「経営者のためのマクロ経済学」のシリーズで、前回は国内の金融取引を取り上げました。今回と次回は、国際的な金融取引を取り上げます。ここでは、国際金融の慣習にならい「お金」を「通貨」と表現します。
モノやサービスの相対的な価格に影響する「為替レート」
為替レートは、「ある国の通貨(例:日本の円)」と「別の国の通貨(例:米国のドル、中国の人民元)」の交換比率です。それぞれの国内では、「日本のモノは円」「米国のモノはドル」といったように表示がなされているため、価格を比べるには為替レート(日本・米国間でいえば、円ドルレート)が必要になります。円ドルレートが1ドル100円であったとき、1,000ドルの価格がついている米国製のパソコンは、円換算すると10万円(=1,000ドル×1ドル100円)になります。
円ドルレートが、1ドル100円から1ドル110円になった場合は円安(ドル高)、1ドル90円になった場合は円高(ドル安)です。100円を支払えば1ドルのモノを買えていたのが、110円を支払わないと1ドルのモノを買えなくなってしまうことから、「円」の価値が相対的に「安」くなっていると分かります。
日本から米国に1台100万円の自動車を輸出し、日本が米国から1箱100ドルのオレンジを輸入する場合、円ドルレートが1ドル100円から1ドル110円に変わると、米国における日本車の販売台数は増え、日本におけるオレンジの販売個数は減ることになります。なぜなら、各国の通貨に換算すると、自動車の価格が「1台1万ドル(=1台100万円÷1ドル100円)」から「1台9,091ドル(=1台100万円÷1ドル110円)」へと下がり、オレンジの価格が「1箱1万円(=1箱100ドル×1ドル100円)」から「1箱1.1万円(=1箱100円×1ドル110円)」へと上がることになるためです。円安になると、日本の輸出数量は増え、輸入数量が減りますので、日本の貿易収支(=輸出額-輸入額)にはプラスに作用することになります。
円安になると、米国のオレンジを食べたい消費者は、価格の値上がりによって損をすることになります。一方で、米国のオレンジと競合するオレンジを国内で生産・販売する企業は、ライバル商品の値上がりによって得をすることになります。
自動車やオレンジといったモノだけでなく、サービスにも円安の影響は及びます。日本人が米国に旅行をすれば、米国のホテルに宿泊するためのドルを得るのにより多くの円が必要となり、損をします。一方で、日本に旅行する外国人は、よりお得に日本のホテルに宿泊することができます。
資産の相対的な儲けに影響する「為替レート」
これまで、為替レートの「モノやサービスの相対的な価格」に対する影響を見てきましたが、ここからは「資産の相対的な儲け」に対する影響を見ていきます。
国と国の間で取引される資産の例として、国が発行する有価証券(証券市場で売買の対象となる文書)である国債があります。米国債1枚の価格が1ドル、米国の利子率(今年1単位借りたとき、来年何単位余分に返さないといけないか)が1%だとすると、米国債を1年間持っていると元本と合わせて1.01ドルが支払われることになります。そして、この米国債を日本の金融機関が購入する場合、利子率だけでなく為替レートも気にする必要があります。なぜなら、今年の為替レート1ドル100円が、来年にかけて1ドル110円になるとすると、日本の金融機関が持っていた1枚1ドルの米国債の価値は10%が上がり、それだけ為替差益を得る(為替レートの変動で得をする)ことになるためです。
【参考文献】
塩路悦朗(2019)『やさしいマクロ経済学』日本経済新聞出版社