経営者がいま読むべき本6冊 「AIがつくる未来」編
目次
ディープラーニング(深層学習)などの技術によって、昨今改めて注目を集めているのがAI(人工知能)。2022年11月には、マイクロソフト社が出資するOpen AI社がChatGPTを公開するなど、AIがより身近なものになりつつあります。
AI活用によって世界が大きく転換しつつある今、その基礎概念とトレンドを把握することは、ビジネスパーソンの必須課題にもなっています。
そこでおすすめしたいのが、ここに紹介する6冊です。どの作品も人工知能の黎明期から、最新のAI技術に至る歴史が網羅されており、基礎的な知識から非常にわかりやすく解説されています。これらを読めば、AIの今が俯瞰できるでしょう。
①『教養としてのAI講義 ビジネスパーソンも知っておくべき「人工知能」の基礎知識』
メラニー・ミッチェル著 日経BP 2,860円(税込)
これからAI活用を考えるビジネスパーソン必読の1冊
ダグラス・ホフスタッター氏が書いた書籍『GEB』(「ゲーデル、エッシャー、バッハ」の意)が出版されたのは1979年。同書はピューリッツァー賞を1980年に受賞し、人工知能に関して書かれた伝説的な作品となりました。そのホフスタッター氏に師事し、自身もミシガン大学で人工知能の研究に取り組んできたコンピューター科学研究者メラニー・ミッチェル氏が、AIの諸問題を掘り下げ、一冊にまとめたのが本書です。
インターネットにおける圧倒的な検索技術を実現したことで世界企業に成長したグーグル社は、2023年5月、対話型人工知能「Bard」(詩人の意)の試験運用を開始して、大きな話題となりました。ホフスタッター氏とミッチェル氏の二人は、その開発を担ったメンバーたちによって2014年に開催されたAI開発会議に、社外スタッフとして唯一出席した人物でもあります。結果、同社が推し進めるAI技術においても、その黎明期から重要な役割を果たしてきました。
ホフスタッター氏とミッチェル氏は、第一線でAI開発をみずから進めつつ、各時代に活躍した研究者の哲学や主張などを、長期間に渡って見聞きし、検証してきました。
そのため、本書には人工知能開発の各段階におけるトレンドが、非常にリアルに再現されています。AI関連書で必ず取り上げられるチェスやアルファ碁、ニューラルネットワークなどに関しては、他書よりも一歩踏み込み、そこに至る各研究者の考え方やアプローチまでが子細に検証されており、ときには潜在的なリスクや諸問題に対しても言及されています。同時に、つづられる文章は平易であり、たとえ話も多いため、AI技術の基本と流れを学ぼうとする一般的なビジネスパーソンにも読みやすい内容となっています。
解説は松原仁氏(東京大学AIセンター教授)が担当しており、氏いわく、「私が何百冊以上読んで得た知識を、この1冊で得られる」とまで評しています。
②『AI新世 人工知能と人類の行方』
小林亮太・篠本滋著、甘利俊一監修 文藝春秋 1,078円(税込)
AI技術の最先端を知る研究者2人が検証する未来のかたち
「AIに何ができるのか?」、「AIは人間を超えるのか?」という命題に向かい、小林亮太氏(東京大学理数・情報教育研究センター准教授)と、篠本滋氏(国際電気通信基礎技術研究所)の共著によってつづられているのが本書です。
1997年にチェスの世界チャンピオンに勝ち、2017年には囲碁のトップ棋士に勝利するほどの能力をもつAIは、昨今では事務書類の作成だけでなく、企業の人材選別を担う可能性まで高まってきました。そうした現状を見据えつつ、本書の第1部では、「AIに何ができて、何ができないか」が検証されています。
AIは深層学習(ディープラーニング)によって、「画像」「音声」「文章」を認識し、それらを加工して生成することが可能です。最新のGANというアルゴリズムでは、顔写真を異性化したり、表情や動きをアニメ化するレベルにまで達しています。こうした身近な例を挙げつつ最新AI技術を解説。その技術の集大成ともいえる自動運転、株価予想についても言及します。
また、AI技術が「どのように社会を変えるか?」、我々人間がAIに対して「どのように付き合うべきか」について議論されているのが第2部です。農業、酪農、水産業などの第1次産業におけるAIの進出や、第2次産業における製品検査、製造工程の自動化や効率化、生産計画の策定にもAIは実践投入されています。
さらに第3次産業においては、現状ではヒトの目視に頼っている確認作業、問い合わせへの対応、発注や在庫の管理など、高度で複雑な判断が必要とされる業務にまで進出しているAIがレポートされています。
