ファミリービジネスが伸びる本当の理由
~人的関係を武器に、挑戦と解釈を繰り返す~

日本企業の多くを占めている同族企業はさまざまなメリットを備えている一方で、デメリットも少なくありません。持ち前のメリットを活かし、不利な点を補いながら企業価値の継続を図るには何が必要なのでしょうか。経営学者として同族企業に注目し研究を重ねられている淺羽茂教授にお聞きしました。

特定分野の深掘りは同族企業の強み

日本は同族企業が多い国だとされています。日本企業の90%以上が同族企業とされ、上場企業では30~40%を占めています。

ただし、同族企業といってもその定義はさまざま。一般に、同族企業は①持ち株比率、②創業家出身の経営陣、③議決権の3つの観点から定義づけられますが、日本は同族に力はあっても持ち株比率は低いことが多いので、私の研究では、有価証券報告書に記載されている10大株主の中に創業家出身者(財団も含む)が入っていること、そして代表者が創業家出身者であることを同族企業の条件としたこともあります。

では、どんな業種に同族企業が多いのでしょうか。東京、大阪、名古屋証券取引所の第1部・第2部に上場している企業を大株主のタイプ(支配的株主不在、同族支配、法人少数支配、法人過半数支配)や同族出身の経営者の有無で分類すると、資金力が必要な鉄鋼や化学といった一部の業種を除き、どの業種でも20%以上の企業が同族出身者によって経営されています。

ここで注目すべきは、同族出身の経営者比率が46.7%ときわだって高い「医薬品」の業種でしょう。この業界には誕生したばかり、事業承継したばかりというベンチャー系や、武田薬品工業や塩野義製薬のような大きな同族企業が多数あります。同族企業は、研究開発投資が相対的に少ないといわれていますが、なぜ研究開発集約的な医薬品で同族企業が多いのでしょうか。その理由は、医薬品業界はある領域を深掘りすることでイノベーションを起こすことが可能な業界だからだと思われます。

一例をあげれば、小野薬品工業は、同族経営であった1970年代、プロスタグランジンという物質の研究を継続し、派生的に多くの薬品を生み出してきました。研究開発費は多くないものの、ニッチな分野を深掘りし、得意技を磨くことによってイノベーションを起こす。これは同族企業のひとつの勝ちパターンといえるでしょう。

「各業界における同族支配・同族出身経営の企業の割合」

同族企業のメリットとデメリット

同族企業にはいくつもの利点があります。ひとつは所有と経営が一致しているため、スピーディな意思決定が可能なこと。持ち株比率が高ければ株主や株式市場からストップをかけられることもなく、強力なリーダーシップで経営の指揮を執ることができます。エージェンシー理論(*)でいうところのエージェンシーコスト(非効率性の発生や企業価値の減少)が抑えられるのです。

ソシオエモーショナルウェルス(社会情緒的資産)を維持しやすいのも同族企業の利点のひとつです。家訓やミッション、バリューが明確で、利害関係者の協力を得やすく、長期的な視点で経営を見据えることができます。経営に必要なノウハウや考え方を継承しやすく、ミッション達成に必要な能力を蓄積・強化するためにさまざまな利害関係者と継続的関係を結べるのは同族企業の大きなメリット。次期後継者が早くから確定しているため、若いうちから重要な任務を担わせ、経営者としてのトレーニングを時間をかけて行うことができるのも同族企業ならでは、です。

一方、デメリットがないわけではありません。所有と経営が一致しているために、経営者の独善的な行動や暴走が起きやすいのです。同族での結びつきが強すぎるあまりに身内をひいきし、それによって従業員のモチベーションが低下してしまう…。これも同族企業でよく見られる現象です。先ほど、次の経営者が決まっていることで早くから帝王学を身につけやすいという利点を述べましたが、これは反面、経営者の候補が限られていて、優れた経営能力を持った人材が社長の選択肢からはずれてしまう可能性があることを意味しています。同族企業の悪い面が露呈してしまったケースは無数にありますが、経営者と後継者で建設的な議論を行い、守り続けるものと変えるべきものとを明確に見定めることができれば悪い面を抑えられるのではないかと思います。

