金融機関の企業の見方はこう変わった…資金調達を円滑に進めるには

日々の事業を継続するための運転資金や、生産設備の更新やIT機器導入などのための投資資金など中小企業の資金繰りにおいて欠かせないのが金融機関の融資です。

本連載では、金融機関による融資や信用保証協会による保証など、中小企業に対する金融面でのサポートについて解説していきます。今回は、スムーズな融資の前提となる、金融機関の評価について整理していきます。

金融庁の「金融検査」と融資環境の変遷

メガバンクから地方銀行、信用金庫、信用組合、あるいは証券会社や保険会社など、国内の金融機関は金融庁の監督下にあります。

そして金融庁は、金融機関の業務の健全性や適切性が確保されているかをチェックするための「金融検査」を定期的に行っているのです。

「金融検査」において、金融検査官の手引書になっていたのが「金融検査マニュアル」です。そして金融機関も、この検査マニュアルを参照しながら経営方針や内部規程等を作成し、業務の健全性・適切性を確保していたのです。

そもそもこの検査マニュアルは、1999年にバブル崩壊に伴う不良債権の積極的な処理を進めるために作られました。しかし、次第に不良債権問題が落ち着いてくると、一律のチェックリストであることによる金融機関の目利き力の低下や、過去の実績ばかりを重視する姿勢などが問題視されるようになり、廃止に向けた議論が進められるようになりました。そして2019年12月をもって「金融検査マニュアル」は廃止されました。

金融検査そのものがなくなったわけではありませんが、融資においては金融機関独自の判断をさらに尊重するという流れになったのです。

「事業性評価」による融資の促進

こうした流れを受け、今後は銀行が積極的に中小企業に融資してくれるようになるのかというと、必ずしもそうではないでしょう。

これまでとは違い、銀行にとっては自分たちの目利き力が問われます。これまでのように過去の実績だけでなく今後成長が見込める企業かどうかを評価しますので、資金を借りる側である中小企業からのアプローチによっては、融資を受けられる可能性が出てくるのです。

そこで重要となるキーワードが「事業性評価」です。

かつて、金融機関が企業を評価する際には、概ね過去3年分の財務諸表の提出を求め、それをもとに収益力や保有資産を分析して、「この企業はここまで貸しても大丈夫」「この企業にはこれ以上は貸せない」といった判断をしていました。金融庁の「金融検査マニュアル」による債務者区分がまさにその典型です。

それに対して「事業性評価」では、過去の財務データや担保・保証にとらわれず、企業の事業内容や成長可能性などをもとに返済能力などを評価します。

また、決算書の数値データだけでなく、その企業が持つ技術力や販売力、経営者の意欲や経営改善に向けた取り組みといった数値では測れない部分にも目を向けようとしているのです。

金融庁は、こうした「事業性評価」を金融機関に強く推奨しており、2015年に改訂された『金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)』の冒頭には次のように記されています。

(1) 継続的な企業訪問等を通じて企業の技術力・販売力や経営者の資質といった定性的な情報を含む経営実態の十分な把握と債権管理に努めているか。

(2) きめ細かな経営相談、経営指導等を通じて積極的に企業・事業再生に取り組んでいるか。

これらは金融機関側から債務者である企業への働きかけを重視したものといえるでしょう。

「経営ビジョンシート」にみる融資のポイント

企業側にとっても、金融機関が自社を「事業性評価」によって判断してくれることは大きなメリットがあります。現状の経営は厳しくても今後の経営の見通しなどを積極的に評価してもらうことで、融資が受けやすくなるはずです。

そのためには、金融機関からの働きかけを待つのではなく、むしろ自社の方から積極的に働きかけていくべきでしょう。自社の強みなどをきちんと整理し、情報提供に努めることです。「うちの会社にはこんな強みがあります」「このように経営改善していくつもりです」ということをアピールするのです。

では、具体的にどのようにすればいいのでしょうか。

そこで参考にすると良いのが、日本政策金融公庫が公表している「経営ビジョンシート」です。これは、日本政策金融公庫が農林水産事業者に対して事業性評価融資を行う際に提出を求めるものですが、内容は他の業種にも十分当てはまります。

「経営ビジョンシート」の作成(記入)にあたってのポイントを見ていきましょう。

■経営理念

まず、経営理念の記載が求められます。中小企業に経営理念はなくてもかまわないという考え方もあるかもしれませんが、株式会社は社会的な存在であり、会社を成長させていく上で「理念」は不可欠です。

具体的には、経営を行っていくことで何を達成したいのか、また経営において大切にしている思いや考えについて記入します。

■経営の強み・弱み

ここには自社の現状を記載します。自社の現状を知るには、同業他社と比較した自社の強みと弱みを分析してみると把握しやすくなります。

記入にあたっては、職種や作業工程ごとに細かく項目を分けてみると良いでしょう。ちなみに、農林水産事業を対象としている「経営ビジョンシート」では、生産、仕入、加工、販売、組織体制、財務、人材労務、その他という項目に分けています。

■将来ビジョン

経営理念や自社の強み・弱みを踏まえ、将来どのような経営を目指すのかというビジョンを記入します。具体的には3年から5年後くらいに、こうなっていたいという姿を思い描くとよいでしょう。1年後では近すぎますし、10年後だとあまりに遠すぎるからです。

■経営戦略

将来ビジョンを達成するために必要な取り組みを記入します。取り組みはステップ毎でも複数あっても構いませんが、それぞれ開始時期と達成時期も記入します。

ここは金融機関に対して強くアピールしたい部分です。会社案内などの補足資料があると説得力が増すので用意すると良いでしょう。

■事業概要

将来ビジョンを実現するために、今回取り組む事業の概要と自己資金や借入れ(希望額)などの資金計画を記入します。事業の動機、実施担当者、実施時期、懸念や課題についてもなるべく詳しく記入すると良いでしょう。

ちなみに、日本政策金融公庫の場合、「経営ビジョンシート」を提出すると、公庫による事業性の評価とその結果のフィードバックを受けます。その結果を踏まえ、次は「経営発展プラン」を作成するという流れになっています。

 

今後、中小企業への融資は金融機関独自の判断が尊重される方向で進んでいきます。金融機関は貸出先となる企業の経営方針や将来のビジョンなどを、ますます重要視してくるでしょう。したがって、借りる側である中小企業においては、自社の強みや将来性を把握・整理し、金融機関へアピールすることが必須になっていきます。金融機関の担当者とコミュニケーションを深めていくことが、円滑な資金調達の第一歩になると言えるのです。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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