インパクト投資市場~ソーシャルファイナンスとは何か?⑤

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記事公開日:2021/01/15    最終更新日:2023/05/26

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①「ソーシャルファイナンスとは」
②「ソーシャルIPOとは」
③「インパクト投資とは」
④「インパクト評価とインパクト投資」

2018年の世界のインパクト投資の運用総額は約2,390億ドルとなっています。世界で1,340の機関投資家が社会的インパクト投資を行っており、アンケートに回答していない投資家の運用額も加えると、運用資産額の合計は5,020億ドルに上ると推計されるとしています。
世界と日本におけるインパクト投資市場の動向を解説します。

インパクト投資市場の規模

GIIN(Global Impact Investing Network)が実施した2018年末時点の調査”Sizing the Impact Investing Market”によると、2018年の世界のインパクト投資の運用総額は約2,390億ドルとなっています。世界で1,340の機関投資家が社会的インパクト投資を行っており、アンケートに回答していない投資家の運用額も加えると、運用資産額の合計は5,020億ドルに上ると推計されるとしています。

投資先地域は、北米向けが28%、中南米向けが14%、サブサハラ・アフリカ向けが14%、欧州向けが10%、投資先分野としては、金融サービス(マイクロファイナンス13%、その他金融サービス11%)、エネルギー(15%)、食料・農業(10%)が中心となっています。

また、機関投資家の内、本部所在地が北米またはヨーロッパ(東ヨーロッパを除く)にある割合が8割と大部分を占める一方で、東アジアは2%に留まるとしています。

世界のインパクト投資市場

現在、世界最大のインパクト投資ファンドと言われているのが、アメリカのプライベート・エクイティ・ファンドであるTPGキャピタルのインパクト投資部門が運用するライズファンド(Rise Fund)の2号ファンドで、25億ドル(約2,600億円)の規模と言われています。TPGキャピタルが2017年に募集した1号ファンドは、20億ドルを集めましたが、2号はそれを上回る規模になっています。

当ファンドには、日本生命が約20億円を投資すると報じられています。日本生命は、国内でも社会課題の解決に取り組むスタートアップ企業を対象に毎年100億円を投資して、3年後には年間300億円規模を投資する計画であるとされています。

日本のインパクト投資市場

日本におけるインパクト投資市場も、少しずつではありますが、成長を続けています。GSG国内諮問委員会による2019年度のアンケート調査の結果、日本におけるインパクト投資市場は、市場規模の推計値が2017年に718億円だったのが、2019年には4,480億円にまで成長したことが確認されました。

例えば、国内において、昨年、日本インパクト投資2号ファンドという本格的な社会的インパクト投資のファンドが組成されました。新生銀行グループ単独で組成された1号ファンドとは異なり、本ファンドには、新生銀行グループ以外の財団(SIIF)、金融機関(みずほ銀行、三井住友信託銀行等)、事業法人、学校法人が共同GPやLPとして参画しています。ファンド規模は、2019年12月末時点で26億円と公表されています。

日本インパクト投資2号ファンドのイメージ

新生銀行グループ2019年6月28日プレスリリースより抜粋

国内のインパクト投資市場の動向

日本初の本格的なベンチャー・フィランソロピー組織である一般社団法人ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)と日本財団が共同して運営にあたっている日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)も立ち上がっています。ベンチャー・フィランソロピーというのは、成長性の高い非営利組織や社会的企業に対し中長期にわたり資金提供と経営支援を行うことで事業の成長を促し、社会課題解決を加速させるモデルのことです。

JVPFは資金提供と経営支援を通じて社会的事業を行う組織の成長をサポートし、社会的インパクトを拡大するために設立された国内初の本格的なベンチャー・フィランソロピー(VP)基金で、寄付と同時にインパクト投資も行っています。

グロービス経営大学院系の一般財団法人KIBOWも、社会課題の解決に寄与する起業家に対する支援活動として、当財団のメンバーが出資する形でインパクトファンドを立ち上げており、現在、KIBOW社会投資ファンド1号、2号を運用しています。

その他、2020年には日本政策投資銀行(DBJ)が、イギリスのBridges Fund Management Limitedが組成するソーシャル・インパクト・ボンドを対象としたファンドに対して出資を行い、Bridges Fund Managementと戦略的パートナーシップ関係を構築する業務協力合意書を締結しました。

インパクト投資とESG投資の違い

インパクト投資としばしば対比されるのがESG(Environment, Social, Governance)投資です。環境(Environmental)、社会(Social)及びガバナンス(Governance)への配慮を投資判断の基準にするESG投資は、責任ある投資を行う上での世界共通のスタンダードとなっています。

但し、ESG投資の目的はあくまで経済的リターンの獲得であるのに対し、インパクト投資については初めから具体的な社会課題の解決を目的としている点に大きな違いがあります。

ESG投資を始めとする社会的投資の分野における足元の動向については、次回、詳しく解説したいと思います。

事業会社によるベンチャー投資を、インパクト投資に活用する動きが活発化

[参考文献]
『アニュアルレポート2018』,SIIF
http://www.siif.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/SIIF_annual_report_2018.pdf(2020/11/23検索)
柿沼英理子『社会的インパクト投資シリーズ①「社会的インパクト投資」とは何かSDGsの達成に貢献する、持続可能な資金の流れを作るには』(2019年10月24日),大和総研グループ
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20191024_021099.pdf(2020/11/23検索)
柿沼英理子『社会的インパクト投資シリーズ②インパクト評価をどのように行うか実施の流れと共通指標を活用した評価事例の紹介』(2020年2月6日),大和総研グループ
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/20200206_021309.pdf(2020/11/23検索)
新生銀行グループ2019 年6 月28 日プレスリリース
https://www.shinseibank.com/corporate/news/pdf/pdf2019/190628_impact2_j.pdf(2020/11/23検索)
『日本におけるインパクト投資の現状2019』(2020/3/21), Global Steering Group for Impact Investment(GSG)
国内諮問委員会 http://impactinvestment.jp/doc/gsg-2019.pdf(2020/11/23検索)
『持続可能な開発のための2030アジェンダ』(2019/9/26),外務省
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“Core Characteristics of Impact Investing” ,GIIN https://thegiin.org/characteristics(2020/11/23検索)
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“The GIIN Launches IRIS+: The New System for Managing Impact“,IRIS+
https://thegiin.org/assets/IRIS+%20Press%20Release_Final.pdf(2020/11/23検索)
“2019Annual Impact Investor Survey 2019” (2019/6/19),GIIN
https://thegiin.org/assets/GIIN_2019%20Annual%20Impact%20Investor%20Survey_web(2020/11/23検索)

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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