社員全員が採用担当になる? いま注目の「リファラル採用」で人事戦略見直し
〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第15回]

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さまざまな業界で人材不足と採用難が叫ばれている昨今、「リファラル採用」が注目を集めています。社員からの紹介によって人材を選考・採用する手法で、大企業のように採用活動に多くのコストをかけられない中小企業やベンチャー企業など、国内の約6割の企業(※1)で導入されています。

※1:株式会社マイナビ「中途採用状況調査(2021年版)」, https://www.mynavi.jp/news/2021/03/post_30192.html

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回は、リファラル採用のメリットや運用方法・成功事例などについて解説します。

リファラル採用とは?~注目を集める背景

「リファラル採用」とは、自社の社員に友人や知人を紹介してもらう採用手法を指します。紹介という採用手法は、いつの時代にも、どんな社会にも存在していたものですが、ここにきて急激にリファラル採用への注目が高まってきています。以下で、その背景について見ていきましょう。

労働力減少と少子高齢化

リファラル採用への注目が高まっている最大の背景として、日本国内の労働力減少があげられます。経済産業省の予測によると、日本の総人口は2050年までに1億人程度まで減少する見通しです。また少子高齢化が進むことで、15~64歳の生産年齢人口も、全体の約半数近くにまで落ち込むと予想されています。

採用が「売り手市場」に傾いていくことは明らかで、採用広告出稿などの画一的な手法では、人材の確保がいよいよ難しくなっていくのです。(※2)

(※2)2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について/経済産業省, https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/2050_keizai/pdf/001_04_00.pdf

労働者の意識の変化

終身雇用が瓦解した日本社会では、かつての「企業につくす」という通念が、「自己実現や社会貢献のために働く」という考え方に変化しつつあり、それに伴って転職という行為をポジティブに捉える人が増えています。

こうした社会では、入社後に社風が自分と合わないと感じたり、あるいは就職した企業と自分の能力や適性、考え方が合わないと感じたりした場合に早期離職が発生しやすくなります。

雇用条件やスキルなど画一的な項目のみを記載している求人広告では、求職者は自身の労働意識やキャリア志向が、企業が求めるそれらと一致するのかどうかを測れません。企業側にとっても、限られた採用期間内で自社に定着する人材を探すのが、難しくなっているのです。

「リファラル採用」のメリット・デメリット

リファラル採用が注目を集めている背景が分かったところで、次にメリットとデメリットを、求人広告媒体などを利用する通常の採用と比較しながら、見ていきましょう。

メリット

リファラル採用には、採用にかかるコストの削減をはじめ、豊富なメリットがあります。ここでは、代表的なものを3つ紹介します。

①コストの削減
まずリファラル採用では、コストと労力を削減できます。求人サイトなどへの情報掲載料はもちろん、多くの応募者への対応に必要な労力を、大幅にカットできるでしょう。

②ミスマッチ防止
面接等の選考の前段階において、既存スタッフから適性が認められる知人に対し、仕事の内容や環境を共有できます。また紹介される側も、通常の就職・転職活動では聞きにくい質問を知人に率直にぶつけることができます。事前に相互理解が進み、入社後のミスマッチが生じにくくなる点は大きなメリットです。

③期間に囚われずに済む
通常の採用活動は、あらかじめ期間を設定し、期間中に応募があった中から採用者を決定するのが一般的です。しかしリファラル採用はその限りではなく「いまのところ転職の予定はないが、もしかしたらそのうちに」という優秀な人材に、声をかけておくという方法も考えられます。

デメリット

リファラル採用は既存スタッフの力に頼るため、該当者の人間関係や人脈を傷付けないよう、配慮しなければならないという難しさがあります。「紹介とはいえ基準を満たさない場合は採用できない」点を周知する必要があり、既存スタッフから候補者に伝えてよい情報の範囲など、社内向け資料を作成しなくてはならないケースもあるでしょう。

マンパワーが限られている中小企業・小規模事業者にとっては、社内向けの調整にかかる時間や労力はデメリットになり得ます。

リファラル採用の導入から運用までの流れ

次に、リファラル採用の導入から運用までの流れを見ていきます。

1.社内でリファラル採用の制度を整備する
企業のリファラル採用に関する明確な法基準はありませんので、経営者は社内の人事担当者などとともに、制度を設計していきます。募集要項や採用基準はもちろん、採用に成功した場合、当該候補者を紹介した既存スタッフに支払う報酬(1人あたり数万~数十万円が一般的)や条件について、可能な範囲で内容を整備します。

2.制度内容を告知し、方針を周知徹底する
制度を整備したら、社内に告知します。既存スタッフにその気になってもらうためには、詳細な情報を共有する必要がありますので「文書化して配布する」「一斉メールで共有する」などの方法を採用するといいでしょう。また同時に「なぜリファラル採用を導入するか」という方針についても周知徹底し、社内の理解を促すことが大切です。

3.実際に運用を行う
いくら制度を設けても、実際の紹介が発生しなくては意味がありませんので、既存スタッフがアクセスしやすい問い合わせ窓口や、担当者を用意しておくことが大切です。また募集要項や採用基準は、運用中に変化していくものです。そのたびにこまめな情報共有をめざすようにしてください。

成功企業事例のから学ぶ「成功の法則」

国内企業の間で、リファラル採用は続々と導入されています。以下、いくつかの事例を見ていくことにしましょう。

リファラル採用で企業課題を上手に解決

飲食店を全国展開するA社では、採用コスト抑止や離職率低下が大きな課題でした。そこでリファラル採用を積極的に展開する方針を採択。以前よりも福利厚生を充実させるなど、既存スタッフからの協力を得やすい環境づくりに努めました。現在はリファラル採用のシステムがすっかり定着しており、採用コスト抑止や離職率の低下につながったそうです。

既存スタッフの心配にも配慮

IT業界でリファラル採用を推進しているB社は、既存スタッフが抱いている「紹介したのに、知人が選考で落とされてしまったら気まずい」という懸念を感じていました。そこで、もしそのようなケースに発展した場合、会食費用を会社負担する「おわびのディナー制度」を用意したそうです。地道な取り組みが功を奏し、現在B社スタッフの3割以上は、リファラルによる採用者で構成されるようになりました。

社員へのアンケートから始めたC社

産業機械メーカーのC社は、リファラル採用を推進するにあたり、一方的な情報告知には終始せず、まずアンケートを実施しました。社員のリファラル採用に対する印象や、会社への改善要望などを聞き取りつつ、制度に改善を加えていったそうです。結果として、高い専門性を持つ若手中途人材の獲得につながるなど、成果が現れ始めているそうです。

リファラル採用の成功には既存スタッフの協力が不可欠

ここにあげた事例からも分かる通り、リファラル採用を成功させるには既存スタッフの協力が欠かせません。経営者や企業は、採用者だけでなく既存スタッフの立場を汲み取りながら制度を練り上げ、必要に応じて変更していく対応が求められています。

そうした柔軟性こそがリファラル採用を定着させ、「人材不足」という企業課題を解決へ導くことになりそうです。

参考
リファラル採用を成功している企業10社の事例を解説, https://jp.refcome.com/insight/referral/1823

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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