CRE戦略とは?不動産で企業価値を向上させる戦略と効果最大化の視点

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記事公開日:2019/12/18    最終更新日:2023/11/09

CREとは、Corporate Real Estateの頭文字で、CRE戦略は「企業不動産戦略」のことを指します。企業不動産戦略は、経営戦略の一環として企業が不動産をどのように取り扱うかを考える戦略であり、企業価値の向上にもつながります。

今回は、CRE戦略がもたらす企業価値向上の効果と、特に中小企業がその効果を最大化させるために必要な視点を整理してみます。

CRE戦略とは

CRE戦略は、2008年4月に国土交通省が公表した「CRE戦略を実践するためのガイドライン」において、『企業不動産について、「企業価値向上」の観点から経営戦略的視点に立って見直しを行い、不動産投資の効率性を最大限向上させていこうという考え方を示すもの』と定義がされています。
2010年には「CRE戦略実践のためのガイドライン」(2010年改訂版)(全3章)が公表されました。このガイドラインは、国土交通省が設置した研究会により、官民協力の下、CRE戦略の促進および企業がCRE戦略を実践するにあたっての実務の指針を提示することを目的として、作成しされたものです。
現在所有している土地や建物だけを考えるのではなく、賃貸物件から自社物件の購入を検討する、または自社ビルを売却し賃貸物件へ移るといったように状況に応じて、どうしたら不動産を効率よく使えるのかを多面的にみていく必要があります。

CRE戦略がもたらす企業価値向上の効果

CRE戦略がもたらす5つの企業価値向上の効果について確認してみましょう。

① 不動産、人件コストの削減

現在、立地している本社や支店の場所が費用に見合った働きをしているのかという観点のもと、拠点の移転や統廃合をすることで、コストの削減が見込めます。
不動産にかかる費用として賃料、管理費、修繕費や固定資産税などがありますが、業務を外注することで人件コストを抑え、よい立地の物件に移転できれば、人材を確保しやすくなり、採用活動にかかる費用の削減にもつながることでしょう。

拠点の移転や統廃合を実施する場合には、業務の生産性を向上させるテクノロジーや、スペースシェアリングを活用することでワークスペースの削減が期待できます。多面的な広がりをみせる不動産テックの活用を一考してみるのもよいかもしれません。

単に不動産のコストだけなく、立地による人件コストや輸送コストの変動も勘案し、トータルで改善を試みることが重要となります。

② キャッシュ・イン・フローの増強

働く人たちにとって快適な職場環境を整えることや①にあげたコスト削減によって生産性を向上させて、事業収入アップを図ります。

企業不動産の中には、企業活動などに使用されていない、また適切な活用もされていない遊休不動産と呼ばれるものがあります。
本業とは連動しない遊休不動産をどうすべきなのか。そのまま売却もしくは賃貸に出すのか、建物が残っていれば、取り壊して更地として売却するのか、取り壊した後にマンションなどを建て賃貸にだすのか・・・多くの選択肢が考えられます。

大事なのは、そのときだけでなく未来の企業にとっても、効果的な結果が得られる方法を選択することです。

近年のように先行きが不透明で、将来を予測するのが困難な時代にあっては、所有している不動産を売却し、手元資金を厚くすることで経営を健全化させる局面が出てくるかもしれません。

具体的な事例として、2020年12月に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で業績が悪化していたエイベックスは、本社ビルの売却を発表しました。このときの売却益は290億円だったと報じられていて、70億円の営業赤字をカバーできただけなく、本業の拡大や新規事業へ着手等、経営の選択肢を増やす結果となりました。

③ 不動産デューデリジェンスによるリスク除去・分散・軽減

CRE戦略にそった計画的な不動産デューデリジェンスは、現状の管理状況や適法性を明らかにし、不動産が経営に与えうるリスクを除去・分散・軽減する効果があります。

購入した時から長期間そのままの状態の不動産や管理が行き届いていない不動産などは、経営にまでリスクを与える恐れがあります。近年では、景観に関する規制を強化している都市や地域が増えてきました。景観を害するような不動産や、テナントとの軋轢、共用部分における不適切な使用等、不動産に関する問題を放置したままにしておくと、その情報が広まっていき、企業の信用や価値が下がってしまいます。

