国際的な金融取引、為替レートの決まり方

「国際的な金融取引、為替レートの決まり方」のアイキャッチ画像

目次

【関連コラム】
GDPはどう決まる?~経営者のためのマクロ経済学【研究員コラム】
GDPはどう増減する?~経営者のためのマクロ経済学【研究員コラム】
国内の金融取引、日本銀行の金融政策~経営者のためのマクロ経済学【研究員コラム】
国際的な金融取引、為替レートの影響~経営者のためのマクロ経済学【研究員コラム】
日本の2020年度実質GDP、戦後復興期以降で最大の落ち込み【研究員コラム】
GDPに代わる新たな豊かさのモノサシ【前編】
GDPに代わる新たな豊かさのモノサシ【後編】
2022年の経済展望【研究員コラム】

前回は、国際的な金融取引において、為替レート(ある国の通貨と、別の国の通貨の交換比率)が、モノやサービスの相対的な価格や、資産の相対的な儲けに影響することを解説しました。今回は、為替レートがどのように決まるのかについて、説明していきます。

為替レートの落ち着き先の決まり方

まず始めに、為替レートは長期的に落ち着くことを説明します。

現在、同じテレビが米国で1,000ドル、日本で10万円で販売され、為替レートが1ドル10円であるという状況を想定してみます。米国で販売されているテレビの価格を円に換算すると、1万円(1,000ドル×1ドル10円)となり、米国では日本の10分の1の価格で販売されていることが分かります。こうした状況であれば、安く手に入れたい人はみな米国でテレビを買いたいと考え、米国でドルを使って買い物をするために、外国為替市場で円を売ってドルを調達します。このような、2つの市場間での価格差を利用して儲けようとする行動を「裁定取引」といいます。

ドルが買われて円が売られると、円の価値が下がってドルの価値が上がるので、為替レートは円安・ドル高の方向へ進んでいきます。だんだん物価水準の差が縮小して、最終的には「米国で買っても日本で買っても同じ」というところに落ち着くことになります。この「為替レートは、物価の比で決まる」という考え方を「購買力平価説」といいます。

現在の為替レートを決める3大要因

次に、現在の為替レートを決める3大要因(①自国の利子率、②外国の利子率、③予想される将来の為替レート)について説明します。

本コラムでは、話を簡単にするため「落ち着き先である来年の為替レートは決まっていて、市場参加者は全員それを知っている」という仮定を置くことにします。

来年の円ドルレートが1ドル100円になることを知っていて、現在の日本国債の利子率が1%、米国債の利子率が2%であるとします。現在99円(=100円÷1.01)もしくは0.98ドル(=1ドル÷1.02)を持っていれば、来年ともに日本円で100円の価値になります。そこで、99円と0.98ドルが同じ価値になるように裁定取引が行われ、現在の円ドルレートが1ドル101円(=99円÷0.98ドル)に決まります。これを基本ケースとして、金融政策や将来予想の変化によって、どのように現在の円ドルレートが上下するかについて考えていきます。

日本銀行が金融を引き締めたいと利上げをした結果、自国である日本の利子率が2%になり(基本ケースより1%上がり)、米国債の利子率は基本ケースと同じ2%であるとしたら、現在98円(=100円÷1.02)もしくは0.98ドル(=1ドル÷1.02)を持っていれば、来年ともに日本円で100円の価値になります。このとき、現在の円ドルレートは100円(基本ケースより、約1円円高)となります。

日本国債の利子率は基本ケースと同じ1%で、米国の中央銀行であるFRB(The Federal Reserve Board)が金融を引き締めたいと利上げをした結果、米国債の利子率が3%になるとしたら、現在99円(=100円÷1.01)もしくは0.97ドル(=1ドル÷1.03)を持っていれば、来年ともに日本円で100円の価値になります。このとき、現在の円ドルレートは102円(基本ケースより、約1円円安)となります。

日本と米国の利子率が基本ケースと変わらず、来年の円ドルレートが1ドル200円になると予想が変わったとしたら、現在の円ドルレートは基本ケースの2倍となります。「来年円安になる」と市場参加者がみな知っていれば、円を持っていると損してしまうので、今のうちから円を売りたいとなるためです。

現在の為替レートを決める3大要因以外の要因

ここまで見てきた、3大要因以外にも、為替レートを決める要因があります。

例えば、「米国債」と「あまり流通していない通貨を発行している国の国債」があり、それらの利子率(収益率)が同じであるとします。これまで「市場参加者は、儲け(利子率)だけを気にして資産を比べる」という仮定を置いてきましたが、ドルが広く流通していて使い勝手のよい通貨であることによって、儲けは同じでもドルに対する需要が高くなり、為替レートはドル高に決まっていくことが分かります。

また、対外債務残高が膨らみ過ぎているなど、返済リスクの高い国の国債は、その国の通貨への需要は低くなるため、通貨が安くなります。

【参考文献】
Robert Joseph Barro, Xavier Sala-i-Martin(2003)“Economic Growth” 2nd edition, MIT Press
塩路悦朗(2019)『やさしいマクロ経済学』日本経済新聞出版社

著者

安田 憲治

一般社団法人 100年企業戦略研究所 主席研究員

一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。
現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学社会的投資研究所客員研究員 。麗澤大学都市不動産科学研究センター客員研究員。
▶コラム記事はこちら

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