融資、資産売却、私募債…中小企業の資金調達法~会社の「資金繰り」完全ガイド[第1回]
目次
経営者であれば、突然、資金が必要になる場面に遭遇することは珍しくありません。しかし資金繰りの正しい知識がないと、思わぬトラブルに巻き込まれ、大きな損失に繋がってしまうこともあります。健全な企業経営のためにも、資金繰りの基本を学びましょう。
今回は、中小企業で実践できる資金調達の主な方法を紹介していきます。
資金調達の王道「融資」の申込先は大きく3つ
「どうしても資金が必要だ」という場面に直面した際、真っ先に考えられる方法は融資です。融資とは、必要な資金を借り入れることで、その申込先には、大別して以下の3つが考えられます。
①銀行
銀行の融資には、返済が1年以上に及ぶ長期融資と、1年以内に収まる短期融資があります。長期融資の場合は証書貸付が採用され、短期融資の場合は手形貸付が採用されます。証書貸付の場合は連帯保証人の署名・捺印が求められるため、手形貸付よりも手続きが面倒です。
ほかに融資の限度額を決めて自由に借り入れや返済を行う当座貸越や、売掛金の手形を買い取ってもらう商業手形割引などの方法もあります。
銀行から融資を受ける際には、審査を通過しなくてはなりません。通常は企業背景や決算書が重視されますが、結果に不安が残る場合は資金使途や経営計画を明確にしておくことで、突破口が開けることもあります。
なお融資を申し込む銀行を、1つに決める必要はありません。もちろん「所構わず借りた結果、返済ができなくなる」という状態では目も当てられませんが、きちんと返済ができているのであれば、より条件の良い銀行を取捨選択していきましょう。そのなかから、自社のメインバンクと定める銀行を探していくと良いでしょう。
②政府系金融機関
国が出資している金融機関なので安心感があります。日本政策金融金庫や日本政策投資銀行などが該当します。融資先から支払われる金利を収益としていますが、実際の金利額は銀行よりも低いことで知られています。また「一般の金融機関を補完する機関であること」を存在意義としているため「銀行から融資を断られた」という企業でも、融資を申し込んでみる価値は十分にありそうです。
ただし融資にあたっては、銀行の証書貸付と同じく、一般的に連帯保証人の署名・捺印が求められます。審査に1ヵ月程度の時間がかかることが多いため、余裕をもって申し込むようにしましょう。なお、日本政策金融公庫では、個人を対象とした無担保・無保証人の貸付制度があり、さほど高くない審査のハードルになっています。
③ノンバンク系
事業者向け金融や消費者金融、カードローンやクレジットカードのキャッシングなどが該当します。審査基準を低く設定しているため「銀行や政府系金融機関に断られた」という場合でも、融資を受けられる可能性が高いといえるでしょう。また審査のスピードも早いため「すぐに融資が必要」という場合には、大いに役立ちます。
しかしその金利は銀行や政府系金融機関に比べ、高く設定されています。利息制限法が定められているため、天井知らずということはないものの、100万円以上の融資には年15%程度の利息が付きます。銀行の場合は多くても3%台なので、約5倍にもなります。
また一度ノンバンク系で融資を受けてしまうと、次に銀行や政府系金融機関へ融資を申し込んだ際、審査のマイナス材料と判断されてしまうことがあるので、注意が必要です。ノンバンク系への申込みは、あくまで最終手段として考えておくと良いでしょう。
なお、いわゆる闇金系はノンバンクの亜流で、利息制限法をまったく無視した設定となっているため、絶対に手を出してはいけません。泥沼にはまってしまったら、弁護士に相談するよりほか道はありません。
売掛債権を買い取ってもらう「ファクタリング」
資金繰りの最もポピュラーな方法は融資ですが、それ以外の方法もあります。まずは資産売却。これは資金調達のサポートサービスを提供している会社を活用する方法で、「社内にあるめぼしいものを換金していく」という意味ではありません。
そのひとつがファクタリングで、売上として入金が予定されている代金(=売掛債権)を担保に融資を受けるという方法です。たとえば「今月は非常に苦しいのだが、2ヵ月後に数百万円の入金がある」という場合、その売掛金をファクタリング会社に、買い取ってもらいます。
この場合「取引先の企業に了承を得ること」、そして「2ヵ月後に自社でなく、ファクタリング会社に入金してもらうこと」の2つの過程が必須となります。なお手数料相場は、売掛金の1.5%未満程度です。
高い成長性が期待できる企業なら「ベンチャーキャピタル」の活用も
次に考えられるのが出資者探しです。どの企業にも使える手段というわけではなく「現状は赤字が続いているが、高い将来性が見込める業種、または企業」であることが最低条件となってきます。
実際に融資を行うのは、いわゆるベンチャーキャピタルで、その実体は投資会社です。彼らの狙いは「融資先企業が上場した際に、株式を売却するなどして、差益を得る」こと。そのため多くの時間をかけ、対象企業を厳しく審査します。ベンチャーキャピタルは融資先の公募も行いますが、業種が限定されていることが多いため、マッチングの機会はそれほど多くありません。ベンチャーキャピタルの担当者は企業向けの交流会に顔を出していることが多いので、出資を仰ぎたい経営者は積極的に足を運んでみると良いでしょう。
なお出資は通常の融資と異なり、出資者の経営参加がセットになります。こうしたデメリットを考慮しておく必要がある反面、「融資金は、必ずしも返却を求められない」というメリットもあると知っておきましょう。
新規事業のための資金調達なら「私募債」の活用を検討
企業が発行する社債は、公募債と私募債(しぼさい)に分かれ、公募債は、証券会社を通じて広く投資家を募ります。一方、私募債は公募という形式を取らず、募集対象を限定して発行します。少数の投資家が社債を直接引き受ける方法で、公募債に比べると、比較的規制が緩やかです。
私募債には、銀行に社債を引き受けてもらう銀行保証付私募債と、50人未満に社債を引き受けてもらう少人数私募債などがあります。銀行保証付私募債は、銀行の審査をクリアする必要がありますが、少人数私募債は、発行のルールや条件さえクリアできればどのような企業でも募集することができます。
少人数私募債の発行総額や一口あたりの額面は、以下の通りです。
- 発行対象・人数…50人未満(譲渡制限が必要)
- 発行総額…1億円未満
- 一口あたりの最低発行額…1/50以上
私募債は、会社の親族や知人などを勧誘することが基本になります。ただし、元金の一括返済が必要だったり、財政状況が悪いと発行できなかったりと、資金繰りの改善では活用できません。新たな事業を始める際に、活用を検討してみると良いでしょう。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。