ベンチャー・中小企業で導入事例が相次いでいる「1on1」の効果を最大化させるには?
中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第20回]

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人材育成の手法として、近年「1on1」が注目を集めています。上司と部下が文字通り1対1の面談を短時間×高頻度に繰り返すことで、コミュニケーションが円滑になり、部下のモチベーションを高める効果が望めます。

しかし、目的を間違うと効果が出ないどころか、部下のやる気を削いでしまうこともあるため注意が必要です。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回は、「1on1」を上司と部下の双方にとって有意義なものにするためのコツについて見ていきます。

「1on1」とは?

「1on1」とは、上司と部下の間で行われる面談を指し、その名の通り1対1で実施します。半期に一度程度の「人事考課面談」とは異なり、1回30分以内などの短時間で、毎週または隔週、あるいは最低でも月1回程度の高頻度で実施することが前提となります。

「1on1」は、主に以下のような目的のために行います。
・部下の悩みやストレスなどの本音を引き出す
・業務内容や今後の目標をざっくばらんに話し合う
・業務に臨む姿勢を、客観的に見つめ直す

いずれにせよ、堅苦しい人事面談とは異なる内容が求められます。

また1on1は、1回のミーティングを独立した「点」で認識してしまうと、実施する意味や効果が薄れます。クラウドなどを活用しながら記録を残し、部下やチームの変化を「線」として観測できるような体制を整えておくことも大切です。

「1on1」によって得られるメリットとは?

先述の通り1on1は、企業がルーティンとして実施する人事考課面談とは内容が異なります。

最大の相違点は「評価の場ではなく、部下のための時間」であること。上司は部下の話に耳を傾け、必要に応じて意見を交換する機会を持つことで、以下のようなメリットを得られます。

離職の抑止効果

ハラスメントが極度に問題視される近年の社会では、上司と部下の話題は業務に関する事柄が中心となります。

残業時間や飲み会等でプライベートな会話が繰り広げられていた古き良き日本社会とは異なり、近年の企業では上司と部下の間の密な交流が図りにくくなっています。

このため、内心に不満を蓄積させた部下のSOSサインを、見逃してしまうこともあるでしょう。

「寝耳に水の離職」という事態を招かないために、1on1を有効活用したいものです。

部下のモチベーションアップや業務態度改善

1on1を通じて密なコミュニケーションを取る中で、部下がどんな目標を掲げているかを上司が把握すれば、達成のために必要な行動について話し合うことができます。また、進捗を把握した上で目標の達成が難しい場合には、何を改善すればいいのか、意見を出し合うこともできます。

部下は「上司が自分の問題を一緒に考えてくれている」という心地良い緊張感を持つことで、高いモチベーションを維持できるようになります。

苦手意識や偏見が取り除かれる

1on1には、上司と部下の間に横たわる苦手意識や偏見を取り除く効果もあります。

企業内では「話しづらいタイプ」と感じられる人材が、部下や上司として配属されるケースがありますから、定期的にコミュニケーションを取ることでお互いの個性を知り、適度な距離感を把握することも重要です。

「1on1」の留意事項

ここまで見てきたように、1on1は「部下が業務上で、より良いパフォーマンスを発揮する環境作り」の一環となります。このため上司にあたるスタッフは、以下の点に留意する必要があります。

「部下ファースト」の精神を忘れない

1on1の場において、上司は一歩下がって部下の話に耳を傾ける姿勢を持たなくてはなりません。「意見を遮る」「持論を延々と展開する」場になってしまうようでは、本末転倒です。

部下に「もう参加したくない」という感想を持たせないよう、どう振る舞うべきなのか、事前によく考えておきましょう。

「義務」の空気を回避する努力を

部下の中には「1on1なんて面倒」など、ネガティブな感情を抱く人もいます。義務や強制の空気が濃厚だと、有意義な場にならず、形だけになってしまうでしょう。

こうした流れを打開するためには、上司は率先して心を開く必要があります。

例えば部下の口から仕事の愚痴が出てきた場合、上司も過去の失敗談などを打ち明けて共感する姿勢を示すと、相手の心はほぐれやすくなります。また堅苦しさをできるだけ排除するため、快適な雰囲気を演出するのも効果的です。

メリハリを意識する

熱心に取り組み過ぎるのも問題なのが、1on1の難しいところです。上司にも部下にも本来の仕事がありますから、時間を念頭に入れておく冷静さも必要でしょう。1回の時間が短くても、頻度が高ければ「手抜き」という印象にはつながりません。

終了予定時間をきちんと把握し、メリハリのある内容をめざしましょう。

「1on1」の導入事例をチェック

ここまで1on1の概要やメリットについて、紹介してきました。次に1on1を実際に導入している企業の事例を紹介していきます。

1on1を全社的に実施する楽天

Eコマースや通信など、さまざまな事業を展開している楽天は、2017年から1on1を全社的に実施しています。具体的には「管理職が直属の部下全員に対し、30分の1on1を、毎週/隔週の頻度で実施」しているのです。

その目的は「1on1を通し、楽天グループの組織力を向上させること」にあります。同社は1on1を「上司が部下を深く知る場」と捉えており、評価や通達、そして指導の場とは混同しない方針を掲げています。また導入前にはビジネスコーチを招き、役員向けの研修も開催したそうです。

スキルアップへの支援を提供するクックパッド

人気の情報レシピサイトを運営するクックパッドは、週1回という高頻度と、1回15分という短時間をかけ合わせた1on1を実施しています。「個人プレーが主流」という社風を踏まえた上で、スタッフ間の理解を深めるための施策として、1on1が導入されました。

同社には「進捗報告会」というミーティングが別に用意されています。このため1on1では具体的な目標設定などについて話し合われることはなく、メンバー間の信頼関係構築に役立てられています。

中小企業における「1on1」の目標点

上記の事例を一読した中小企業経営者の方々は「大企業のように質の高い1on1を実施するのは難しい」と感じるかもしれません。しかし1on1の目的は、あくまで「部下が前向きな気持ちを持つための場を設けること」にあります。

近年は人材の流動性が高まっているため、優秀な人材の確保はますます難しくなっています。そのため、かつてよりも部下一人ひとりと向き合う1on1のような場を設けることの重要性が増しているのです。「完全な形ですぐに導入するのは難しい」という中小企業でも、本来の目的を理解し、その精神を社内へ根付かせ始めることが、最初の大きな一歩となるでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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