第3部では、スペシャリストである著者二人の視点から、AI開発の歴史と未来が語られます。1950年代にはじまった「記号理論」や「ニューラルネットワーク」は、現在のAI開発においても主要な仕組みであり、そこにディープラーニングが加わることで劇的に進化した経緯が、一般の読者にもわかりやすく解説されています。
最終章は、著者二人による座談会を収録。「AIは人間にとって代わるか?」「AIは人間を超えるAIをつくれるか」が議論され、その話題は人間の「心」にまで及びます。
③『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』
松尾豊著 KADOKAWA 1,540円(税込)
政府有識者としても活躍する松尾豊教授が語る、AIの基礎・歴史・未来
1990年代からAIの開発研究に取り組む著者、松尾豊氏(現・東京大学大学院工学系研究科教授、ソフトバンクグループ社外取締役)が、AI技術の基礎原理と進化をわかりやすく解説する一冊です。
2002年、駆け出しの研究者だった松尾氏が、研究費を獲得するために課題をプレゼンしたときのこと。その場では、他分野の審査担当者から「言葉のネットワークが簡単にできるなどというな」「あなたたち人工知能研究者は、いつも(人工知能が実現すると)ウソをつく」といわれ、衝撃を受けます。
つまり当時は、AIが世の中で大きく取り上げられつつも、実際にはまだ実現しておらず、専門家と世間との間には認識の大きなズレが存在していました。こうした経験を持つ著者は当書の第1章で、AIに対する誤解を晴らし、その内実を明確にすべく、AIの全体像を描きます。
当書の核となる2章から5章では、各時代のムーブメントを枠組みとして、コンピューターがどのような原理のもとで情報を処理し、どのようにその処理速度が向上していったかを、専門知識のない読者にも理解しやすいよう、平易な文章でつづられています。
1950〜60年代の「第1次AIブーム」からはじまる第2章は、「探索」というアルゴリズムが主題。「探索木」(たんさくぎ)と呼ばれるフロー図や、「ハノイの塔」と呼ばれる有名なゲームを紹介しつつ、どうすればコンピューターが速く、効率よく解にたどり着くかが解説されています。やがてこの演算工程は、チェスや囲碁将棋など、相手がいることによって情報量と選択肢が格段に増加する場合のアルゴリズムへと発展します。
1980年代には、さらに膨大な情報量をスムーズに処理するため、コンピューターに事前に「知識」を入れる手法が取り入れられ、この成功が「第2次AIブーム」へとつながります。コンピューターと会話するボットが登場するのもこのフェーズであり、同時代のアルゴリズムが第2章にまとめられています。
「知識」のインストールによって、演算効率が格段に高まりつつも、それは限定されたパターンでしかありません。それを打開したのが、「機械学習」(第4章)と「ディープラーニング」(第5章)です。このブレイクスルーが「第3次AIブーム」を引き起こし、今我々はそのただ中にいることが示されています。
松尾氏は第6章で、ディープラーニングの先にある課題として「人工知能は人間を超えるか」という問いに関して考察し、また終章では、将来的に予想される「変わりゆく世界」を検証しています。
④『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線』
紺野大地・池谷裕二著 講談社 1,760円(税込)
脳を改造し、AIとつないだとき、何が起こるのか? 言葉を必要としない通信、欲望の制御、思考の可視化など、SFのような技術の実現を目指す脳研究者たちが、人類の限界に挑戦する姿を描く本。
⑤『人類の歴史とAIの未来』
バイロン・リース著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2,420円(税込)
かつてない可能性を秘めつつも、多くの知識人が警鐘を鳴らすAI。その実態を明らかにするため、言語が発明された太古までさかのぼって人間の本質を問いつつ、来るべき未来を検証する。
⑥『ニュートン別冊 ゼロからわかる人工知能 完全版』
ニュートン編集部著 ニュートンプレス 1,980円(税込)
じつは70年前から研究されてきたAI。この技術が飛躍的進化を遂げたのは「ディープラーニング」によるものだ。本書ではAIの最前線、研究者インタビューのほか、未来の在り方までを考察する。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
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