「仕事をする場」から「コミュニティの場」へ~クリエイティブな拠点へ進化する都心オフィス空間

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ICTの発展とコロナ禍という特殊な事情によりリモートワークが普及し、オフィスの様相も急速に変化しています。特に重要性が再認識されているのが、コミュニケーションの効用です。オフィスのリノベーションで生産性向上や新規ビジネス創出に期待をかける企業も増えていますが、オフィス環境を定量的に評価するのは難しく、正解がわかりにくいのが問題です。オフィス環境と働く人のパフォーマンスの研究を続ける稲水伸行氏に、ニューノーマル時代に求められるオフィスのあり方をお聞きしました。

社内コミュニケーション不足の危惧

コロナ禍でオフィスのあり方も大きく様変わりしました。一般に、快適な作業環境を確保するのに一人あたり3坪以上の広さが必要といわれますが、現在ではテレワークの併用と、密を避けるためのデスク間の距離確保などによって、オフィスが逆にガランとした空間になりがちです。東京大学大学院経済学研究科准教授の稲水伸行氏によれば、コミュニケーションの機会が減少したオフィスではコラボレーションが生まれにくく、生産性という観点では広々しすぎているのも問題だといいます。

問題はそればかりではありません。オフィスに皆が集まって働いていれば、別の部署で起きている問題や社内の小さな変化も、日常のコミュニケーションや空気感の中で自然と伝わり、なんとなく共有できるものです。しかし、たとえば社員の半数は出社、半数は在宅ワークというスタイルを取っていると、社内に情報ギャップが生じてしまいます。
「そのため、情報のムラが存在することを意識しながらコミュニケーションを取る必要が生じています。ポストコロナ時代のオフィスには、今まで当たり前だったリアルな“face to face”コミュニケーションの場としての役割・機能が、よりいっそう求められることになります」

企業にとってある意味大きな財産である、「自社の風土や文化、行動指針」の共有についても同様です。オフィスでともに長い時間を過ごしていれば自ずと一人ひとりに浸透・定着してきたのが、リアルコミュニケーションが激減した状況では自然な醸成を期待できません。
「フィンランドはコロナ以前からテレワークが普及していた国で、現地のある企業にオフィス環境の実態調査に訪れたことがありました。当時、経営側はテレワークを減らして社員にオフィスに戻ってきてほしいと考えていて、そのためにオフィスのリノベーションを進めていたのです。自社の文化やアイデンティティを感じる場としてオフィスに来てもらうことを、検討していました。」

テレワークでも仕事は十分に回るかもしれませんが、代わりに自社の成り立ちや文化を体感し共有できる場所としての、オフィスの重要度が増すことになるようです。それを念頭にオフィスをデザインする企業も、実際に増えているといいます。

変化する「都心オフィス」の意義

オフィスが単なる「仕事をする場」からリアルなコミュニケーション・コラボレーションをする「コミュニティの場」に変化していく可能性を、稲水氏は指摘しています。リモート環境での仕事がしやすくなったことで、地方にサテライトオフィスを構える企業も増えていますが、こうした動きも、都心部のオフィスの「コミュニティ拠点化」を加速させるものであり、特にクリエイティブの側面において優位性が一層高まることになります。
「真にクリエイティブな発想ができる人というのはごく限られていて、例えば1万人に1人だとしましょう。東京を1,400万人都市として単純計算すると、該当者は1,400人です。東京圏で考えればもっと多くなりますね。一方、1万人規模の地方都市では、該当者は1名しかいません」

そして、クリエイティブな発想ができる人が近接エリアに集まっていることは、新しいカルチャーやビジネスの創出の上で極めて有利な条件になるといいます。
「私がそう思うのは、大学の世界でもこれに近いことが起きているからです。東京で研究ワークショップ等を開けば、多様な大学人・実務家の方がすぐに集まります。しかし地方ではなかなかそうはいかないため、地方の大学に籍を置く先生方は、東京出張をひんぱんに行いながら情報収集をする必要があるそうです」

もちろん、東京への一極集中がもたらす負の側面があることは否めません。しかしこれもICTの発展によって、将来的に是正されていく可能性は大いにあります。

近年都心部を中心に導入の動きが目立つABW(Activity Based Working)型オフィスも、コミュニケーションの活性化を狙ったものです。コミュニケーションが生まれやすい動線を意識した座席の配置にしたり、仕事の内容や目的に応じてふさわしい作業環境を選べるよう、多様なタイプのスペースを用意することで、生産性の向上につながるといわれています。

