イラン戦争ですが、鍵を握っているのがそのトランプです。相当負けが込んでいる米国がどこかの時点で停戦を言い出さない限り、終結の見込みは小さい。その一方で、米国側のお金が続かないという事情もあります。一機200万円のイラン製の爆薬搭載ドローンに対し、1発10億円の迎撃ミサイルを打ちまくっているわけですから。

トランプが撤退を決意すれば、戦争はすぐに終わりますが、米国では中間選挙が11月に控えていますから、トランプが敗北を認める形での撤退に踏み切ることはまずありません。イラン側がどこまでトランプに花を持たせてくれるか。戦争を終わらせるためには、トランプの選挙対策まで考えなければならない。イランも大人の対応を迫られているわけです。

イランとしては、和平協議の中で、自分たちが成し遂げたい3つの目標があります。1つ目は中東から米軍を完全に撤退させることです。2つ目は米国がドル以外の通貨での石油決済を湾岸諸国に認めること。最後はホルムズ海峡の主権をイランとオマーンが所有するということです。トランプとしては、これをすべて受け入れるということは、自分たちの敗北を認めることですから、できません。

一方の米国はイランの核開発計画ならびに弾道ミサイル計画の終了と、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラなど、イランによる代理民兵組織への支援の停止などを求めています。何をどこまで受け入れるかという両者の綱引きが行われているのです。

日本はどうしたらいいのでしょうか。

まずは米国に完全追従する立場は止めるべきです。同盟関係がありますから、バランスが大切ですが、唯々諾々と指示に従うだけではなく、トランプに逆提案したらどうでしょう。トランプはビジネスマンですから、利益になる話なら喜んで乗ってくるはずです。

私が以前から言っていることですが、たとえば、東シナ海にあって、石油や天然ガスの宝庫といわれる第7鉱区や、茨城沖の天然ガス田、日本近海に多く埋蔵され、次世代のクリーンエネルギーとして期待されているメタンハイドレート(低温かつ高圧の環境でメタンガスと水が結合した「燃える氷」)などを、いつまでも試掘段階にしておかず、日米での本格的な共同開発の対象にすることをトランプに提案するのです。成功すれば、日本の純国産エネルギーが増えるばかりか、中東への石油依存もだいぶ解消されるはずです。

なおかつ、米国とイランの和平協議は日本で開催したらいい。日本は米国とは同盟国ですし、イランは親日国です。しかも、日本政府はトランプともアラグチとも仲がよい、という立場を外交において十二分に発揮するのです。

米国の要求とイランの要求に対し、日本がシナリオをうまく組み立てて調整し、停戦協議の仲介役となるのです。対イラン投資や、日本による原油買い付けの再開など、戦後復興の話ももちろん含める。協議の場所は、アラグチの思い出の地でもある福島でどうでしょう。世界中の大きな話題となり、日本株は急上昇するはずです。

もともと中東諸国と日本は、原油取引だけでなく外交や技術協力でも強い絆を結び、友好関係を築いてきました。アラブ人には「自分の国はアジアにある」という意識があり、欧米より日本に対して親近感を強く抱いています。企業経営者も政府関係者も、近視眼的な視点でなく、かつての出光佐三のように、大局的に事態を見つめ、大義の下に判断・行動していくことを私は願っています。

お話を聞いた方

石田 和靖 氏(いしだ かずやす)

作家・中東情勢アナリスト・国際情勢YouTuber(越境3.0チャンネル)

1971年、東京生まれ。東京経済大学中退後、会計事務所に勤務し、中東~東南アジアエリアの外国人経営者の法人を多く担当。駐日外国人経営者への財務コンサルティングを多く行う。これまでにアジア・中東・アフリカなどグローバルサウスの国々を中心に世界50カ国以上を訪問。最新の世界情勢を毎日更新しているYouTubeチャンネル「越境3.0チャンネル」は、チャンネル登録者数31万人超(2026年4月末現在)の人気チャンネル。『新・中東秩序 アメリカのイラン攻撃が生む大変化!』(ビジネス社)など、著書多数。

[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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