まずはどういった不動産なのかよく調査をして、どのようなリスクがあるのか確認をすべきです。必要であれば専門家に協力を依頼すると心強いでしょう。

自社で所有し続けるリスクが大きければ売却するという判断もあり得ます。管理業務を外注する、改修や改善等手を加えることによって、なるべく経営リスクとなりそうな不動産の除去・分散・軽減を図りましょう。

ただ所有しているだけでは不動産のリスクから経営リスクへと発展する可能性があります。所有している限りリスクをゼロにはできませんが、そのリスクを許容できる範囲に抑える必要があります。

④ 顧客サービスの向上

特に顧客が訪れる店舗や事務所の場合、CRE戦略によって企業不動産の配置が最適化されれば利便性が高まり、提供されるサービスや商品のクオリティ向上も見込まれ、顧客に対して価値を生み出す結果となります。

また、副次的な効果としては生産性の向上や不動産・人件コストの削減によって、以前に比べて商品の価格を抑えた提供が可能となり、顧客層の拡大につながります。

⑤ 企業イメージの向上

どこに企業を構えるのか。場所や建物によっては、企業をアピールできる可能性もあります。

例えば、環境や社会に配慮した建物に入居していれば、環境についてきちんと考えている企業というよいイメージが広がり、対外的なアピールにも使えるようになります。

また、その地域のシンボルとなる有名な不動産であれば、親しみやすさや認知度の向上が見込めるかもしれません。

さらに丸の内や大手町、有楽町など東京の中心に不動産を所有することになれば、企業のブラント価値を大きく上昇させることでしょう。

企業におけるCRE戦略のトレンド

企業経営における不動産の位置づけは、基本的に事業(本業)を軸に考えることができます。すなわち、本業に直接的、または間接的に欠かせない不動産と、本業とはあまり関係がない不動産です。前者は「コア」不動産、後者は「ノンコア」不動産と言えるでしょう。

また権利面に着目すると、「所有」と「賃借」に分けることができます。所有の場合は土地、建物の所有権を持ち、それを自社で使用するか、第三者に賃し出します。賃借の場合は基本的に、自社の本業などのために借りるケースです。

さらに重要なのは、その不動産がキャッシュを生むかどうかという点です。コア不動産にしろ、ノンコア不動産にしろ、また所有不動産にしろ、賃借不動産にしろ、キャッシュを生むケースと、キャッシュを生まないケースがあります。キャッシュを生む不動産は経営にとってプラスです。キャッシュを生まない不動産でも、本業にいろいろな形でメリットをもたらすことがあり、一概に不要とは言えません。

以上のように考えていくと、企業経営における不動産の位置づけは下記1~8に分けることができます。

  1. 「コア不動産」×「所有」×「キャッシュ発生」(例:自社ビル、自社工場、自社倉庫など)
  2. 「コア不動産」×「所有」×「キャッシュなし」(例:社宅、寮など)
  3. 「コア不動産」×「賃貸」×「キャッシュ発生」(例:賃借オフィス、レンタル工場、レンタル倉庫など)
  4. 「コア不動産」×「賃貸」×「キャッシュなし」(例:借り上げ社宅、借り上げ独身寮など)
  5. 「ノンコア不動産」×「所有」×「キャッシュ発生」(例:アパート、賃貸マンション、貸しオフィスなど)
  6. 「ノンコア不動産」×「所有」×「キャッシュなし」(例:自社グラウンド、遊休不動産など)
  7. 「ノンコア不動産」×「賃貸」×「キャッシュ発生」(例:サブリースなど)
  8. 「ノンコア不動産」×「賃貸」×「キャッシュなし」(例:撤退した事業用の賃借不動産など)

こうした区別に応じ、「事業活動の視点」「財務会計の視点」「不動産活用の視点」「事業承継と相続の視点」の4つの視点で、自社における不動産の扱いを検討していきます。

CRE戦略の効果を最大化するための4つの視点

企業にとって最適なCRE戦略は、その企業の経営理念・経営戦略によってさまざまですが、ここではCRE戦略の効果を最大化するための、基本的な4つの視点を整理してみましょう。

