すべてが「加速」する世界に備えよ
コロナ後の世界をどう見るか? 2030年、2040年の未来予測~都市と不動産を中心に~⑤

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目次

本連載では、コロナ後の世界を見通した3冊の本(『2040年の未来予測』(成毛眞著)、『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』(ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー著)、『パンデミック後の世界 10の教訓』(ファリード・ザカリア著))を取り上げて、特に、都市と不動産の問題に焦点を当てて、解説していきます。

「コロナ後の世界をどう見るか? 2030年、2040年の未来予測~都市と不動産を中心に~」の最終回は、『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』(ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー著)を取り上げて、テクノロジーの観点から未来はどうなるのか、特に不動産がどのように変わるのかを見てみたいと思います。

前回までの連載はこちら
第1回「2040年の日本社会の姿とは?」
第2回「日本の地政学リスクと不動産市場の将来」
第3回「コロナ後の世界と都市問題①」
第4回「コロナ後の世界と都市問題②」

本書の著者の一人で「シリコンバレーの父」と呼ばれるピーター・ディアマンディス(以下、ディアマンディス)は、MIT(マサチューセッツ工科大学)で分子生物学と航空工学の学位、ハーバード・メディカルスクールで医学の学位を取得した後に、民間宇宙開発を支援するXプライズ財団を立ち上げてCEOに就任しています。また、テクノロジー分野で多くのスタートアップを設立するシリアルアントレプレナー(連続起業家)でもあります。

更に、Google、3Dシステムズ、NASAの後援を得て、シリコンバレーでシンギュラリティ大学を創設するなど、そのビジョンは、盟友のイーロン・マスク(スペースX、テスラCEO)を始め、ラリー・ペイジ(Google創業者)やビル・クリントン元大統領らからも絶大な支持を受けている、アメリカを代表するビジョナリー(事業の将来を見通した展望を持っている人物)の一人でもあります。

ディアマンディスらは、これから10年(原著は2019年刊行)という2030年までの近未来において、ビジネス、産業、ライフスタイルなどのあらゆる面で、私たちの想像を超えて加速する未来、かつてないほどの勢いで空想が現実化する世界が到来すると言います。そこでは、地球上の主要産業が一つ残らず、全く新しいものに生まれ変わるというのです 。

ここで示されているキーワードは、「コンバージェンス(convergence、融合)」という包括的なトレンドです。つまり、AI(人工知能)のようなエクスポネンシャル(指数関数的)に進化するテクノロジーが、AR(拡張現実)など別の最先端テクノロジーと融合(コンバージェンス)することによって、進化の加速が更なる加速を呼び、多くの産業に破壊的変化が起きるというのです。

ディアマンディスらは、マッキンゼーのリサーチなどを基に、こうした破壊的変化が、小売り、広告、エンタテイメント、教育、交通、医療、長寿、金融、不動産、環境といったあらゆる産業分野で起こりつつあることを詳細に描き出しています。

ここで具体的に挙げられているのは、「自動運転と空飛ぶ車」「ハイパーループ」「アバターとロボット」「アンドロイド教師」「5Gや衛星によるネットワーク」「宇宙やバーチャル世界への移住」「生物の限界を超えるメタ知能」「遺伝子治療による病気と老化の克服」「タダの資源の出現」などです。

こうしたテクノロジーの出現によって、「ショッピングモールの消失」「SNSマーケティングの終焉」「自動車保険の消滅」「不動産の立地優位性の消滅」「大規模な雇用の創設」「食料流通システムの全面見直し」「環境問題の克服」といった、産業やビジネスの大変革が起きるというのです。

このように、これからの10年間は、起業家、イノベーター、リーダーのみならず、機敏さと冒険心を持ち合わせたあらゆる人にとって、途方もない機会が待ち受けている「とんでもない時代」であり、それに対して我々は心して臨まなければならないというのが本書のポイントです。

このように、今後、テクノロジーが破壊的な変化をもたらすであろう中で、第11章「保険・金融・不動産の未来」において、不動産ビジネスの変化の例として最初に出てくるのが、バーチャルオフィスを活用して急成長する不動産仲介会社「eXpリアルティ」です。
https://exprealty.com/

登記上の本社はアメリカのワシントン州にあるものの、現実のオフィスを持たない不動産仲介のeXpリアルティは、バーチャルな世界でビジネスを行うことで、設立から10年で著しい成長を遂げています。

