コロナ後の世界と都市問題②
コロナ後の世界をどう見るか? 2030年、2040年の未来予測~都市と不動産を中心に~④

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目次

本連載では、コロナ後の世界を見通した3冊の本(『2040年の未来予測』(成毛眞著)、『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』(ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー著)、『パンデミック後の世界 10の教訓』(ファリード・ザカリア著))を取り上げて、特に、都市と不動産の問題に焦点を当てて、解説していきます。

連載第4回の今回は、第3回に引き続きアメリカのジャーナリストのファリード・ザカリアによる『パンデミック後の世界 10の教訓』の内容を見ながら、前回までの議論を受ける形で、都市の問題について考えてみたいと思います。

前回までの連載はこちら
第1回「2040年の日本社会の姿とは?」
第2回「日本の地政学リスクと不動産市場の将来」
第3回「コロナ後の世界と都市問題①」

それでは、新型コロナウイルスの感染爆発後の新しい大都市のモデルというのは、どのようなものになると考えれば良いのでしょうか。パリ市長のアンヌ・イダルゴは、パンデミック後の世界で躍進を遂げるために、自身の市長再選を目指す選挙運動の一環として、パリを「ヴィル・ドゥ・キャール・ドゥール」──「15分都市*」に変えていくという目標を掲げました。パリが持つ多彩な機能の全てを中心に終結させ、新たな近接性が実現した「15分都市」では、自転車利用が奨励され、交通渋滞が低減することになります。
15分都市*:徒歩か自転車で15分以内に必要なものをまかなえる都市

但し、大きな構図としては、やはり都市がハブとしてその周囲を郊外と準郊外が取り巻く構図は維持されます。つまり、「都会生活の密集を好む人もいるし、都会から離れた場所に大きめの家を買って通勤や娯楽で都会に通うことを好む人もいる。アクティビティの集まり具合は場所によって異なるが、都市が太陽系の中心であることはどこも同じだ。地政学に関する著書があるパラグ・カンナは、「ユナイテッド・シティ=ステイツ・オブ・アメリカ」という表現を使って、経済的に見ればアメリカは「合州国(ユナイテッド・ステイツ)」ではなく、相互に連結した都市圏の集合体になったのだ、と指摘している。発展した巨大都市のそれぞれが、世界の舞台で個々に活躍する役者としての自覚を持つようになった。主な都市圏で経済および人口が成長するにつれ、その知事たちは国家レベル、ときには国際レベルの大きな政治的権力の行使を追求する。」ということです 。

同時に、ザカリアは、次のように言っています。「大都市に関心のほとんどが集まる一方で、小さな街にもさまざまな活動がある。アメリカの場合、近隣の大学の卒業生をそのまま引き込むことに成功している州都や街が、特に近代経済で繁栄する傾向があるようだ。デンバー、オクラホマシティ、オースチン、ナッシュビル、コロンバスで近年に人口増加が目立つのはそのためである。オハイオ州立大学──全国最大規模の大学だ──の学生のうち、およそ四〇%は卒業後も州都コロンバスで生活を続ける意向を示している。・・・今回のパンデミックを、長期的に持続する変化の機会として利用する都市は、これから回復していくことだろう。危機の対策を誤っている都市は、負のスパイラルに囚われていくことだろう。」

そして、結局、街に活力を与えているのはそこに住む人々と、彼らの熱狂的な活動なのだとして、次のように続けます。「この表現は、優れた都市設計論を披露したジャーナリストのジェイン・ジェイコブズが、都市を愛すべき理由として語った本質をとらえている──多様性だ。都市の建築物は計画に沿って作られるのではなく、むしろ行き当たりばったりに、有機的に成長していくべきだとジェイコブズは確信していた。・・・ジェイコブズは都市の住民における多様性も賛美している。都市が何百年も多くの人々を引き寄せ続けるのは、ここでは自分と違う人間と出会い、自分とは違う視点で世界を見ることを学べるからだ。最高の都市はモザイクだ、とジェイコブズは考えていた。・・・私たちが踏み込もうとしている世界は、これからますます、過去とは比べものにならないほど多様性に満ちた世界となる。ありとあらゆる思想、産業、職業、企業、そして人があふれかえるようになる。人の出自、人種、肌の色、信念、信じる神の種類も、そもそも神を信じるかどうかも、いっそう多彩を極めるようになる。この世界で胸を張れる生き方をしていくために、私たちは多様性との向き合い方を学び、多様性を脅威ととらえず、それを強みに変えていく方法を学ばなければならない。その学習をどの土地よりも首尾よく行うのが、都市である。都市は同化と融和の工場として作られるものなのだ。」