ABW導入の意義の一つは、いわゆる「ワイガヤ」によるアウトプットの創出であり、オープンエリアを社外とのシナジーを狙ったイノベーション拠点として機能させるのもABWならではの活用法でしょう。ヤフーのオフィス内のコワーキングスペースもその一例。同社の社員でなくても登録すれば誰でも自由に利用でき、そこからコミュニケーションが生まれ、社外とのコラボレーションが進んでいるといいます。

コロナ禍の影響で、オフィスに遊休スペースが生じてしまった企業も少なくありません。
「特に都心のプライムエリアのオフィスであれば手放すのは得策ではないですし、社外の人材を巻き込んでコラボレーションを生む仕組みを作るのも、これからの時代に合った活用方法の一つではないでしょうか」

社員の意識改革もセットで考える

注意したいのは、ABWの導入においては機能的なオフィスというハード面だけでなく、社員の意識などソフト面での改革もセットで推進しなければ、十分な成果につながらないことです。“チェンジ・マネジメント”の推進役を置き、経営サイドと現場サイドの双方を巻き込みながら、一人ひとりの働き方やオフィスのあり方について意識を高めていくプロセスが不可欠です。
「経営者主導の場合、斬新なオフィスができ上がるものの、現場からは働きづらいと不評を買いがちです。逆に現場主導の場合には、細かい要望ばかり出てきて現状の延長線上で終わることも。経営トップが方向性を示し、その範囲内で現場が意見を出していくスタイルが理想でしょう」

ABWに限らずオフィス環境の改革に際し、一丸となってプロジェクトを進めていくことは、変化に対して強い反発や抵抗を示す人への対策という点でも有効です。ワークショップなどを繰り返し行い、意見をすり合わせて価値観を共有していくようなステップが必要かもしれません。
「エビデンスを提示するのも有効です。こんな効果があります、生産性がこれだけ上がります、と数字で訴えると、理解を得やすくなるようです」

組織風土とオフィス環境で変わる成果

機能的なオフィスの構築に成功しても、その効果は、クリエイティビティの発露を促進するような職場の体制、機会があって初めて現れるものです。稲水氏が紹介するのはKEYSという、クリエイティビティのための組織風土の評価指標です(図)。組織的奨励、上司による奨励、仕事グループからのサポート、自由、十分な資源といった要素が、クリエイティビティの向上にプラスになっていることがわかります。

プレッシャーに関しては、仕事の負荷が過剰になることによるプレッシャーはクリエイティビティを阻害する一方で、挑戦的な仕事に取り組むことへのプレッシャーはむしろクリエイティビティを増幅させるという相関が現れています。
「KEYSは、クリエイティビティや生産性を図る12項目を含め全78項目(4点尺度)から成る調査を素にして作られた尺度で、10年近くをかけて12,000人を超えるサンプルを集め、信頼性が確認されたものです。KEYSの質問項目の詳細はウェブサイトで閲覧可能なので、ご自分の職場のクリエイティブ度をチェックすることもできます」

https://www.ccl.org/apac/lead-it-yourself-solutions/team-organizational-assessments/keys-creativity-innovation/

さまざまな要素が重なって、仕事のパフォーマンスの底上げが期待できるのです。優れた発想力を持つ人も、環境や体制が整っていなければ十分な能力を発揮できず、逆に突出したクリエイティビティを持ち合わせていない人も、条件次第でアイデアを引き出していけることになります。働き方や働く環境が大きく揺れ動いている今、企業にとっては、オフィスの可能性を最大限に引き出すことが求められます。

(注:図版  稲水伸行「クリエイティビティの経営学【第4回】クリエイエティビティを生む職場風土とは」 「一橋ビジネスレビュー」2017年秋号 196ページの上の図)

お話を聞いた方

稲水 伸行 氏

東京大学大学院経済学研究科 准教授

東京大学大学院経済学研究科准教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員、同特任助教、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授を経て、2016年より現職。著書に「流動化する組織の意思決定」など。創造性を高める組織のあり方や個人の働き方の研究の第一人者。

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