世界で拡大する「ESG投資」の影響や向き合い方は?SDGsとの違いも解説〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第6回]

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財務面だけでなく、環境、社会、企業統治の課題に積極的に取り組む企業に資金を投じる「ESG投資」の投資額が世界的に拡大しています。日本においてもESG株式ファンドの資金流入額は急増し、企業の経営においても、無視できないものになっています。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回は、昨今、注目を集めている「ESG投資」の概要、そして中小企業の経営にどのような影響を及ぼすのかについて考えていきます。

世界が注目する「ESG投資」とは?

近年、世界の運用マーケットで注目を集めている「ESG投資」。E=環境(Environment)、S=社会(Social)、G=企業統治(Governance)の頭文字を取ったもので、それぞれに対し、企業がどのような取り組みを実施しているかを調査・分析し、その結果を投資基準とする手法のことです。

国際連合は2006年、アナン国連事務総長の呼びかけに基づき起草された「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」を発表し、機関投資家にESGの観点から投資するよう、下記の6つの原則を示しました。

1.私たちは投資分析と意思決定プロセスにESG課題を組み込みます
2.私たちは活動的な株式所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れます
3.私たちは、投資対象の企業に対してESG課題についての適切な開示を求めます
4.私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います
5.私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協働します
6.私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します

(出典)PRIサイト https://www.unpri.org/pri/what-are-the-principles-for-responsible-investment(2020/8/5検索)

また投資基準となる項目には、下記のようなものがあります。

環境問題:二酸化炭素の排出量削減、再生可能エネルギーへの取り組み、危険廃棄物の処理・浄化、削減

社会問題:児童労働をはじめとする人権問題の対応、動物愛護、差別問題、地域社会での貢献活動

企業統治:役員報酬、社外取締役の独立性、情報開示

EGS投資は、まず欧州、続いて米国の機関投資家を中心に注目を集めるようになりました。また日本においても、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が責任投資原則に署名してからは年々投資額が大きくなってきています。

「SDGs」とは何が違うのか?

同じように、近年、「SDGs」というワードをよく耳にします。「SDGs」は2015年9月の国連総会で採択された『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』のなかで示された、2030年に向けた国際的な開発目標です。開発途上国と先進国の双方のコミットメントが求められるもので、国際機関や各国政府だけではなく、民間部門も主体的に行動することが要請されています。

SDGsは単なる開発目標で、拘束力はありません。しかし昨今、多くの企業が経営戦略のなかでSDGsの位置づけについて試行錯誤を続けています。地球温暖化への取組み、そして人権と労働問題への関心が、民間企業の間で急速に高まっているのは、SDGsによるところが大きいようです。

このように見ていくと「ESGとSDGsは何が違うのか?」と疑問に思うことでしょう。どちらも社会や環境の持続性を注視する概念で、日本ではほぼ同じタイミングで関心を集めたこともあり、両者は同じものなのか、違うものなのか、議論が交わされてきました。

GPIFはこのような疑問に答えるために、以下のように説明しています。

GPIFが東証一部上場企業を対象に2019年1月から2月にかけて実施したアンケート調査では、「SDGsへの取り組みを始めている」と回答した企業が45%、「SDGsへの取り組みを検討中」と答えた企業は39%を占めました。SDGsに賛同する企業が17の項目のうち自社にふさわしいものを事業活動として取り込むことで、企業と社会の「共通価値の創造」(CSV=Creating Shared Value)が生まれます。その取り組みによって企業価値が持続的に向上すれば、GPIFにとっては長期的な投資リターンの拡大につながります。GPIFによるESG投資と、投資先企業のSDGsへの取り組みは、表裏の関係にあるといえるでしょう。

(出典)GPIFウェブサイト https://www.gpif.go.jp/investment/esg/#b(2020/8/5検索)

世界でESG投資が活発になっていますが、ESGには標準的な定義が存在していません。評価基準は評価機関によってまちまちです。一方、SDGsは17の目標、169のターゲットが当初から定まっています。しかし「飢餓の撲滅」「低所得層の所得向上」など、企業の事業活動や投資家の判断基準にはそぐわないテーマも含まれています。反対にESG投資で注目されるテーマのなかでも、特にG(ガバナンス:企業統治)に関わる項目は、SDGsという国際的な開発目標とは関係が薄いものです。

ESGとSDGsは、国際機関で提唱された社会や環境の持続性を見据える概念という共通項があり、注目するテーマにも重複が多いものです。それぞれの意味や背景を把握したうえで、2つの概念を活用していくことが、これからの企業には求められています。

企業が「ESG」を意識するメリットは?

企業がESGを意識して経営を行うことは「ESG経営」と呼ばれています。世界的な規模でいうと、ESG投資は投資全体の3割を占めるほどになり、ESG経営に力を入れている企業へと投資家の資金が集まるという流れは、年を追うごとに強まっているので、企業はESGを意識せざるを得ないという状況になってきています。

企業がESG経営に取り組むメリットはさまざまですが、特にいわれているものは、以下の3点です。

1.将来的なキャッシュフローの増強
ESG経営での取り組みは、投資家へのアピールに留まらず、新規顧客や取引先の開拓にもつながります。また新たな視点で事業を創出するきっかけにもなり、大きなビジネスチャンスをつかむ可能性も広がります。結果、将来的なキャッシュフローの増強に寄与するといわれています。

2.リスク管理の強化
ESGの「環境・社会・企業統治」の3つの視点は、すべて企業にとってのリスクとなりえるものです。つまりESGの概念を強く意識することは、リスク管理の強化につながります。さらにリスクが下がれば投資家からの注目も集まり、大きなリターンにもつながるという可能性もあります。

3.ブランド力の強化
ESG経営を意識すると、企業の健全性は高まっていきます。結果的に企業のブランド力も向上していきます。ブランド力の向上は、消費者や投資家へのアピールにつながるので、結果、自然と資金が集まりやすい状況になるのです。

ESG経営は企業価値向上に寄与し、利益を押し上げ、資金調達を容易にする可能性があります。一方で、既存事業の見直しやシステム導入など、ESG経営に切り替えることで、大きなコスト負担を強いられる可能性もあります。そのため慎重なプランニングがカギとなります。

中小企業とESGと、どのように向き合うべきか?

ESGは投資家からの資金調達を重要視する大企業が意識するもの、と考えがちです。しかし、大企業はサプライチェーン上にある調達先の選定においても、ESGの概念を意識するようになっています。つまり、ESGの概念に基づく依頼に対応できる調達先は、見直しの対象になりうる、ということです。

たとえば、製造時の二酸化炭素排出量を意識するようになれば、調達先の変更や製造ラインの見直しなどを検討するようになるでしょう。

つまり大企業からの依頼を受ける中小企業もまた、ESGを強く意識することが求められてくるのです。

この傾向は、10年以上も前からESG投資が注目されてきた欧米において顕著です。外資系企業と取引のある中小企業は、さらにESGに関連する取り組みに対しコミットを求める動きが強くなると考えられます。

今後、大手企業の動きに合わせて事業内容や提供品を変更するフレシキブルさが、中小企業に求められるでしょう。これらが経営を圧迫し、中小企業を窮地に追い込む可能性はゼロではありません。一方で、中小企業であってもESGを意識した経営を行えば、取引先との関係強化や新たなビジネスチャンスの創出につながり、飛躍のチャンスになる可能性も秘めています。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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