経営者がいま読むべき本6冊 「イノベーションを起こす」編
目次
昨今では「イノベーション」に関する書籍が数多く出版されていますが、どの本にもその明確な答えは書かれていません。なぜならイノベーションを起こすとは、製品やサービス、組織形態、規模予算、そして担い手など、それぞれの現場固有に存在する課題であり、一様に解決することができないテーマだからです。しかし、それぞれの著者は膨大な事例と叡智、法則によって体系化しようと試みています。今回はそんな6冊を厳選。自身のビジネスに照らし合わせて読み進めれば、身近なところにそのヒントがあることに気づかされるはずです。
①『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』
P.F.ドラッカー著 ダイヤモンド社 1,760円(税込)
イノベーションを起こすために、まずは読みたい経営者必読の書
企業家にもっとも影響力を持つといわれる思想家、ピーター・F・ドラッカー氏。彼が1985年に執筆した『イノベーションと企業家精神』は、世界中のビジネスマンに大きな衝撃を与え、初版から38年が経過したいまも読み継がれています。イノベーションのバイブルともいわれる同書から重要事項を抽出し、エッセンシャル版としてまとめられたのがこの一冊です。
全20章が3部構成で展開されており、その第1部「イノベーションの方法」では、イノベーションの機会をいかに見出すかが検証されます。
とくにその第2章では、「イノベーションの機会は7つある」と定義され、本書全体の主軸となるテーマを提示。うち4つは組織内で発生するものとして「予期せぬことの生起」「ギャップの存在」「ニーズの存在」「産業構造の変化」が列挙され、また、その他にも組織外で起こる事象として「人口構造の変化」「認識の変化」「新しい知識の出現」があると分析。その解説を進める上で「イノベーションを起こすきっかけが、いかに身近なところに潜んでいるか」を紹介しています。
著者は、「成功したイノベーションのほとんどが平凡である」としつつも、同時にそのヒントの多くが「財務諸表からは見えない」ことも指摘。IBM、デュポン、フォード、メイシー、マクドナルドなど、誰もが知る世界企業の事例を引用しつつ、これらの企業家たちが何を見落とし、何をチャンスに変えてきたのかを具体的に分析し、解説しています。
第2部「企業家精神」では、イノベーションの担い手である組織に関する分析が行われています。「既存企業」「公的機関」「ベンチャー」と、形態別に3つの章に分けているので自社に当てはめやすく、それぞれの組織における政策、原理、志向などについて示唆が与えられています。
また第3部「企業家戦略」では、いかにイノベーションを成功させるかが検証されますが、その手段は「総力戦略」「ゲリラ戦略」「ニッチ戦略」「顧客創造戦略」に分類され、その効果とリスクを解説しています。
翻訳は、著者の分身とも評された上田惇生氏。簡潔ながら含蓄ある文章が平易な文体でつづられています。
②『イノベーションの考え方』
清水洋著 日本経済新聞出版 990円(税込)
経営学をベースに多角的にイノベーションを起こす方法を考える
イノベーションに関する書籍の多くがケーススタディを重視するなかで、経営学者である清水洋氏(早稲田大学商学学術院教授)が著した本書は、100年にわたって積み上げられてきたイノベーション研究をベースに執筆されています。
イノベーションを「経済的な価値」をもたらす「新しいモノゴト」と定義する清水氏は、それを常にセットで考えることの重要性を説きつつ、第1章の「イノベーションの基本から考える」では、既存のモノゴトを破壊するほど新規性の高い「ラディカル・イノベーション」と、既存のモノゴトに改良を加えた「インクリメンタル・イノベーション」に大別。新しい技術によるものだけではなく、経済的な価値をもたらすイノベーションに着目し、さらにそれら革新を生み出すための「知識」と、それに必要となる投資・費用に関する考察も加えていきます。
「イノベーションにはパターンがある」と題される第2章では、過去の事例にとどまらず、製品やサービスにおける「プロダクト・イノベーション」と、生産工程における「プロセス・イノベーション」に大別し、その規則性が検証されています。