逆に同族企業の利点をうまく活かしている例をご紹介しましょう。それはハウス食品です。日航機の事故で社長の浦上郁夫氏が急死された後、右腕だった方が社長を引き継いでいる間、急遽入社されたご子息の浦上博史氏は企業理念の改定を行いました。社是、社訓、先輩社員から教えられた「社旗の由来」にまでさかのぼり、創業の理念である「幸福な家庭」を中心に企業理念を改定しました。さらに、企業理念を浸透することこそが大事だと考え、社内誌に企業理念に関する文章を連載したり、理念について社員が学べるようなケースを盛り込んだ冊子をつくり、それを教材にワークショップを開催したりしました。創業時のバリューは守り続ける対象に値しますが、絶対的なものではありません。他方、一新させればよいわけでもありません。時代に合わないと思われる部分は解釈し直し、社員や利害関係者と議論しながらあらゆる角度から理解を深めることが重要なのです。

*エージェンシー理論
あらゆる組織や人間関係を「依頼人(プリンシパル)」と「代理人(エージェント)」でとらえる経済理論

 

バリュー解釈のリニューアルは必須

先ほど、同族企業は研究開発投資が相対的に少ないと述べましたが、設備投資についてはその逆です。マーケット全体が停滞しているときや変動しているときでも投資を減らさず、「我慢強い投資」を続ける傾向があります。事業の継続・成長のために構築した従業員やパートナーとの協力関係が、投資の減少によって損なわれるのを避けたいからだと考えられます。

少ない研究開発投資は同族企業のリスク回避傾向の表れですが、「我慢強い投資」は利害関係者との継続的関係の重視がリスク回避を上回っているのでしょう。この矛盾する2つの傾向はグローバル展開にも見て取れます。積極的に海外進出しようという同族企業は少数派ですが、いったん進出するとなかなか撤退しません。現地で構築した人的ネットワーク、ソーシャルキャピタルを大切にするからでしょう。

一般的に同族企業はグローバル展開に消極的と考えられますが、積極的に海外展開を図る企業もあります。そのような企業の経営者は、留学の経験があったりして、海外志向が強い場合が多いです。国際経験が乏しい同族経営者がグローバル展開しようとする場合、海外事業の経験が豊富な人材を外部から招へいするのもひとつの手です。ただし、むやみに外部人材に頼ると、ファミリー・バリューの共有・浸透が低下し、同族経営のよさが失われてしまう危険性もあります。

海外進出が常に「是」ではないので、リスクを取って行動するのか、無理せず現状を維持するのか、経営者は選ばなければなりません。どちらにしても重要なのはバリューを見直し、何がよかったのか、何を守り、何を変えるべきかを考えることです。そして、事業のやり方や事業機会の見つけ方において新しい視点を導入すること。企業価値の継続には、時代や環境によって見方や解釈をリニューアルすることが肝要なのです。

 

お話を聞いた方

早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)教授
淺羽 茂(あさば しげる)

東京大学経済学部卒業。東京大学より博士号(経済学)を取得。カリフォルニア大学ロサンゼルス校よりPh.D.(Management)取得。学習院大学教授等を経て、2013年より現職。日本甜菜製糖株式会社、沖電気工業株式会社の社外取締役。組織学会会長、公認会計士試験委員等を歴任。Academy of Management Review、Family Business Reviewなどの国際的な主要経営学術誌に論文を掲載。『日本企業の競争原理―同質的行動の実証分析―』(東洋経済新報社)、『企業戦略を考える』(日本経済新聞出版)など、経営戦略や経済学に関する著書多数。

 

[編集]株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所
[企画・制作協力] 東洋経済新報社ブランドスタジオ