① 事業活動の視点

「コア」不動産は本業との関係で考える視点です。具体的には、本社や支店の事務所、工場、倉庫などをどこに、どのように確保するかが問題になります。

創業期の企業の場合、「コア」不動産をすべて自社所有とするには相当な資金が必要となり、キャッシュフローが回らなくなります。そこで、事業の成長スピードに合わせて賃借するのが合理的でしょう。

一方、安定成長の企業で内部留保が厚いような場合は、本社ビルや工場、倉庫などの所有を検討していくことになるでしょう。ただ、支店や支社は移転・統廃合の可能性があるので、賃借するのが一般的です。

なお、新規事業として不動産賃貸業に取り組むような場合、基本的に自己所有で行うことになります。ただし、サブリースのようなビジネスモデルの場合は、不動産を賃借してさらにそれを第三者に転貸することもありえます。

② 財務会計の視点

所有する不動産はバランスシート上、資産に計上されます。資産に見合った収益が上がればいいのですが、バランスシートがあまり膨らむと通常、ROA(総資産利益率)が悪化しやすくなります。

上場企業では、株式市場での株式評価にROAなどの財務指標が影響します。しかし、非上場の中小企業であればROAはさほど気にする必要はありません。

中小企業では不動産を所有するにあたって、借入金とのバランスが重要です。借入金の利息分は経費計上し、元本分は利益から返済することになります。キャッシュフローとの兼ね合いをよく確認しなければなりません。

③ 不動産活用の視点

自社が所有する不動産は、どれくらい効率よくキャッシュを生んでいるかが問題になります。

たとえば、本社ビルは本業の拠点であり、事業収益を生み出しているはずです。しかし敷地の容積率が余っているような場合、新たに建て替えて自社で使用するフロア以外を他社に貸せば、新たなキャッシュを生みだすことができます。

かなり以前に取得して簿価が低く、含み益のある不動産は信用力につながる一方、含み益が出ていることでそれ以上の活用は検討せず、その不動産が持つポテンシャルを十分、引き出せていないケースもあります。

工場や倉庫は周辺環境の変化に合わせて用途を変更(コンバージョン)することで、新たにキャッシュを生み出せる可能性があります。

活用の見込みが薄い遊休不動産は、財務戦略の観点から思い切って売却するのもひとつの手です。

④ 事業承継と相続の視点

さらに中小企業の場合、不動産戦略においては事業承継と相続の視点が不可欠です。なぜなら、銀行から融資を受ける際に経営者個人が担保を提供したり個人保証をしたりと、経営者の資産と会社の資産の線引きが曖昧になることが多いからです。

創業当初はそれも仕方のないことですが、いつまでも曖昧なままでいいわけではありません。

たとえば将来、事業承継を検討するときに問題になります。事業承継のパターンは大きく、「親族内承継」「役員・従業員承継」「社外への引継ぎ」の3つに分けられます。「親族内承継」では会社と経営者の資産の線引きが曖昧でも構わないかもしれませんが、「役員・従業員承継」や「社外への引継ぎ」ではマイナス要因になりかねません。

さらに、経営者に相続が発生した場合、事業のために利用している土地の扱いが大きな問題になります。相続人に納税資金がない場合、その土地を処分せざるを得なくなったりすると、事業の継続に支障が生じかねません。また、相続人同士の資産分割において、事業のために利用している土地をどうするか、揉めた場合も同じです。

なお、事業のために利用している土地は、相続税評価額が減額される「特定事業用宅地等の特例」があります。これが適用されると土地の面積が400㎡までは相続税評価額が80%減額されます。

対象になるのは、亡くなった経営者が個人事業を営んでいたときの事業用の土地(「特定事業用宅地等」)、または自身がオーナーだった同族企業に貸し付けていた事業用の土地(「特定同族会社事業用宅地等」)です。ただし賃貸アパートや貸駐車場など貸付事業に使用していた土地はこれらに当たらず、「貸付事業用宅地等」として相続税評価額の減額割合等が少なくなります。

相続においてこうした特例が適用されるかどうかも、あらかじめ検討しておく必要があります。

まとめ

中小企業の不動産戦略には、以上のように事業活動、財務会計、不動産活用、事業承継と相続といったいくつもの視点が関係してきます。

自社の経営を安定させ、さらに発展させていくため、CRE戦略の効果も踏まえて不動産をどのように扱うか、中長期的な視点で取り組んでいくことが大事です。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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