また、ジョン・イビットソンとダリル・ブリッカーは、その著書『2050年 世界人口大減少』の中で、多様性のひとつの側面として、「社会が都市化すると、女性が力を持つようになる。一族の連帯、組織的宗教の権力、男性の支配力は低下する。そして少子化になる」と言っています。これは、農村地域では子供を沢山持つことが好ましいとされるからです。

こうした、都市が生み出すエネルギーとその価値創造については、2002年に都市社会学者のリチャード・フロリダが著した『クリエイティブ資本論:新たな経済階級の台頭』が、都市におけるクリエイティブ・クラスの台頭という形でよく示しています。

フロリダは、クリエイティブ・クラスを、「科学者、技術者、芸術家、音楽家、デザイナー、知識産業の職業人などの、新しい価値をつくり出す仕事に従事する人々」であると定義しています。これまでは、我々にとって自己のアイデンティティというのは、所属する会社や従事する仕事でしたが、クリエイティブ・クラスの時代では、生活の場やライフスタイルがより重要になってきます。そして、新たな価値創造を担う「21世紀の人的資本」であるクリエイティブ・クラスこそが、都市発展の鍵であるとして、本書の中で、彼らを引きつける都市の条件を考察しています。

このように、「都市」というのは、幾多の試練を乗り越えて成長してきた、人間にとっての重要な価値創造の場であり、環境的にも優れているのだとすれば、その成長が止まるということは容易に想像できません。

それでは、今回の新型コロナウイルスの感染爆発と、これからの都市のあり方の関係は、どのように考えたら良いのでしょうか。現時点では、Zoom会議に代表されるような、リモートワークにだけ焦点が当たっていますが、これからのオフィスのあり方について、ザカリアは次のように言っています。

「社会的関係資本が本物の金銭だと想像するならば、ビデオ会議でそのお金は貯まらない。今までに貯めたお金を払ってビデオ会議をしているだけだ。・・・一番よいのはハイブリッド型だ。バーチャルなやりとりの便利さと、実際の接触の確かな手ごたえ、その二つの価値を合わせたモデルが望ましい。」

そして、この理由について、古代ギリシャの哲学者アリストテレスを引き合いに出して、次のように述べています。「古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、史上初の政治学書とも言われる著書『政治学』を紀元前三五〇年頃に著し、冒頭で、人間は『社会的動物』であると宣言した。このフレーズは、翻訳によっては『国家(ポリス)的動物』とも言われる。どちらも意味するところの重要な一部分を表現したもので、原文であるギリシャ語『ゾーン・ポリティコン(zoon politikon)』は包括的な言葉なのだ。ゾーンは人獣共通感染症 zoonosis の前半と同じく動物を意味する言葉、そしてポリティコンは古代ギリシャにおける都市国家と、そこに存在する人間のコミュニティを指す言葉、『ポリス』の概念によって形成されている。アリストテレスは、ハチの集団は巣がなければ繁栄しないことになぞらえながら、人間は都市でなければ完全な存在になれないと説いた。アリストテレスいわく、人間は動物としては珍しく、生まれた時点では完成していない。その後の環境によって形成されていくのである。人を完全な成人へと形作る最も適した環境が、都市なのだ。むしろ都市が作られる最大の目的は、人を人間として、市民として形成していくことにある。・・・私たちは、本質として、社会的動物なのだ。アリストテレスは、かくも慧眼の持ち主だった。」

その上で、ザガリアは、「人間を、社会を、そして世界をどちらの方向へ向かわせたいのか、それを決めるのは人間だ」として、ある意味で、新型コロナウイルスのせいで人々がそれまでの固定観念から解放された今こそ、新しい社会を築くチャンスなのだと言います。そして、マルクスの、「人間は自分の歴史を作る」「だが、好きなように作れるわけではない」「すでに目の前にある、与えられた環境、過去から受け継がれてきた環境のもとで作るのだ」という言葉を引用して、「この残酷なパンデミックが、変革と改革の可能性を作り出している。新しい世界への道は開かれた。その機会をつかむか、ふいにするか、それは私たちしだいだ。運命は決まってなどいない」という言葉で、本書を締めくくっています。

[参考文献]
ダリル・ブリッカー, ジョン・イビットソン『2050年 世界人口大減少』, 倉田幸信(訳), 河合雅司(解説) ,文藝春秋,2020年
成毛眞『2040年の未来予測』,日経BP,2021年
ピーター・ディアマンディス,スティーブン・コトラー『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』,土方奈美(訳),山本康正(解説),NewsPicksパブリッシング,2020年
ファリード・ザカリア『パンデミック後の世界 10の教訓』,上原裕美子(訳),日本経済新聞出版,2021年
リチャード・フロリダ『クリエイティブ資本論 : 新たな経済階級の台頭』, 井口典夫(訳), ダイヤモンド社,2008年

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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