「eXp World」という専用のソフトをダウンロードし、バーチャルオフィスにログインすることで、数百名の社員のアバターが出社しています。
https://youtu.be/EWM8WwXP-HQ

創業者のグレン・サンフォードは「店舗を構える」という不動産屋の常識を破壊しました。この点について、本書は次のように記述しています。

「ブリック&モルタル型と決別し、世界初のクラウドベースの全国的な不動産仲介会社、eXpリアルティを立ち上げたのだ。不動産から身軽になったサンフォードは、バーベラという仮想世界プラットフォームを使って、完全没入型の巨大キャンパス(本社)を創った(バーベラは現在eXpの傘下にある)。現在eXpリアルティのキャンパスには、アメリカ50州、カナダの三つの州、そして世界の400の主要な不動産市場から1万6000人の不動産エージェント(営業担当者)が集まる。それだけの活動が、一つの物理的拠点もなく運営されているのだ。」

このように、eXpリアルティは不動産業に大きな変化を引き起こしていますが、それはコンピューティング、ネットワーク、VRというたった3つのエクスポネンシャル・テクノロジーが融合した結果に過ぎません。しかし、これにAI、3Dプリンティング、自動運転車、空飛ぶタクシー、水上都市という新たな要素が加われば、全てが一気に変わることになります。

そして、そこには不動産業の中でサンフォードによる破壊を免れた不動産仲介業者(ブローカー)も含まれることになります。実際、しばらく前から、不動産の売買判断の支援にもAIが使われるようになっていて、不動産情報サイトのZillow(ズィロー)、Trulia(トゥルーリア)(TruliaはZillowが買収)、Redfin(レッドフィン)を始めとした、多くの企業が数百万ドルをAIに投じてきています。

AIが不動産のリサーチにおいて力を発揮しているように、AI、VR、センサーを融合させれば、パーソナルな仲介業者ができてしまいます。例えば、「ロフトはインダストリアルモダン・スタイル、床はコンクリート、近所に高級食品スーパー」という希望を言えば、それを聞いた不動産AIは基準に合った物件を提示し、VRヘッドセットは24時間いつでも物件を見せてくれることも可能になります。AIを使ったVR不動産プラットフォームを使えば、売りに出ているあらゆる物件を調べ、好きなように改築し、思い描いてきた夢の家が本当に住みたい家なのか、確かめられるようになるのです。

これに加えて、テクノロジーの進化によって、不動産そのものの価値も変わることになります。不動産業界では「立地」が全てだと言われますが、買い手が不動産を選ぶ際には、「近接性」も重要な要素となります。自動運転車、空飛ぶ車、ハイパーループによってこれまで地理的に不便だった場所に簡単に行けるようになれば、近接性そのものが大衆化されることになります。単にA地点とB地点の関係が変わるというだけではなく、立地そのものが増えることになります。

ここでディアマンディスが持ち出すキーワードが「水上都市」です。「水上都市は私たちの直面する三つの問題の解決策として提唱されている。海面上昇、人口爆発、生態系の危機だ。地球温暖化によって500もの沿岸都市の存立がおびやかされるなか、水上都市は洪水、津波、ハリケーンへの防御という切実なニーズを満たしてくれる。それに加えてすでに人類の40%が海の近くで暮らしていることから、水上都市はこれまで何もなかったところに最高の立地を生み出すことになる」のです。

このように、「エクスポネンシャル・テクノロジーは不動産業のありとあらゆる側面を非物質化、非収益化、そして大衆化している。企業のインフラはバーチャルの世界に移った。仲介業者もまもなくそれに続き、あと10年も経たないうちに不動産業を支えてきた立地と近接性という二つの支柱も非収益化するだろう。今はごく少数の限られた人しか望みどおりの物件を手に入れることができないが、いずれ庶民でもすばらしい物件を手ごろな価格で手に入れられるようになる」というのです。

[参考文献]
成毛眞『2040年の未来予測』,日経BP,2021年
ピーター・ディアマンディス,スティーブン・コトラー『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』,土方奈美(訳),山本康正(解説),NewsPicksパブリッシング,2020年
ファリード・ザカリア『パンデミック後の世界 10の教訓』,上原裕美子(訳),日本経済新聞出版,2021年

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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