行き着いた先の経済

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今回は、経済がどのようにして「通常の状態」に行き着くのか、行き着いた先はどのような状態であるのか、行き着けない場合はどのようなときであるのかについて、解説します。

経済がどのようにして「通常の状態」に行き着くのか

現在、経済が「通常の状態」にあったとします。GDPはどう増減する?で見たように、政府の財政政策によって総需要が増えると、各企業が生産を増やすことによって景気がよくなり、インフレ率が上昇していきます。インフレが進むと、多くの国で「物価水準の安定」に対する責任を負っている中央銀行は、利上げ(金融引締め)を行います。すると、国内の金融取引、日本銀行の金融政策で見たように、民間の投資需要が減り、景気が「通常の状態」へと向かっていきます。そして、物価の決まり方で見たように、過熱した景気(GDPギャップ)が収まってくると、インフレ率も下がり、経済が「通常の状態」に行き着きます。

行き着いた先の経済(経済変数の長期水準の決定要因)

行き着いた先の経済では、総生産は企業が「通常の状態」で生産をする場合の水準になります。労働力だけでなく、工場の設備や土地など、すべての生産要素が完全に活用されている状況です。

また、行き着いた先の経済は、実質利子率(モノで測った利子率)が、「国の経済成長率」と「家計(消費者)の選好(好み)」によって決まる状況でもあります。経済が成長しているときは、貯蓄のリターンが多く望めますし、楽しみを後に取っておきたい(現在よりも、将来の消費に重点を置きたい)と考える家計が増えれば、実質利子率が低くても貯蓄は増えていくかもしれません。

「長期的に実質利子率は、名目利子率(お金で測った利子率)から、実際のインフレ率(モノの価格の上昇率)を引いたものに等しい」と仮定すると、中央銀行が名目利子率を一定の水準に落ち着かせるように誘導すれば、名目利子率と実質利子率の差としてインフレ率が決まり、一方で中央銀行がインフレ率の長期水準について目標(インフレ目標)を定めれば、実質利子率とインフレ率の和(足し算)として名目利子率が決まっていきます。

「通常の状態」に行きつけない場合

経済は、必ず「通常の状態」に行き着くとは限りません。過熱した経済が「通常の状態」に戻るには中央銀行による(インフレに対する)利上げが必要となりますが、利上げの度合いがインフレを抑えるには足りない微々たるものであれば、インフレは過熱を続けてコントロールが不可能になっていきます。

また、国債の累積残高(政府の借金残高)のGDPに占める割合が、元に戻りそうにない増え方をすれば、その国の政府の借金返済能力に疑問が持たれるようになり、国債が買われなくなってしまう可能性があります。

IMF(International Monetary Fund, 国際通貨基金)の2021年10月発表によると、ベネズエラのインフレ率は、2019年は19,906%(約2万%)、2020年は2,355%、2021年は2,700%(推計値)、2022年は2,000%(推計値)となっています。これは、同国の政権による「ばらまき政策(大規模な財政支出)」が原因の1つであるといわれています。「通常の状態」から離れて経済がこわれてしまうと、同国の通貨であるボリバル・ソベラノの単位を6桁切り下げるなど、「通常の状態」では考えることのない政策が必要になってきます。

【参考文献】
IMF “World Economic Outlook Database, October 2021 Edition”
https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2021/October(2022年3月31日閲覧)
Robert Joseph Barro, Xavier Sala-i-Martin(2003)“Economic Growth” 2nd edition, MIT Press
塩路悦朗(2019)『やさしいマクロ経済学』日本経済新聞出版社
日経電子版(2021年10月1日)『ベネズエラ、デノミ実施 100万分の1に』日本経済新聞社
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM01D880R01C21A0000000/

著者

安田 憲治

一般社団法人 100年企業戦略研究所 主席研究員

一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。
現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学社会的投資研究所客員研究員 。麗澤大学都市不動産科学研究センター客員研究員。
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