こうした斬新なイノベーション論が語られた上で、第3章では組織、第4章ではマネジメントにおける重要ポイントが明かされ、「誰がイノベーションを生み出すのか」と題された第5章では、「アントレプレナー」(イノベーションを生み出す人)を、性別と年齢、心理的な特性など、あくまで客観的に検証。企業家や、組織内でイノベーションを担う人、またはサポートする人の必要性を確認しつつ、目的の設定に関する話題へと発展していきます。
そして第6章では、イノベーションを起こすための戦略、第7章では会社の在り方にまで言及され、著者が構築してきた話題が総括されています。
経営学をベースに客観的・理論的に構築されている点が斬新であり、各章に散見されるグラフは、さまざまな角度からイノベーションを捉えて理解するために重要な役目を果たしています。
③『イノベーションはいかに起こすか——AI・IoT時代の社会革新』
坂村健著 NHK出版 880円(税込)
IoTサービス生みの親がイノベーションを起こすヒントを提示する
昨今ではさまざまなIoTサービスが一般化し、現代に浸透しつつあるツールになっています。そのシステムに組み込むOSとしては「TRON」(トロン)が世界標準とされていますが、それを構築したのが工学博士、坂村健氏です。世界に先駆けてIoTを提唱してきた坂村氏が、AI・IoT時代にイノベーションを起こすためのヒントを提示しているのが本書です。
TRONが「オープン」なコンピュータ・アーキテクチャーであるように、情報通信技術がイノベーションに大きく関わる現代においては、オープンという考え方がキーワードになる、と坂村氏は語ります。
自宅にある機器をスマホから遠隔操作できるものの、自社の専用アプリでしかアクセスできない日本メーカーの考え方は「クローズ」であり、機器を制御するプログラムへのアクセス方法をオープンにし、他のプログラムからも接続できる状態こそがIoTといえる、と坂村氏は述べ、こうした思考へ転換しなければ世界から後れをとると危惧します。
また、イノベーションに教科書はなく、挑戦を繰り返すしかない、と主張する坂村氏は、昨今の重要課題であるAIに関するケーススタディを列記。その話題は量子コンピュータ、ニューラルネットワーク(神経回路網)、ディープラーニング、その技術を活用して最強の棋士に勝利した「アルファ碁」にまで及びます。それら事例からは先端技術の現状だけでなく、開発者の志向や、その技術が突破しようとしている世界までも理解できます。
本書の話題はさらに、先端技術を発展させるためのプログラミング教育、フィンテック、電子政府の在り方、法整備にまで発展しつつ網羅。イノベーションを起こすために重要なヒントとなるIoT とAIを軸に、多岐にわたる話題が深く語られます。
④『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』
クレイトン・クリステンセン著 翔泳社 2,200円(税込)
「現代の古典」ともいわれる同タイトルの増補改訂版。「偉大な企業はすべてを正しく行うが故に失敗する」と主張する著者が、破壊的イノベーションの法則を掲げつつ明晰な事例分析を展開。なぜイノベーションを起こすのか。その本質を知ることができる。
⑤『破壊的イノベーションの起こし方: 誰でも使えるアイデア創出フレームワーク』
松本勝著 東洋経済新報社 2,860円(税込)
破壊的イノベーションとは「他人の幸せな人生」をデザインすることだと定義する著者が、そのアイデア創出プロセスをフレームワーク化し、数多くの事例を紹介する画期的な一冊。実践的にイノベーションを起こす方法がつかめる。
⑥『日本の企業家11 安藤百福 世界的な新産業を創造したイノベーター』
榊原清則著 PHP研究所 2,640円(税込)
「チキンラーメン」が1958年に発売される以前、世界にインスタントラーメン市場は存在しなかった。その新産業をたった一人で発明し、発展させた偉大な企業家、安藤百福。その経営哲学を読み解きながら、イノベーションを起こすヒントを探る。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
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