物価の決まり方

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今回は、物価の決まり方について、解説していきます。

個別企業の物価の決め方

現在アイスクリームを製造している、とあるお菓子メーカーを想定します。

普段はアイスクリームの価格について考える暇がないところ、今月は重役たちの手が空いて考え直す余裕があります。この企業の工場に勤務する従業員は、8時間労働することが「通常の状態」となっています。従業員にとって8時間は、健康を害するほど長くなく、所得が少なくなり過ぎるほど短くもありません。

価格を変えるチャンスが偶然めぐってきた今月、社長や重役は、今月と来月以降の生産コストを考慮して意思決定をします。

今月は景気がよく、従業員の割増賃金などが発生して生産コストが上がっていることから、その追加的コストを織り込んで価格を改定したいところですが、来月以降の生産コストが元に戻りそうであれば、今月価格を上げてしまうと来月以降高めの価格設定が続いてしまうかもしれません。

一方、来月以降もしばらく好景気が続くようであれば、生産コストが高い状態が続く可能性があり、追加的な生産コストを価格に織り込んだほうが望ましそうです。

そのように今月と来月以降の生産コストを考慮して、このお菓子メーカーはアイスクリームの価格を決めていきます。

国全体の物価の決まり方

個別企業の集まりである国全体において、今月ほとんどの企業は、先月と同じ価格に据え置いています。ほとんどの企業が価格を据え置いているとなると、国全体としての物価水準は、今月と先月で大きくは変わりません。

一方、先ほど登場したお菓子メーカーのように、今月価格を変えるチャンスに恵まれた企業が、一斉に価格を上げればインフレ(インフレーション)に、価格を下げればデフレ(デフレーション)になります。

総需要が増大して好景気になった結果生じるインフレを「ディマンド・プル・インフレ」、輸入原材料などの生産要素の価格が上昇した結果生じるインフレを「コスト・プッシュ・インフレ」といいます。ディマンド・プル・インフレであれば、インフレになると同時に景気もよくなっているために中央銀行は金融引締めを行うことになりますが、コスト・プッシュ・インフレであれば、金融引締め要因であるインフレと金融緩和要因である景気悪化が混在して中央銀行は難しい舵取りを求められます。

インフレの理論を式としてまとめた「新しいケインジアンのフィリップス曲線(New Keynesian Phillips Curve)」があります。これは、「今期のインフレ率が、通常のインフレ率とどれほど異なっているか」は、①「今期のGDPギャップ」②「来期のインフレ率が、通常のインフレ率とどれほど異なっているか」③「今期の原材料価格の割増率」という3つの要因によって決まることを示すものです。

①のGDPギャップとは「今期の総生産が、潜在GDP(企業が「通常の状態」で生産をする場合の総生産の水準)に比べて何%高くなっているか」を示すもので、今期の景気を表しています。②は、来期の予想されるインフレ率が、現在の企業の価格設定行動に影響することを表しています。つまり、①今期の景気がよい、②来期に物価の上昇が予想されている、③今期の原材料価格(生産コスト)が上がっている、このような場合に今期の物価が上昇していくことになります。

【参考文献】
塩路悦朗(2019)『やさしいマクロ経済学』日本経済新聞出版社

著者

安田 憲治

一般社団法人 100年企業戦略研究所 主席研究員

一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。
現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学社会的投資研究所客員研究員 。麗澤大学都市不動産科学研究センター客員研究員。
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