インパクト投資とは~ソーシャルファイナンスとは何か?③
目次
記事公開日:2020/12/04 最終更新日:2023/05/24
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①「ソーシャルファイナンスとは」
②「ソーシャルIPOとは」
地球環境や経済活動の持続可能性が問われる中で、金融の力を積極的に活用することで社会的価値の実現を目指す、インパクト投資の重要性がクローズアップされてきています。世界の社会起業家や投資家の間で注目されているインパクト投資・社会的インパクト投資の動向を解説していきます。
世界で注目される「インパクト投資」「社会的インパクト投資」
今、世界の社会起業家や投資家の間で、「インパクト投資」(Impact Investment)/「社会的インパクト投資」(Social Impact Investment)が注目されています。「ソーシャルファイナンスとは」の回で述べたように、2015年に国連が2030年までに達成すべき「貧困の根絶」「ジェンダーの平等」「気候変動への対策」「質の高い教育の実現」などの17分野のSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を採択したことや、足元の新型コロナウィルス(COVID-19)の流行で、改めて地球環境や経済活動の持続可能性が問われる中で、金融の力を積極的に活用することで社会的価値の実現を目指すインパクト投資の重要性がクローズアップされてきています。
今回は、こうしたインパクト投資の動向を、GIIN(the Global Impact Investing Network)の”Annual Impact Investor Survey”や、SIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)のアニュアルレポートなどの記述を中心に解説していきたいと思います。
インパクト投資とは?GIINの定義
GIINはインパクト投資の活性化を目的に、2010年にロックフェラー財団を中心とした投資家によって創設された非営利団体で、インパクト投資家のグローバルなネットワークの構築、社会的・環境的な社会的インパクト評価指標の標準化を行っています。
GIINの定義によれば、インパクト投資とは、「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資」のことです。
GIINでは、インパクト投資の4つの中核的な特徴を、以下のように定義しています。
①明確な意図をもって、投資を通じて、財務的なリターンと並行し環境や社会にポジティブなインパクトをもたらすことに貢献していること
Intentionality: Impact investing is marked by an intentional desire to contribute to measurable social or environmental benefit. Impact investors aim to solve problems and address opportunities. This is at the heart of what differentiates impact investing from other investment approaches which may incorporate impact considerations.
②エビデンスやインパクトデータを活用して投資戦略を設計すること
Use Evidence and Impact Data in Investment Design: Use Evidence and Impact Data in Investment Design: Investments cannot be designed on hunches, and impact investing needs to use evidence and data available to drive intelligent investment design that will be useful in contributing to social and environmental benefits.
③インパクトパフォーマンスの把握を通じて投資をマネージしていること
Manage Impact Performance: Impact investing comes with a specific intention and necessitates that investments be managed towards that intention. This includes having feedback loops in place and communicating performance information to support others in the investment chain to manage towards impact.
④インパクト投資の発展に貢献していること
Contribute to the Growth of Impact Investing: Investors with credible impact investing practices use shared industry terms, conventions, and indicators for describing their impact strategies, goals, and performance. They also share learnings where possible to enable others to learn from their experience as to what actually contributes to social and environmental benefit.
インパクト投資の分類~OECDの定義、要件
インパクト投資にも、経済的リターンをどの程度追求するかの幅によって様々なものがあります。OECDの分類に従えば、下図のように、社会的リターン及び市場平均を下回る経済的リターンを期待する「社会的投資」と、社会的リターンと同時に市場平均並みのリターンを期待する「インパクト投資」の2つが「社会的インパクト投資」として定義されています。
尚、ここでOECDは「社会的インパクト投資」を「社会的投資」と「インパクト投資」の二つに分けていますが、言葉の定義としては、「社会的インパクト投資」は「インパクト投資」に置き換えられつつあります。従って、ここでの「社会的投資」と「インパクト投資」は、それぞれ「経済的価値をある程度犠牲にしても、社会的価値を実現することにウェートが置かれている投資」と「社会的価値と経済的価値に均等にウェートが置かれている投資」と理解してください。
OECDの定義でも、インパクトをもたらすという意図だけでなく、インパクトをもたらすためのガバナンスが機能しているかという点など、成果にコミットする体制を整えることが、インパクト投資の要件として求められています。また、インパクト評価についても同様で、定性的評価、定量的評価、金銭換算のいずれかの手法により、公式的な評価を実施することがインパクト投資の要件のひとつであるとしています。
ファイナンスの目的別に見た資金の分類
また、世界銀行グループのIFC(International Financial Corporation、世界金融公社)は、インパクト投資と従来の投資の違いは、「意図」(Intent)、「貢献」(Contribution)、「測定可能な改善」(Measurable Improvements)の3点にあるとしています。
IFCによるインパクト投資の定義
「インパクト投資とインパクト評価~ソーシャルファイナンスとは何か?④」に続きます。
[参考文献]
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柿沼英理子『社会的インパクト投資シリーズ② インパクト評価をどのように行うか 実施の流れと共通指標を活用した評価事例の紹介』(2020年2月6日),
大和総研グループ https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20200206_021309.pdf(2020/11/23検索)
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https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2019/190628_impact2_j.pdf(2020/11/23検索)
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“2019 Annual Impact Investor Survey 2019” (2019/6/19),GIIN
https://thegiin.org/assets/GIIN_2019%20Annual%20Impact%20Investor%20Survey_web(2020/11/23検索)
著者
堀内 勉
一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。
現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。
主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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